ドラマ『ダウントン・アビー』
英国ドラマの不朽の名作となった『ダウントン・アビー』シリーズについての紹介レビュー記事です。
シーズン1~3について書いていきます。ネタバレします。
なお、最終シーズン後に公開された劇場版のレビューはこちら。
あらすじ
1912年、タイタニック号沈没。
大西洋発のニュースは、ヨークシャーのダウントン・アビーに邸宅を構えるグランサム伯爵家を揺るがした。
長女メアリーの婚約者であり、同家の相続人だった従兄パトリックが同事故で亡くなったためだ。
男子しか相続人になれない世で、三人姉妹以外に子のない伯爵家の相続は、彼らが顔も名前も知らない若者マシューへ。
大都市マンチェスターで弁護士として働いていたマシューはダウントンに呼ばれ、伯爵家の面々と顔を合わせることに。
貴族制没落の兆しが見え始めた英国社会の片隅で、新しい出会いと静かな変化が生まれようとしていた。
英国と貴族制
ドラマの展開する時代は20世紀前半の英国。
現在も貴族制が存続する英国ですが、この頃は世界的な変化の波が貴族制も揺るがし始めた時期に当たります。
領地経営や豪奢な邸宅の維持に行き詰まり、没落する貴族が出始める時代が訪れるころ、シリーズは幕を開けます。
舞台となるグランサム伯爵家は、当主のロバートとコーラ夫妻、ロバートの母ヴァイオレット、夫妻の子である三人姉妹という家族構成。
当時の英国では限嗣相続制が採用されており、男性しか家督を継ぐことができません。
つまりロバート一家はこのままでは彼の死後、ダウントン・アビーを失ってしまうのですが、長女メアリーが相続権を持つ従兄パトリックと結婚することで問題が解決するはずでした。
ところが、パトリックが突然亡くなったことで事態は暗転。
見たこともない遠い親戚に相続権が移り、弁護士として働いていた彼をマンチェスターから呼び寄せることになります。
貴族制の在り方や、ダウントンの相続問題が通底したテーマとして随所に顔を出し、伯爵家の行く末がどうなっていくのか、というのが本ドラマのひとつの見どころ。
しかし、それだけではなく他にも内容盛りだくさんなところがさらに良いところです。
次項にてご紹介します!
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個性的なキャラクター
このドラマでは、伯爵家の貴族たちだけではなく、そこで働いている使用人たちにも焦点が当てられています。
執事のカーソン、家政婦長のヒューズさん、料理人のパットモアさん、侍女のオブライエンと言ったベテラン勢をはじめ、侍従のベイツ、メイド長のアンナ、下僕のトーマスと言った中堅勢。
若手はキッチンメイドのデイジー、第二下僕のウィリアム、メイドのグウェン等々。
たくさんの登場人物がいますが、すべからく個性的で、各々の事情を抱えています。
それは貴族の面々も同じで、一人として似たような人がいないんですよね。
仕事にプライドを持つ執事カーソン、侍従に昇進したい下僕トーマス、戦場でロバートとともに過ごした侍従といったメンズの人間模様、ウィリアムに想いを寄せられるデイジーや下働きの仕事を脱したいグウェンなど、見どころは盛りだくさん。
私のお気に入りは、生まれついての主人公体質のメアリーです。
とにかくモテてそれを自分でもわかっている……とだけ聞くとあまり好感度高くなさそうですが笑、自分に対しての厳しさを最後の最後で失わない強さがある人物です。
あとは、優秀だけど気難しいカーソンさんや暴れ馬パットモアさんも御してくれる、安定のヒューズさんがかっこいいです。
中堅メンバーではいつもアナを応援してしまいます。
さらに、各登場人物の社会的な状況や、お互いの階級に対する振る舞い方などの考証がとにかく緻密。
タイピストや秘書など、女性がホワイトカラーとして働き始めたこと、学校教育が浸透し始めたこと、第一次世界大戦での社会の変化など、変わりつつある世の中が登場人物を通して見えてくるところも見ごたえあり。
それもそのはず、本作の脚本家を務めるベテランのジュリアン・フェロウズは、自身が貴族であり、映画『ゴスフォード・パーク』の脚本も手掛けたことから知識も豊富。
使用人たちの生活リズムや人間関係、貴族の振る舞いなどについて新鮮な情報を提供しつつ、情報過多になりすぎないバランスも非常に巧みです。
なお使用人たちの顔ぶれは、退職や転職によってシーズンごとに変わっていきますが、それがまた飽きさせない一因になっています。
密度の濃い展開
良質な群像劇が必ずそうであるように、本作も非常に密度の濃い展開が続きます。
シーズン1だけで、タイタニック号沈没から第一次世界大戦直前までの二年間を描いていますから、自然と凝縮されたシナリオになるのは確かでしょう。
しかしそれ以上に、各キャラクターの化学反応を見ているのがとにかく楽しい。
メアリーとマシュー、ヴァイオレットとマシューの母の主導権争い、メアリーとイーディスの姉妹バトル、ベイツとトーマスの確執などなど、ときに辛辣に、ときにユーモラスに描かれていきます。
しかし、人間のリアルな嫌なところを書きつつも、登場人物への愛が失われないタッチが良いですね。
そのへん卒のない老練な語りは、ベテランのジュリアン・フェロウズだからこそ成し遂げられる技かもしれません。
シーズン1のシナリオを読んだことがあるのですが、とにかくセリフの量が多い。
そして、ところどころについている脚注から、当時の生活や社会に関する洞察がとにかく深いことも印象的でした。
おわりに
個性あふれるキャラクターに目を奪われているうちに、何話も観てしまっているのがダウントン・アビーの世界。
たくさんの登場人物がいるので、誰かしらは自分の納得のいくことを言ってくれるという安心感もあります笑
イギリスの美しい田園風景と、きらびやかな邸宅の映像に癒されつつ、見ごたえある人間ドラマを楽しみたい方におすすめの作品です。