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ドラマ『コール・ザ・ミッドワイフ ロンドン助産婦物語』2

以前ご紹介した英国BBCのドラマ、『コール・ザ・ミッドワイフ ロンドン助産婦物語』のレビュー第二弾です。

第一弾の記事↓ではシーズン3までの内容をご紹介したので、本記事ではシーズン4以降について感想をご紹介します。

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あらすじ

1960年代の英ロンドンはイーストエンドで、妊産婦たちの出産・育児のサポートを行うノンナートゥス・ハウスで、シスターや助産師たちは日々新たな課題に直面する。

同性愛や新生児取り違えなど、出産をめぐる家族の葛藤やトラブルもあれば、ノンナートゥスのメンバーが個々に抱える問題も。

トリクシーは心を癒すのに頼っていた恋人との付き合い方に悩み、パッツィーは誰にも言えない秘密を抱えている。

バーバラが着々と経験を積む一方で、シンシアは重大な壁に直面。

新しいメンバーや時代を迎え、さらに盛り上がりを見せる医療ドラマの秀作。

 

新しい仲間たち

当初のメインメンバーだったジェニー、トリクシー、シンシアのうち、主人公ジェニーはシーズン3終盤でシリーズを去っています。

シーズン4からは、前シーズンでちらっと登場したパッツィーとともに、若くて優秀なバーバラが加わります。

パッツィーは中堅ながらベテラン並みの落ち着きと判断力、バーバラは穏やかで熱心な姿勢が頼もしいです。

そして更に、ベテラン看護師であり助産師のフィリス・クレーンも登場。

最初は彼女を脅威と見なしていたシスター・エヴァンジェリーナですが笑、だんだんとお互いを認め合っていきます。

昔気質のエヴァンジェリーナと比較すると、フィリスは相当に先進的なタイプ。

当時女性には珍しかった運転免許を所持して訪問看護も車で行ってますし、ローロデックスを駆使してメンバーのシフト管理も効率化。

苦労人で熱いハートの持ち主でもある彼女は、聖職者の娘でまっすぐな気性のバーバラと、年齢を越えた友情を育んでいきます。

シーズン3までは原作者ジェニーの自伝的回顧録に基づいて書かれた脚本ですが、シーズン4以降は舞台と一部キャラクターだけを引き継いだオリジナルの内容。

しかし、メンバー交代でクオリティや世界観が変わってしまうのでは、という心配を吹き飛ばす、相変わらずの密度と緻密さです。


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出産や看護をめぐるドラマ

このドラマの魅力の核となる要素は、前述の通り引き続き健在です。

同性愛や新生児取り違えなど、21世紀にも通じるテーマもあれば、1960年代の世界を震撼させたサリドマイド薬害事件なども扱われています。

悩みながらも家族の形を模索したり、生まれた子と一緒に成長していこうとする人々を、ノンナートゥスのメンバーが熱意をもってサポートしていきます。

そして、シーズン3までとの大きな違いとしては、「子どもを産む」以外の瞬間を切り取ることが多くなっていることが挙げられます。

無事に妊娠し、子どもを産むという流れがマジョリティではあるものの、望んでもなかなか授かれない人、授かっても流産や死産で子どもとの人生を経験できていない人、望まない妊娠に苦悩する人など、さまざまな状況が描かれています。

出産のドラマというと、妊娠して無事に生まれること、そこからの子育てを想像する人が多いと思いますが、そこに至るまでにもいろんなドラマがあります。

無事に安定期に入ったり、出産したりするまで、有名人でもなければ公表する人もあまりいないのはそういう事情があるからですが、意外と知られていませんよね。

でも、流産を経験する人というのは、妊娠したことがない人が想像するよりずっと多いですし(全妊娠の15%に相当すると言われる)、不妊に悩む方もたくさんいます。

そして、無事の誕生も奇跡なら、無事に育つことも奇跡なのかもしれません。

個人的にはシーズン5の、辛い幼少期を過ごしたことから生まれた娘と向き合えず苦悩する女性の姿が印象的でした。

優しい母という姿が思い描けなくても、自分で人生を踏み出したからこそ出会えた優しい夫との絆を拠りどころに、安心できる家族を築いていってほしいです。

出産の場面以外にも目を背けず向き合っているところが、ドラマのクオリティの高さをさらに保証するものとなっています。

 

メンバーの葛藤

妊産婦たちのみならず、メインメンバーたちの悩みや葛藤も見応えがあるのが、本ドラマの特徴。

トリクシーは牧師のトムと特別な関係になりますが、順調に見えた交際がある時から崩れ始めます。

元からアルコールに頼り気味だった彼女ですが、このことでさらに慰めを求めてしまうように。

幼少期に父親のアルコール依存を見ているからこそ、繰り返された悲劇ということが示唆されていて、やり切れないですね。。。

また、パッツィーは同性愛者であることを隠しながらディリアとお互いをパートナーとしています。

しかし、公にできない関係を維持し続ける苦労は絶えず、さらに二人の関係を困難にする時間も起こります。

ディリアが少し気弱そうなところがあって、それがまたハラハラさせるんですよね。

お母さんが心配してしまうのも一部わかるからこそ、「そこを何とか乗り越えて独り立ちしてパッツィーのそばにいてくれ!!」と訴えたくなります。

初登場のフィリスは、メンバーに打ち明けてはいないものの、事情を抱えた家庭で育った様子。

守ってくれる両親がいて、適切な教育を受けて……というバックグラウンドではなかった模様。

いろいろ乗り越えて手堅い仕事を手にし、今に至っているようですが、それを鼻にかけたりはしません。

たたき上げの人にありがちな、忍耐や理不尽を強いるようなことも言わないし、とても柔軟な人です。

 

おわりに

とにかく中身の濃いドラマシリーズである本作。

それでもネタ切れにならず長く続いているのは、丁寧な医療考証と、女性たちに関わるテーマを書き尽くそうという制作陣の熱意の賜物ですね。

基本的には女性にフォーカスした内容ですが、ぜひ男性にも見てほしい!と思う内容です。