映画『プラダを着た悪魔』
今週から新年度スタートということで、仕事をキーワードとした映画をご紹介します。
- あらすじ
- こんな時におすすめ
- 畑違いの仕事からも学べることはある
- 愛する人があなたの仕事を理解してくれるとは限らない
- なりたい姿は自分で決めなければならない
- 世界は誰かの仕事の集合でできている
- まとめ
あらすじ
ジャーナリストを目指すアンドレアは大学卒業後、ファッション雑誌『ランウェイ』編集長のアシスタントとして働くことになる。
ファッションに興味はなくても出版業界の経験を積むために、と仕事を始めた彼女だったが、無理難題を課し続ける鬼のような編集長ミランダに振り回され、毎日息もつけない。
しかし、ある時を境に目の前の仕事への全力投球を始めた彼女に対し、いつしか周りからの評価は変わり、彼女自身も周りの人間への見方を変えて行く。
こんな時におすすめ
仕事に対して前向きになりたい、元気になりたい時に観たい映画です。
大学生の頃に観ても楽しかったと思うけど、社会人の今観ると、いろんなディティールにあるあるーと共感してしまいます。
課される課題の意味がわからなかったり、自分のペースで生きられなかったり、仕事をするうちに別の業界に行った友人と考えがへだたってきてしまったり、といった経験は社会人数年目の誰しもがちょっとはしているのではないでしょうか。
ヒロインのアンドレアも映画の中で、こうした様々な思いに翻弄されながら、目の前の仕事に打ち込んだり、あるいは立ち止まって自分が最終的になりたい姿と今の自分を比較したりしています。
仕事の場面と比べると比重は少ないですが、どんなプライベートを持ちたいかも考えさせられます。
この映画に託されているメッセージについて、考えたことを書いてみたいと思います。
畑違いの仕事からも学べることはある
アンドレアはジャーナリスト志望で、ファッション雑誌の編集部で働くことは当初の目的ではありません。
全身をハイブランドで固める他のスタッフとは似ても似つかぬ服装で面接に現れ、ドルチェ&ガッバーナの綴りも知らない状態で仕事を始めます。
彼女にとっては全く同じものに見える服飾品をあーでもないこーでもないと論じるのを見て、何やってんのこの人たち、と感じています。
しかしその後、真剣に仕事に向き合おうと決めると、ジャーナリズムと関係ないどころか、ファッションや雑誌編集に直接関係ない雑用(編集長ミランダのわがままや気まぐれであることもしばしば)も全力で遂行。
だんだんと、ミランダや、先輩であるエミリーの要求に応えられるようになります。
そして、コツを覚えるにつれ、なかなかやるじゃんと思わせるメンバーになって行く。
「これやっといて」からの「さっき完了しました」は、相手の期待を上回ることができたときの王道なやり取りですねー。
これを何回も言える人材になりたいです。
こんなのやりたかった仕事じゃない!と思いながら働くという経験は日本の(とくに文系の)社会人なら誰もが多かれ少なかれ持っているのではないでしょうか。
専門職や職種別採用が少なく、OJT・ゼネラリスト育成が主流ですので。
でも、一生懸命やってみるとそれなりに達成感があったり、真摯な姿勢を認めてもらえたり、周囲の反応が変わったりします。
それが嬉しくて自信がつき、より前向きに仕事ができる。
相手は自分を映す鏡である、とか、自分が変われば相手も変わるとか言いますが、まさにその現象が起こっていました。
結果としてアンドレアはこの職場でできることの幅を大きく広げ、同僚の評価のみならず社外人脈も勝ち取ります。
仕事の内容は希望と違ったけど、仕事に対する姿勢を学んだと言えます。
愛する人があなたの仕事を理解してくれるとは限らない
彼氏、友達、果ては両親までもが、アンドレアの過重労働及びパワハラまがいの上司にドン引きしています。笑
しかもそれほどお給料も良くないらしいので心配されます。編集長のアシスタントと言っても庶務であり、(一般的には)高いスキルは要らないので仕方ないっちゃ仕方ないです。
まあミランダのアシスタントはある意味特殊能力がないと務まりませんが。
ただし、最初は心配していた彼氏や友人も、アンドレアが自ら仕事に打ち込むようになると態度が変わります。
「ハイブランドを馬鹿にしてたのに何で自ら着てるのか」「あんなに意味わからんと言ってた仕事にかまけて彼氏の誕生日も祝えないなんてどういうこと」という具合に。
アンドレアは少なくとも職場のメンバーにはじわじわ評価され、観ている私たちの共感も得ている。でも、職場で頑張る姿や、同僚の評価を知らない彼らにはアンドレアのポジティブな変化が全く伝わりません。
それはどうやらミランダの家庭においても同じようで、家族のための彼女なりの努力も、あまり功を奏さなかった様子でした。本人としては会うためにでき得る限りの努力をしていても、待っている人からしたら「会いたいと思ってるなら何で全然帰って来てくれないの?」という感想しか出てこないでしょう。
仕事で成長ないし成功するために必要なことと、プライベートで良い人間関係を作るために必要なことは全然違う。
だからこそ、それぞれの目的のために違う努力をしなければならないし、仕事について家族や恋人に理解してもらう努力を自らするべきなのかもしれません。
なりたい姿は自分で決めなければならない
最終的にアンドレアは唐突に『ランウェイ』編集部を退職します。
ミランダの言った「貴女は昔の私と似てる」「(この仕事は)何百万人もが憧れる仕事」という言葉を聞いて我に返ります。
多分ミランダは、今の努力を続ければアンドレアも自分のような地位に上り詰められると言いたかった。
あのまま彼女が編集部に残り、忠実なアシスタントとして在籍し続けたら、いずれ編集者、果ては幹部になって、何百万人もが憧れる存在になっていたかもしれません。
でも、何百万人もが憧れる仕事であっても、自分自身がなりたい姿でなければ意味がない。自分の人生を生きるのは自分しかおらず、他の何百万人の夢を生きている暇はない。
ジャーナリストになりたかった初心を思い出して、それこそが自分のなりたい姿であると再確認し、記者の仕事を探し始めます。
目の前の仕事に一生懸命になることは決して悪いことではないけど、しばしば初心を忘れさせます。
アンドレアのようにポジティブに仕事にのめりこんで、プライベートの状況まで変わってから気付く場合もあれば、一向にモチベーションの上がらない環境に慣れ、生きるためだけに働いてればいいやーと自ら軌道を変えてしまう場合もあるかと思います。
「沢山の人が憧れる仕事」「まっとうに働いて稼いでいる事実」で自分を満足させてしまわず、「なりたい姿に向かって進めているか」振り返らないといけない、というメッセージもあると感じました。
ただ、日本で働いていると、前述のゼネラリスト育成型の慣行のため、同じ考え方が生きるかどうか難しいところです。一般的には、同じ組織に長く在籍し続けて、とにかく何でもこなすことが組織人として求められる姿であり、したい仕事だけをすることは現実的ではありません。
でも、転職市場が拡大し続けているので、自分のキャリアを自分で描くという考え方は昔と比べて身近になってきているでしょう。転職が珍しくない環境なら、こうした考え方には意味があると思います。
世界は誰かの仕事の集合でできている
編集部のメンバーが「全く違う」と言ったベルトが同じものにしか見えず、アンドレアが笑ってしまう場面があります。
ミランダはそれを見て、アンドレアの着ている青いセーターについて話し始めます。
曰く、その青色はセルリアンブルーで、2002年にハイブランドがこの色の作品を発表した。
それがブームになり、カジュアルで安価なブランドにも波及し、アンドレアがどこかのセールでセルリアンブルーのセーターを手にするに至った。
一連の演説の口上はとてもかっこいいです。締めの一文も特に。
あなたがファッションと無関係と思ったそのセーターは、そもそもここにいるわたしたちが選んだものよ。”こんなの”の山からね。
誇りを持って働いている人は、どんな業種であれかっこいいと思ってしまう一場面でした。
働き始めた時や就職活動の時にも思ったことですが、何気なく使っているものやサービスは、すべて誰かの仕事でできていると実感しました。
まとめ
華やかな衣装が印象的だとして取り上げられることの多い本作ですが、新米会社員が通過する数々のイベントも盛り込まれていると思います。
だからこそ、ファッション業界という非日常的な場所を舞台に選びながらもたくさんの人が共感したのかもしれません。
なりたい仕事と違っても、高度な仕事じゃなくても、仕事に対する姿勢を学ぶことはできます。
でも、それに満足していてよいのは新米社会人の間だけかもしれません。
なりたい姿を主体的に追求するなら、現在の立ち位置と目標との距離を冷静に測る必要があります。
なりたい姿を冷静に問い直した結果、アンドレアは記者になることをもう一度目指し始めました。
「何でそこで辞めちゃうの!」「彼氏いなくなっても世界トップの編集長になりなよ!」というレビューもあるようで、それも最もだと思います。
アンドレアが『ランウェイ』で働くうちに、ファッション業界に骨を埋めたいと本当に思うようになっていたら、同じ場所で働き続けるのがベストだったでしょう。
ただ、彼女はやっぱりどうしてもジャーナリストになりたかったという話です。
日本で労働市場がもっと流動化すれば、この映画に対するレビューの傾向も変わってくるかもしれません。
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