本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『フォレスト・ガンプ 一期一会』

年末年始にぴったりの、心温まる映画をご紹介します。

戦後アメリカの歴史を駆け抜けた架空の人物の活躍を軸に、人生や人の出会いについて考えさせられる名作です。

それでいて押しつけがましさが一切なく、爽やかで温かいファンタジーを観たような不思議な感触も特筆すべき作品でしょう。

ネタバレでお送りします。

 

あらすじ

アラバマ州生まれのフォレスト・ガンプは、人より低い知能指数を持って生まれた。

いっぽうで優れた身体能力と純真な心を持ち、彼の温かさに惹かれた人々との関わりの中で人生を切り拓いていく。

それは戦後アメリカの光と闇を辿る旅でもあった。

母への愛や戦友たちとの友情、そして幼馴染のジェニーへの淡い思いを抱きながら、フォレストは様々な歴史的場面に立ち会っていく。

数奇な運命を経て、故郷アラバマのグリーンボウに帰ってきたフォレスト。

そこへ現れた人物は……

 

特別な主人公

フォレストは、通常より低い知能を持って生まれた男性です。

しかし、母の粘り腰で普通の学校に入学し、地域の子どもたちと学校教育を受けることに。

そこで出会った女の子ジェニーと、生涯にわたって影響を与え合う関係となります。

また、俊足という才能を見出されたことをきっかけに、スポーツ推薦でアラバマ大学へ進学したり、身体能力を買われて軍に入隊したりと、人生を切り拓いていくことに。

さらに、純粋な心の持ち主であるフォレストの元には、様々な人が集まってきます。

ハリウッド映画の主人公と言えば、イケメンで何らかの才能を持っていてモテて、というイメージがありますが、フォレストはそうした枠に当てはまらない存在です。

そして、普通の主人公と一味違った彼のもとに特別なストーリーが展開していきます。

全体を支えるこの設定が、フォレストが損得勘定なく、虚心坦懐に歴史に立ち会ったり、出会った人々との絆を深めていく様子に説得力を与えているためです。

歴史の重要な場面は政治の思惑なども切っては切れない関係にありますが、特定の思想や利害感情を持たないフォレストだからこそ、屈託なく関わることができます。

誰かのピンチを助けるため躊躇いなく駆け付け、傷ついた人にうわべだけの慰めを言ったりしないのも、彼のキャラクターがなせるわざです。


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人々との絆

フォレストを愛し信じぬく母、人生の転換点でいつも再会する女性ジェニーに加え、フォレストは様々な人物に出会います。

特筆すべきは、入隊した軍で出会ったバッバとダン中尉です。

バッバはフォレストと同様アラバマ出身の黒人の若者で、実家の家族と同じようにエビ漁で身を立てることを望んでいました。

純朴な彼とフォレストは意気投合し、一緒に訓練を終えた後にベトナムへ出征。

ダン中尉のもとに配属された二人は、メコンデルタ地域での攻勢に参加。

故郷での穏やかな暮らしを目標としていたバッバですが、この地域での作戦の最中に命を落とし、ダン中尉も負傷し両足を失ってしまいます。

亡くなったバッバはフォレストと同じく、賢くはないかもしれないけれど、優しい心を持った青年。

二人が親友になったのは自然なことだなと納得がいきますが、ダン中尉はそれと対照的な人物です。

彼は膝から下の両足を失ったことで自暴自棄になり、除隊後退廃的な生活を送ることになりますが、何かを求めるかのようにフォレストを訪ねてきます。

そして、自分のやるせない思いや、新しい生きがいを見つけたい気持ちをフォレストにぶつけていきます。

人心の複雑な機微はわからないながらも、優しいフォレストは彼の言葉も行動も拒みません。

バッバと語った夢に沿ってエビ漁の会社を設立し、ダン中尉とともに成功させます。

生きるよすがを失っていたダン中尉の心を救うくだりは、多くの人にとって忘れられない場面のひとつではないでしょうか。

バッバや彼との出会いは配属による偶然であって、それがこんな展開を迎えるとは誰も予測しなかったはず。

まさにフォレストの母が言った、「人生はチョコレートの箱のようなもの、開けてみるまで何があるかわからない(Life is like a box of chocolates. You'll never know what you're gonna get.)」と符合していました。

 

戦後アメリカ史の光と闇

フォレストはフットボールの全米代表として大統領に会い、ベトナム戦争に出征し、ピンポン外交に携わったかと思うと、ウォーターゲート事件を目撃、その後アップルに投資して億万長者になります。

1950年代から80年代の、歴史的イベントや風潮を総ざらいするような人生です。

加えて、その歴史の中を生きるフォレストとジェニーの対照的な立ち位置も印象的。

フォレストの立ち会った歴史がアメリカの光なら、ジェニーは闇です。

一芸があれば推薦で進学できたり、軍に入隊して社会的地位を得られる、あるいは事業や投資で一儲けができると言ったアメリカンドリームを体現するのがフォレスト。

幼少期は虐待に苦しめられ、青年期はヒッピーとして退廃的に暮らし、その後の波乱の中でエイズを患ったジェニーは、アメリカ現代史の暗部を歩んだ人生と言えるでしょう。

そんなジェニーは、人生の岐路でフォレストと何度となく再会するものの、光と闇の相容れなさを象徴するかのように、いつも去って行ってしまいます。

 

最後に選ぶもの

母の旅立ちを見送り、グリーンボウで暮らしていたフォレストに、ある日ジェニーから手紙が届きます。

彼女を訪ねていったフォレストは、小さな息子を紹介されます。

かつて一緒に暮らしていた時に身ごもったフォレストの子どもで、名前はフォレスト・ジュニアだと言います。

エイズに冒されていた彼女は、フォレストと結婚したいと告げます。

驚きつつもジェニーの想いを受け入れたフォレストは、彼女と息子と暮らし始めます。

結婚式には、パートナーを見つけ、義足をつけて新たな人生を歩んでいるダン中尉もお祝いに駆け付けました。

バッバや母はフォレストの人生の途中で旅立ってしまいましたが、ジェニーやダン中尉はフォレストとの関わりで安らぎを得た人として、再登場してくれました。

何度も彼に助けられながら、フォレストの愛を受け入れられず別れを繰り返すジェニーに、反感を覚える人も多いでしょう。

しかし個人的には、不安定な幼少期を過ごし、青春期にも安心を得られなかった彼女が、ようやく帰るべき場所を見つけたことは、純粋に良かったと思えました。

それがフォレストのもとであったことは、彼にとっても幸せだったでしょう。

 

おわりに

特定の時代を色濃く切り取ったストーリーでありながら、色あせない魅力を持つ名作のひとつです。

監督は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのロバート・ゼメキスだと知って、才能の凄まじさに驚愕してしまいました……

露骨な演出はないのに、心が奥から温まり、観終わった後に前向きな気持ちになれる稀有な作品です。

家族や友達と楽しい時間を過ごしたいときに、おすすめの映画です。