ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』
ネットフリックスによる、米国政治の世界を舞台としたドラマシリーズをご紹介します。
『ゲーム・オブ・スローンズ』が好きだった人ならきっと刺さる、権謀術数とパワーゲームの物語です!
頑張りますが一部ネタバレします。
あらすじ
米国ホワイトハウスにて、民主党議員のギャレット・ウォーカーが新大統領に任命された。
民主党議員のフランシス・アンダーウッド(フランク)は、選挙戦勝利のあかつきには国務長官に指名される予定だった。
しかし、ウォーカーの大統領就任直後、約束を反故にされてしまう。
怒りに燃えるフランクは、何としても望む権力を手にするため、妻クレアや秘書ダグとともに壮大な計略を企てる。
ドラマとしての見どころ
主人公フランクの望みはシンプルです。
それは、圧倒的な権力を手にすること。
「消えたり目減りしたりする可能性のある富より、持続するパワーである権力のほうがはるかに魅力的だ」という信念を持つ彼。
とにかく権力を持てれば良いので、自分の行動が正しいかどうか、などという問いはフランクの前でまったく意味を持ちません笑
演技、懐柔、合法違法の脅迫、ハニートラップ、あらゆる手段で権力を求めます。
当然、その強引さや、権謀術数の招く結果に違和感を覚える周囲から反発が出ることもあります。
しかし、相手を黙らせる手段もばっちり用意してあるので、彼らのこともとにかく押さえつけて前へ前へと進みます。
ホワイトハウスの面々はフランクとどっこいどっこいの腹黒さを誇るため、たいてい叩けばホコリが出てくるんですよね笑
人間としては極悪なはずのそんなフランクのことが、あまりに信念ブレなくて嫌いになれません。
現実世界ではこんな人が権力の頂点に立つのは嫌だと思うんですが、ドラマを観ているうちに気付けば共感し、応援していた人も多いのでは。
「何かを変えたいなら、正当な手段orクリーンな方法云々より、決定権限者に掛け合え」という社会人の鉄則も教えてくれる作品です笑
クレアというパートナー
フランクを支える結婚30年の妻がクレア・アンダーウッドです。
テキサスの裕福な家庭出身で、ハーバード大学法学部出身の彼女は、才色兼備のセレブリティ。
議員として駆け出しだったフランクを、実家の資金力で選挙戦に勝たせたという戦略的パートナーでもあります。
そして何より、フランクの権力への欲望を分かち合い、腹黒さも含めて認め合っている特別な絆がある。
なので、理屈でいえばフランクにとって最強のパートナーのはずなのに、ちょくちょく予測できない行動を引き起こします。
元カレになびいてみたり、世間からの目が気になるタイミングで出奔してみたり。
フランクの情動がブレずにわかりやすい分、クレアが不確定なパラメータになってストーリーを引っ掻き回す役割になっています。
議会の腹黒い面々をいかに出し抜くか、世間の目をいかに躱すかだけでなく、最愛の妻であり戦略的パートナーであるクレアとの関係をいかに維持するか、も重要な意味合いを持っているんですね。
チームの面々
クレア以外にも、フランクを支える重要なメンバーがいます。
筆頭秘書のダグ・スタンパーや、警護のエドワード・ミーチャム、ロビイストのレミー・ダントン、ほかにも広報担当官や伝記作家、選挙対策コンサルタントなどが登場。
彼らの人間模様もまた、見逃せない要素の一つです。
出世したい野心は誰にでもあるうえ、フランクとの特別な絆を維持したい気持ち、いっぽうで偶然かかわった一般人への思いがせめぎあったり。
というわけで、彼らもクレアとどっこいどっこいに不安定です。
基本的にメリットのあるときにしか強調せず、ビジネスと割り切った議員仲間との関係のほうが健全じゃないかと思うくらい。
ダントツで不安定、かつ出番も多いのがベテラン秘書のダグ・スタンパー。
仕事一筋の独身男性で、アルコール依存症を克服した過去があります。
しんどい仕事をこなしつつ、アルコールの誘惑に打ち勝とうとする彼は、フランクを後押しするとある作戦の過程で、ひとりの女性と親しくなります。
この関係が後々まで尾を引き、ダグを明に暗に苛むことに。
広報担当のセスへの嫉妬や、選挙コンサルであるリアンへの対抗意識など、ある意味でもっとも人間味にあふれた人物と言えます。
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シーズンごとの楽しさ
ほかの海外ドラマの名作と同じく、本作も脚本の密度が高く、展開が速いという特徴があります。
そのため、シーズンを追うごとにフランクたちを取り巻く環境も変わっていきます。
国務長官になる約束を覆され、絶対に復讐してやると誓うのがシーズン1冒頭。
そして、転んではただでは起きないというか、手に入るはずだった権力をただ取り返すだけでは済みません。
手段を選ばず、当初の目的を達成してもさらにその先へと進みます。
シーズン2になるとある程度の権力を手にし、闘う相手が絞られてきます。
そのためシーズン1ほどの盛りだくさん感(フロントラインにいるからこその泥臭さや、どこから弾が飛んでくるかわからない緊張感)はないかもしれません。
しかし、フランクのターゲットがより高みに引き上げられ、クレアとの連携も深まっていく展開は見ごたえがあります。
出世してポジションが上がれば上がるほど、野望を叶えるハードルは下がり、敵を倒すパワーは増していくなかで、次シーズン以降どう緊迫の展開が続いていくのか……と思いましたが、そこは心配無用。
ついに大統領の椅子を手にしてシーズン3に突入すると、強敵が現れます。
これまでは国内で権力闘争していれば良かったのに、今度は外交上の敵が登場。
すなわち、「これ明らかにプーチンだろ」というロシアトップが出て来たことで、シーズン2の停滞が打破されました。
さらに、今まであまりに手段を選ばなかったことの因果が返ってくる形で、フランクの足元が揺らぎだします。
汚い手段も厭わなかったせいで、きれいごとを言っても最早誰も信じてくれません。笑
情緒ではなく損得勘定に訴えて味方につけようとしても、「たとえメリットがあってもこいつと組んで大丈夫なのか?」と警戒されまくりです。
組むメリットがなくなったらあっさり切り捨てられるのは皆知ってますし。
これにより、ストーリーが先の見えなさを取り戻しました。
クレアも絶好調に不安定で、特に後半で揺さぶりをかけてきます。
しかし『ザ・クラウン』のフィリップといい、本作のクレアといい、人は誰かに幸せにしてもらうことはできないんだなと思わされます。
自分で築いたと思える場所でないと本当に満たされることはできなくて、どんなに豊かでも正体不明の焦りや劣等感がつきまとう。
シーズン3序盤でクレアの言った「そろそろ助手席から運転席に移りたい」というセリフがすべてかもしれません。
続くシーズン4でも大事件が起き、ここでもフランクとクレアの関係が大きく変わります。
ふたりの足元を揺るがす新たな因子も着々と力をためていて、さらに先が見逃せません。
映像作品として
やや暗めの色合いの落ち着いた映像や、バリっと決まったビジネスファッション、隅々までリアリティとクールさに満ち溢れた美術など、映像のクオリティは折り紙付き。
さすがは莫大な資金力を持つネットフリックスの御業です。
そして主演のケヴィン・スペイシーとロビン・ライトの安定感がすごい。
脇を支える面々ももちろん強力なのですが、特にクレア役のロビン・ライトの無敵感はときに後光が差して見えます笑
こんなにカメラ映えして、頭脳明晰で、社会貢献NPOまで運営してたパートナーがいたら、いろんな意味で平常心でいられませんね……
演出としては、ときどき主人公のフランクが視聴者のほうをむいて説明を加えたり、感想をつぶやいたりするところが特筆すべきポイント。
最初は何だこれと思うかもしれませんが、世界観が紹介され切っていくにつれ、説明は抑えめになります。
同時に面白さも加速していくので、ちょっと違和感があっても堪えて見続けてください!笑
おわりに
権力闘争をドラマとして芸術的に面白く描き出した作品です。
悪人が主人公という、背徳感のある構成も手伝って、ついつい先を追いたくなります。
ときに展開がずっしり重くなり、見続けるのがつらい時もありますが、それも展開が濃ければこそ。
権力に騙されないために、敵を知るという意味でも、たくさんの方に観ていただきたい作品です。
ハウス・オブ・カード 野望の階段 <シーズン1> ダイジェスト映像 - Netflix [HD]