本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『マグノリアの花たち』

年齢も家族構成も異なる女性たちの友情を描いた作品のレビューです。

タフな人生を生き抜くために、女性たちが互いを激励しあいながら進んでいきます。

ネタバレします。

 

 

あらすじ

アメリカ南部の小さな町チンカピンでは、結婚式の準備が行われていた。

花嫁シェルビーとその母マリン、式に参列するクレリーは、美容院で身支度をする。

美容院の女主人トルーヴィと、美容師として働くため引っ越してきた新人アネルが、彼女たちと様々な話に興じながらヘアセットにあたる。

花婿となるジャクソンのこと、市長の未亡人であるクレリーの今後のことなど、お喋りの種は尽きることがない。

結婚式が終わったあとも、糖尿病を患う彼女の出産や、病状を慮る母マリンの葛藤、内気だったアネルの変貌、クレリーとウィザーの奇妙な友情など、人生の様々な場面が交錯していく。

 

物語の背景

本作はもともと舞台作品で、メインロールの6人の女性だけが登場する密室劇でした。

物語が書かれたきっかけは、書き手の実の妹が1型糖尿病を患い、命を賭して出産し、その後亡くなったことだそうです。

妹の人生は映画の中でシェルビーに投影されており、命を守るため妊娠を避けてほしいと思っていた母マリンの葛藤や、母娘を見守る友人たちの人生も描かれています。

マグノリアは、アメリカ南部を象徴する花で、原題もSteel Magnoliasです。

直訳は「鉄のマグノリア」で、花のように美しいけれど鉄のように強い南部の女性、という意味が込められています。

現実離れした展開や、ドラマチックな設定はありませんが、お互いの心情を分かち合いながら前に進んでいく彼女たちの姿に元気づけられる作品です。

 

シェルビーの人生

シェルビーの抱える1型糖尿病について、劇中では専門的な説明はありません。

しかし、妊娠は避けるように医師から言われている、と母マリンが話します。

妊娠・出産で命が危険にさらされること、体調が劇的に変わってしまうかもしれないことをシェルビーも知っています。

それでも、愛し合って結婚したジャクソンの子どもが欲しいこと、養子を申し込んでも体調がネックで認められないことから、出産を決意しました。

空っぽの長い人生より30分の充実した人生を

と言い切るシェルビーは、妊娠を喜んでくれないマリンに苛立ちを覚えます。

親と子は別の人間であり、望むことも違うのは当たり前だけど、娘の命を失いたくないマリンの葛藤は消えることはありません。

発作に襲われ亡くなったシェルビーの葬儀で、マリンは辛さを友人たちにぶつけます。

どうして娘が天国に行かなければならなかったのか、どうしてこんな悲しいことが起こらなければならないのか理解できない、と言う彼女に、

今のままではマリンや息子を守ることはできないから、いつでも皆の傍に居て、守ってあげられる場所に行ったんだ、とアネルが言います。

自分よりずっと若い、聖書マニアのアネルに言われて、マリンは到底納得してはいないのですが、誰もがどうにかして辛いことにも理由や区切りをつけ、進んでいかなければならないことを象徴する場面でした。

その後、クレリーの機転(≒悪知恵)や、シェルビーの息子の成長、アネルの妊娠など、新しい展開を迎えて人生が進んでいきます。

 


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シェルビーとマリンを取り巻く人々

母娘を取り巻く4人は、控えめに言って個性が濃すぎですが、2人を支える以外にも重要な役割を演じています。

美容院の女主人トルーヴィは、冒頭で彼女の信念を口にします。

「生まれつきの美人はいない」

「だから美容院の仕事が成り立つの」

Steel Magnoliasの原題に象徴されるのは美しさと強さですが、トルーヴィの言う通り美しさが生まれつき備わっている人はいないのと同時に、強さもまたそうではないでしょうか。

人生の中で様々な出来事に向き合う中で身に着けていくものです。

女性たちはトルーヴィの美容室で、美しさを整えると同時に、男性と一緒に暮らす社会から隔絶された女性同士のお喋りに興じます。

人生にもう一度立ち向かう強さを、お互いの出来事をさらけ出すことでもう一度充電しているかのようです。

クレリーとウィザーの2人も、たまに鬼気迫りつつ丁々発止のコメディを演じる、不思議な友情を披露しています。

正直クレリーはウィザーのことを面白がってたまに見下しているようなんですが、常に本気でぶつかって喧嘩も吹っ掛けてくるウィザーがいないとそれはそれでつまんないのではないでしょうか。

一番若く内気なアネルは、踏んだり蹴ったりな状態で町に引っ越してきますが、後半で明るく元気になり、家族も設ける彼女の活躍はとみに印象的です。

アネルの存在は、「自分次第でいくらでも人生は変えられる」というメッセージを持っていたのかもしれません。

 

おわりに

個性のベクトルが強烈ながらも、お互いを認め合いながら生きていく女性たちの姿に、しんみり勇気を貰える映画でした。

舞台作品としても非常に成功したコンテンツらしいので、世界中で色んな人を元気づけてきたことでしょう。

露骨な感動物じゃなくても、元気になれる映画をお探しの方にすすめたい作品です。

 

 

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