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ドラマ『コール・ザ・ミッドワイフ ロンドン助産婦物語』3

BBCのロングランシリーズのレビュー第三弾です。ネタバレします。

今回は本ドラマのシーズン7からシーズン9に関してのレビューとなります。

シーズン6以前のレビュー記事はこちら。

kleinenina.hatenablog.com

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あらすじ

1960年代のイーストエンドで、相変わらず助産師たちは数多くの出産に立ち会う毎日。

一方で、出産を巡って自身の身体について決定権を持たない女性たちの苦しみにも向き合うことになる。

ナースやシスターたちの私生活の悩みもあるなかで、新しいメンバーを迎えたノンナートゥス・ハウスのドラマが続いていく。


女性たちを取り巻く環境

初期は主にオーソドックスな妊娠・出産のドラマに焦点を当てていた本シリーズ。

シーズンを重ねるごとに不妊や養子縁組、中絶や家族計画、処女割礼など、その周辺のテーマにもフォーカスがされるようになってきました。

その中でもシーズン7-8は、中絶に関わる回が多くなっていました。

中絶をめぐっては、当時イギリスでは法律で禁止されていたこともあり、女性たちは非常に辛い立場に立たされます(中絶手術を提供するだけでなく、手術を受けることも罪に問われる)。

当事者の目線に寄り添いながら、見ている人に「自分の身体について自分で選択する権利」を考えさせる内容です。

妊娠出産したらバリバリ働くことは難しいし、相手の男性に逃げられたらなおさら、生計を立てることは難しい。

出産を諦めるしかないのに中絶は違法で、でも法を犯すような選択をするまで追い込まれなければならない。

だから「必要悪」として違法中絶業者が存在してしまったことを悟らされます。

そして、違法な中絶手術を提供するのは、医療の専門家ではない人々。

当然、安全は保証されず、衛生状態の悪さから重篤感染症に掛かったり、適正量をこえた薬の作用に苦しんだり、臓器の損傷のリスクを負ったりします。

シスター・ジュリエンヌが指摘したように、「相手の男性が負わなかった代償を、女性たちは負わされることになる」のがわかります。


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新しいメンバー

そんな中、ノンナートゥスの助産師に新しい仲間が加わります。

まずはジャマイカからやってきた黒人系の助産師ルシル。

冷静沈着で仕事のできる彼女ですが、ポプラーの一部住人からは心無い視線や言葉を向けられることに。

それでも「英国で暮らしていく以上は向き合わないと」と逃げない姿勢を貫く強さを持っています。

妊産婦や患者に寄り添うことも忘れない、真面目一徹のキャラクターです。

そして、シスター・ウィニフレッドの離脱に伴い、シスター・ヒルダとシスター・フランセスが加わります。

シスター・ヒルダはサバサバした性格の持ち主ですが、細かいことを気にしない豪快さがたたり、たまにポプラ―の人々や助産師たちと気まずくなる模様。笑

シスター・フランセスはメンバーの中で最年少で、最初は不安そうでしたが、初めての分娩を乗り越えて逞しく成長していきます。


メンバーたちの試練

これまでの例にもれず、シーズン6~9にかけても、助産師たちに試練が訪れます。

トリクシーは優しい恋人に出会えたものの、彼は離婚した妻との間に小さな娘アレクサンドラがいることが発覚。

関係は順調でしたが、自分の恋人でいるより、彼女の父親であることを優先してほしい、と身を引くことに。

それをきっかけにアルコール依存症が再発してしまい、やむなく休職します。

幼少期、父親が父親の役割を果たせない家庭に育ったことがトラウマになっていたトリクシーは、同じ経験をアレクサンドラにさせたくなかったのでしょう。

だとしても、せっかく出会えたよりどころの彼と離れることを言い渡す場面は辛かった……この人なら絶対幸せになれる!という相手だったので尚更です。

そして、直近3シーズン一番の驚愕はバーバラの受難でしょう。

シーズン6最終回で幸せいっぱいの結婚を遂げたバーバラですが、トムの赴任での位置離脱を経てノンナートゥスに戻ってきます。

しかし、間もなく髄膜炎を発症し入院、さらに敗血症に冒されたことが発覚。

誰も予想しなかったことに、世を去ってしまいます。

トムをはじめ、打ちひしがれるメンバーとともに、観ている方もどん底に沈みました……

この回の最終盤で、ルシルが訪れた教会で歌われるアメイジング・グレイスは涙を誘うこと必至です。

人生には辛いこともあれば奇跡も起こる、と教えてくれるのがこのドラマですが、バーバラの死は本当に辛かった。

そして、ヴァレリーも大きな試練に直面することに。

ポプラ―界隈で安価に中絶手術を提供している業者の存在は確実ながら、どこの誰なのかがわからず、歯がゆい思いをしていたノンナートゥスの面々。

危険な手術の結果、救命のため子宮摘出をせざるを得なかった女性がいたり、重篤感染症に冒された人がいたりと、被害は深刻。

そんな中、ヴァレリーの祖母が彼女を呼び出します。

祖母の家の二階にいたのは、中絶手術を受け大量出血している女性。

中絶を望む女性に危険な施術をしていたのは自分自身の祖母だったと知り、ヴァレリーは驚愕しショックを受けます(そりゃそうですよね)。

小さな頃から、訪ねるといつでもアイスを買うようお小遣いをくれた優しい祖母、そのお金は困り果てて中絶を試みた女性たちから払われたお金でした。

責めるヴァレリーに対し、祖母は開き直ります。

いつの世も、責任を負わない男性たちの代わりに、自分たちのような存在が必要とされてきた、法外な対価を求めたりせず女性たちの需要に応えてきただけだ、と。

この頃の英国は、中絶手術を受けることでは訴追されないようになっていましたが、手術を提供することは違法でした。

合法的な医療として中絶が提供されるのはまだ先の話。

祖母を許せない一方で、そうしたままならない事情もわかっているヴァレリーは深く葛藤します。

やがて体調を崩してしまった祖母にどう向き合うのか。

それを見守ってくれるノンナートゥスのメンバーの温かさがまた沁みます。


おわりに

相変わらず、希望や勇気を与えられるようなエピソードも数多いですが、この3シーズンは避妊や中絶に関わる重いエピソードが多かった気がします。

しかし、どこまでも真摯に女性たちや家族のドラマを描いてきた本シリーズだからこそ、正面から取り上げてほしいテーマであるとも言えます。

出産の主な舞台が、自宅から大病院へと移りつつある時代背景も描かれており、自治体からの予算が大幅カットされる危機もあったノンナートゥス・ハウス。

シーズン10の制作は決定しているようですので、続きも楽しみに待ちたいと思います。