本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『黄泉がえり』

竹内結子さんの訃報を聞いて再鑑賞しました。

草彅剛さん、竹内結子さんの二人がメインキャストです。

観たのが大昔だったのでかなり忘れていました。

いつも通りネタバレでお送りします。

 

 

あらすじ

熊本県阿蘇地域で、死んだ人々がよみがえり、生前近しかった人々の前に現れるという現象が多発する。

霞が関の官僚の平太は事態の究明をはかるべく、自身の地元である現地に派遣される。

半信半疑だった平太だが、間違いなく眼前で生きて動く黄泉がえりの人々を目の当たりにする。

いっぽう、平太の幼馴染の葵は、勤務する役場へ「死亡届を取り消したい」と訪れる人びとに困惑する。

葵と再会し、阿蘇の状況をともに探る平太は、葵の亡くなった婚約者で、幼馴染の俊介が黄泉がえる可能性に翻弄されることになる。

既に黄泉がえった人々は、親しかった人々と絆を確かめ合い、穏やかな暮らしを送り始めたかに見えたが……

 

死と癒やしを見つめるヒューマンドラマ

最初に触れておきたいのは、黄泉がえりの謎は最後まで解けないということです。

ミステリやSFではなくヒューマンドラマだということを念頭にご覧いただきたい作品です。

死んだ人たちとの再会の群像劇が、一つ一つは短いのに少しずつグッときます。

知っていた誰かが死ぬということは、その人と過ごした時間がそこで止まる、ということなんだということに気付かされます。

生き残った人々は、その止まった時間を自分の中に抱えながら、その後を生きていきます。

喪失があまりにも大きければ、止まった時間によって血の通わなくなる部分があまりに大きすぎて、生き残った人の熱を奪いすぎてしまうのかもしれません。

でも傷が治るように、止まった時間が心に占める割合を、少しずつ小さくしていく癒しの過程があるのでしょう。

葵がカウンセラーの先生に心情を吐露しながら、一歩一歩回復していたのと同じように。

そして、よみがえった人ともう一度時間を共有した人々は、言えなかった言葉を伝え合ったり、共有した記憶を改めて噛みしめることで、その癒しの過程を早めることができました。

だから、よみがえったのは死者というより、残された人々の心なんだ、というのがラストシーンのメッセージなのでしょう。

 

辛い別れのなかでこそ光るもの

本作では、黄泉がえった人々と再会し、ふたたび絆を深め合う人々の群像劇が描かれます。

長く連れ添った夫婦、幼くして子どもを亡くした母、自殺で亡くなった中学生とクラスメイト、出産で亡くなった女性の夫と娘、少年のころに亡くなった兄と大人になった弟など。

再会した人々の心からの笑顔を見ると、別れが深い悲しみを伴うことは、相手がそれだけ大切な人だったことのあらわれだと実感します。

強い思いが人をよみがえらせ、亡くなった人との関係性を再確認する。

その場面の一つ一つが、どこかしら観ている人の記憶に重なるところがあるのではないでしょうか。

個人的に、端役の老夫婦の話は前から好きだったのですが、英也と兄ちゃんの関係もとても良いなと思いました。

年齢はもうとっくに追い抜いてるのに、兄ちゃんに頼りたかった気持ちをあらためて癒しているようで。

それに自然に応える兄ちゃんが泣けます。

大切な人だからこそ、別れは悲しく辛いものになります。

でも、大切な人との思い出があるからこそ、その記憶から引き続き生きるための熱をもらうことができるのかもしれません。

温かい記憶が、もう少し生き続ける勇気をくれる。

そう確かめることができたから、再会を経験した人々の顔が、ふたたび別れを迎えても晴れ晴れしていたのでしょう。

生き返った人々は、しばらく経ったら再び阿蘇の大地に還ってしまいましたが、彼らとの記憶は新しく人々の心を支えてくれたわけです。

 

映像作品として

舞台となる阿蘇エリアでのロケをみっちりやって撮ったことがわかる風景の数々が詰め込まれています。

現地に行ったことのある人なら懐かしく感じる味がありました。

山並みの見える風景とか、斜面を走る道路の渋滞とか、あ、と思うんですよね。

細かい違和感やセリフの古さはあるのですが(何で大事な待ち合わせの場所をカオスなライブ会場にしてしまうんだ!とか、俊介との会話がベタだなあとか)、終盤の盛り上がりは主演のふたりと、柴咲コウさんの音楽に強力に支えられていました。

ライブシーンでRUIもとい柴咲コウさんの歌う『泪月―oboro―』と『月のしずく』は圧巻です。

黄泉という場所は日本古来の死後の世界の概念です。

大陸から仏教が入ってくる以前からのもので、そこでは人は生まれ変わることなく、死後はずっと黄泉にいます。

生まれ変わらないからこそ、死んだ人がそのまま戻ってくる=黄泉がえることができたんですね。

古代の言葉の息づきを感じる言葉選び、大切な相手への思いがこもった歌詞は、竹内結子さんや草彅剛さんの熱演と相まって涙腺を刺激します。

ミステリアスだけど強く感情に訴える、不思議な場面です。

竹内結子さんがもう生きていないと思って観るからか、「もっと一緒にいたかった」のセリフもひときわ重みがありました。

 

おわりに

余談ですが、伊勢谷友介さんや極楽とんぼ山本さんといった、今じゃ見られない人々がたくさん出ていて、時間の経過を感じる作品でした。

田中邦衛さん、伊東美咲さん、田辺誠一さん、長澤まさみさん、市原隼人さん……と脇の方々がめちゃくちゃ豪華なのも印象的です。

また、俳優さん、女優さんの自死が相次いでいるなか、死と別れについてとみに考えさせられる映画です。

死が悲しい別れであることは事実ですが、どれだけ大切な人だったか確認し、その人に関する大切な記憶を持ち続ける重要さを教えてくれるお話だと思います。

願うらくは、亡くなった芸能人の方々についても、多くの人がそうした向き合い方をできたらいいな、と感じました。

 

 

 

 

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