デンマーク発の不朽の名作をご紹介します。
国内のみならず国際的な評価も高く、1988年のアカデミー賞国際長編映画賞(当時の外国語映画賞)を受賞しています。
派手なことは起こらないのに、魂が静かに揺さぶられアホほど泣きました。
ネタバレでお送りします。
あらすじ
19世紀後半、デンマークの辺境。小さな漁村に、厳格なプロテスタント牧師の美しい娘、マーティーヌとフィリパが住んでいた。
マーティーヌには若い士官ローレンスが、フィリパにはオペラ歌手パパンがそれぞれ求愛するが、生涯未婚のまま父の仕事を続ける決心をしていた二人は申し出を断る。
父の死後のある嵐の夜、パパンからの紹介状を持った女性バベットが、姉妹を訪ねる。
パリで家族を失い亡命してきた彼女を、二人は家政婦として家におくことにした。バベットはやがて一家になくてはならない一員となり、14年の月日が流れる。
父の弟子たちも年老いて、人間関係がぎすぎすしていくことに心を痛めた姉妹は、父の生誕百周年の晩餐を行うことで皆の心を一つにしようと思いつく。
物語の舞台と背景
冒頭からひと目でわかるとおり、マーティーヌとフィリパ姉妹が暮らす村は「寒村」と呼ぶにふさわしい、小さな村です。
小さなだけでなく、新しい人も物もほぼ入って来ない。昔ながらの倹しい暮らしが繰り返されていくだけです。
さらに、二人の父はプロテスタントの新興宗教を率いる存在。
この世での物質的な贅沢は、すべてかりそめのもの。それよりも、清く貧しく生きて、心の豊かさや、天上の世界へ行ったときに恥ずかしくない内面を磨くことが大事。
当然ながら、新しいものや金銭的な豊かさを求めることからは距離が置かれます。究極の「丁寧な暮らし」ですね。
日本人からすると、ちょっと辛い時、あるいは頑張った時に、いつもより品質の良い物を買ったり、美味しいものを食べたりして、心を支えるのはごく普通のこと。罪悪感を覚える人はあまり多くありません。
しかしこの映画の舞台では、贅沢そのものに警戒心がある。
マーティーヌもフィリパも、求愛してくれる人を受け入れないのは何で?と思う人も多いかもしれませんが、それもまた「この世での快楽や夫婦関係は一時的なもの」「それよりも神様に仕えることが尊い」という宗教的価値観に基づいています。
スポンサードリンク
バベットとは何者か
そんな中で、花の都パリからやってきた元料理人のバベットが、姉妹の家に住み込むことに。
政治的動乱で夫と息子を殺され、パパンの仲介で命からがらフランスから逃れてきたのです。
辛い過去などなかったかのように、淡々と村の生活に適応するバベット。都会で磨いてきた交渉上手さが見えるものの、特に派手なことはなく後半も進みます。
前半との違いは、バベットの家事能力によって姉妹の暮らし向きが楽になり、やがて欠くことのできない存在になっていくこと。
しかし、きらびやかなパリから逃れてきたと思えないほど、バベットが粛々と暮らす様は驚きです。家族を喪って、何もない村でひたすら倹しい生活になるなんて、人生の激変どころではない話だと思うのですが。
バベットに残されたフランスとのつながりは、現地にいる知人が定期的に送ってくれる宝くじのみ。
ところが、ある日その宝くじで1万フランが当たったと判明。
バベットは、賞金を使って村の人々に晩餐を提供すると申し出ます。姉妹の父の生誕を祝う会での食事です。
その頃、姉妹の父を尊敬していた村人たちも、長年の不仲や昔の軋轢がたまって、ギスギスした関係になっていました。
豪華なフランス料理が振る舞われたら、清く貧しくという教義も崩れてしまう、と天罰を恐れるマーティーヌとフィリパですが……
晩餐会の顛末
映画のラスト20分で、晩餐会が行われます。
「清く貧しく」「この世でのかりそめにすぎない物質的な豊かさや快楽ではなく、心の豊かさだけを求めよう」という信仰に生きてきた村人たちが、最高の食事に心をほどかれていきます。
ここも派手な演出や展開はないのに、熱心に食器が鳴る音や(食事がおいしいとみんなでいるのに無口になる時ありますね)、少しずつ柔らかになっていく表情に、明らかに何かが変わっていくのがわかります。
「食事の話はしない」「信仰のための晩餐会だから」と言い聞かせつつ、美味しさに心が温まっていく。
肉体を満たすことは教義に反するけど、そのことによって心が満たされ、ギスギスしていた相手とも優しくし合える小さな奇跡が起こります。
物質的な豊かさが心の豊かさを連れてきてくれることもある、と教えているよう。神様が授けてくれた世界の恵みを、受け取ることを思い出したかのような。
ローレンス将軍だけが食事の素晴らしさに遠慮なくコメントするけれど、マーティーヌと浅からぬ縁がある彼だからそれが許されるのも完璧なバランスです。
彼といいパパンといい、叶わなかった夢でも、人生に何かを与えてくれると伝えてくれます。パパンの手紙を持って、バベットが訪ねてきたように。
村人たちが守ろうとしたものも、ローレンスが外の世界で経験したことも、バベットが腕によりをかけた食事も、何一つ否定しない。
それぞれが全く違う歩みをしてきたのに、晩餐会が一つの奇蹟的な融合になっていて、とても心温まる場面でした。
バベットの選択
そしてラストシーンでは、わけもわからず泣きました。
享楽あふれるパリからこの村へ移ってきて、長年住めるだけでもバベットの適応力は超人だと思います。さらにこんなせりふと結末だったらもう、ねえ……
食事で皆の心を満たしてくれたバベットを、心底から労うマーティーヌとフィリパ。
けれど言葉には寂しさが漂います。1万フランを得たバベットは、きっとパリに戻ってしまうと思っているからです。
しかしバベットは、事もなげに言います。
「お金はすべて使いました。(パリで働いていた)カフェ・アングレの晩餐12人分の値段は、1万フランです」
せっかく手にした、パリに戻れる千載一遇のチャンスだったのに、バベットは全額を晩餐のために使い切っていたのでした。
もう二度と、同じ機会はやって来ないのに。驚いた姉妹は、理解できずに言います。
一生貧しいままになるわ
華やかな街で、一流の料理を提供していたバベットにとって、小さな村で一生を終えることが幸せなはずがない。そう思ったのでしょう。
しかしバベットは静かに返します。
貧しい芸術家はいません
バベットはパリで死なずに、もう一度芸術家として生きることができて、きっと感謝していたのだと思います。
パリで家族も仕事も、全てを失ったことは辛かったでしょう。しかし同時に、あの村でもどこでも、芸術家として生きていくことはできると本能で知っていたように見えました。
だからこそ、村での暮らしをバベットは粛々と受け入れ、自分が今生きている場所でできることをしていた。
そして、生きる場所となってくれた村の人びとに、持てるすべてを差し出した。
村人たちはそこから、神様に与えられたものを受け取る気持ちを思い出したわけで。
「貧しい芸術家はいません」で号泣嗚咽。感動の理由が言語化される前に涙がぶわっと溢れる……世界にこんな映画があってよかった。
本当の信仰は同調圧力も教典も要らず、心の中にあると言っているようでもあります。料理という、身体を満たす技術を用いてはいるのですが。
人はパンのみにて生くるにあらず。だけど、パンにしか満たせないものがあるというか。
正しさに生きてきた村人たちの硬直がほぐれ、本当の信仰が息を吹き返す描写が素晴らしかったです。
おわりに
良い映画に巡り会うと、「もっと早く観ればよかった!」と思うことが多いですが、本作に関してはつくづく若い時に見なくて良かったです。
雰囲気だけは感じ取れたかもしれないけど、プロテスタント的背景を理解したうえで見たほうが絶対いいから。
若い頃の自分はまだそういった知識の蓄積が浅かったので、海外在住経験や、人生のあれこれを経た後で見られて本当に良かった。
本作は名作と絶賛される一方で、観終わった後に「……で、何が起こったの?」となる人も多いらしいので。
静かな感動という形容がぴったりですが、文脈を拾うための人生経験やキリスト教の知識が全くないと、特に引っかかるものなく見終えてしまうのはわかります。
村や姉妹の宗教的背景だけでも、予習してから観るのが良いかもしれません。
いつまでも余韻の残る、素敵な映画でした。

![バベットの晩餐会 [DVD] バベットの晩餐会 [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/51FgLQKwG3L._SL500_.jpg)
![バベットの晩餐会 HDニューマスター版 [Blu-ray] バベットの晩餐会 HDニューマスター版 [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51KelNq00dL._SL500_.jpg)


![関心領域 [Blu-ray] 関心領域 [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/41aK1fmknwL._SL500_.jpg)
![関心領域 [DVD] 関心領域 [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/41R6xUdPXPL._SL500_.jpg)

![七人の侍(2枚組)[東宝DVD名作セレクション] 七人の侍(2枚組)[東宝DVD名作セレクション]](https://m.media-amazon.com/images/I/51q7Zf4B6kL._SL500_.jpg)
![七人の侍 4K リマスター 4K Ultra HD [Blu-ray] 七人の侍 4K リマスター 4K Ultra HD [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/41MORAbtoWL._SL500_.jpg)
![七人の侍 4K リマスター [Blu-ray] 七人の侍 4K リマスター [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51PVAWloEgL._SL500_.jpg)
![七人の侍 [DVD] 七人の侍 [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/51NP9awJk2L._SL500_.jpg)


![オッペンハイマー 4K Ultra HD+ブルーレイ(ボーナスブルーレイ付)[4K ULTRA HD + Blu-ray] オッペンハイマー 4K Ultra HD+ブルーレイ(ボーナスブルーレイ付)[4K ULTRA HD + Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51H-qygmyaL._SL500_.jpg)

![『すずめの戸締まり』Blu-rayスタンダード・エディション [Blu-ray] 『すずめの戸締まり』Blu-rayスタンダード・エディション [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51L0KXYSqTL._SL500_.jpg)
![『すずめの戸締まり』DVDスタンダード・エディション [DVD] 『すずめの戸締まり』DVDスタンダード・エディション [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/51d-BwqsxML._SL500_.jpg)


