本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

ドラマ『コール・ザ・ミッドワイフ ロンドン助産婦物語』

ロンドンの助産師さんの実体験を基に作られた、BBCのドラマをご紹介します。

日本語字幕がついて流通してるのはシーズン1から3までなので、この3シーズン分についてのレビューとなります。

本国ではシーズン8まで放映されているという大長編です(しかし各シーズン独立して楽しめる作品ですのでご心配なく!)。

 

 

あらすじ

1950年代のロンドン。

造船と血気が盛んな貧困地区・イーストエンドに赴任した助産師ジェニー。

配属されたのは修道院でありながら訪問看護助産を行うノンナートゥス・ハウス。

ベテラン修道女たちと、同世代の助産師仲間たちと、ひっきりなしに子どもが生まれるイーストエンドを自転車で奔走することになる。

お世辞にも生活水準が高いとは言えない環境で、次々に困難な状況に直面し戸惑うジェニー。

しかし、一件一件の出産や看護に必死で向き合ううちに、助産師として、看護師として、人間として大切なものに気付いていく。

 

ノンナートゥスの仲間たち

イーストエンドの片隅にあるノンナートゥス・ハウスは、キリスト教の修道女(シスター)が暮らす小さな修道院です。

シスターたちは、神様に仕える生活を送りつつ、看護師と助産師の資格を活かしてイーストエンドの住人達に訪問医療を提供しています。

ただし医師はいないので、同じくイーストエンドに医院を構えるターナー先生と必要に応じて連携して対処します。

皆をまとめる聡明なシスター・ジュリエンヌ、豪快で有能なシスター・エヴァンジェリーナ、この二人が終始ベテランの落ち着きでノンナートゥスをけん引します。

中堅シスターのベルナデットと、隠居生活で占星術に心酔する(そして新参者にたらふくケーキを食べさせる)シスター・モニカ・ジョーンも忘れちゃいけません。

主人公ジェニーはノンナートゥスで暮らしつつ、訪問医療の仕事に打ち込みます。

ジェニーの他にも、トリクシー、シンシア、チャミーと言った、修道女ではない看護師兼助産師の同僚たちがいます。

同世代の彼女たちは、ジェニーと同じく職業人としての精進の真っ最中。

大工仕事や物の調達を担ってくれるおっちゃん・フレッドの活躍も明に暗にドラマを彩ります。笑

主人公のみならずノンナートゥスの個性あふれる面々の群像劇も観ていて飽きません。

 

出産を巡るドラマ

本作は『ダウントン・アビー』を観終わり、壮絶なダウントンロスに打ちひしがれていた時、Amazonさんに強く勧められて視聴しました。笑

助産師さんが主人公の話ということで、出産素晴らしい、母性美しい、女性すごい、何か感動して大団円、というほんわかドラマだったらどうしよう…と思ったら、そんな心配は要りませんでした。

ジェニー・ワース本人の原作を下地にしていることもあってか、母性讃歌とか偏った視点は全くなく、助産師や医師、妊産婦とその周囲の人々に、客観的で深い洞察をしている作品だと感じます。

月並みな表現ですが、出産って一人一人が命がけで、ドラマがあって、そして助けてくれる人がいて初めて成立するんだと実感しました。

一人の人間が生まれてくるということは、母体にとっても、新生児を受け容れる家族にとっても一大事業です。

大きな幸せもあれば、大きなチャレンジでもある。

大人同士の生活でならどうにかなっていた問題も、赤ちゃんが生まれるとなれば見過ごせなくなるし、なあなあだった人間関係も変化を迎えざるを得なくなったりします。

出産を機に表出するドラマに、一つ一つ向き合う温かな視点が印象的でした。

このドラマのシスターや助産師たちは「母親になるんだからそんなこと言ってないで頑張れ」みたいな雑なことは一切言いません。

妊産婦の人々が抱える問題に、対等に向き合おうとします。

その中には、流産、妊娠中毒症や死産など、母子の健康面での問題もあります。

さらに、授かった子どもを失う辛さ、家族のかたちが変わってしまう不安、重い病気を抱えて生まれた我が子に向き合えない苦悩、経済的に養えない子どもを授かった葛藤などなど家族をめぐるドラマも、重厚に描かれます。

家族の数だけ家族のかたちがあるように、そうした問題に一つとして同じものはありません。

そして、出産という出来事が終わっても、家族の運営は後々も続きます。

出産は誰もが当たり前に安全に終えられるわけではない一大事だけど、その実、家族の新たな始まりでしかないことが隅々まで描かれていました。

 


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群像劇として

 本作は助産師たちの成長物語であり、何人もの妊産婦のドラマであり、看護師としての患者さんたちとの交流物語でもあります。

ドラマの密度が高くて、胸がいっぱいになるメッセージがたくさん詰まってます。

シーズンを追うごとに、主要人物たちに大きな節目が訪れるのも見どころの一つです。

ジェニー自身の恋の行方もありますが、チャミーの母との関係なども長期的に展開するドラマの一つ。

シーズン2以降はベルナデットの愛の行方、看護助手ジェーンなど、新たな見どころもあります。

子どものことがあってからチャミーやシーラの顔がだんだんと疲れ気味になってるのはリアリティがあるのと同時に少し切ないですが。。。

また、シーズン3は時代背景もあって、戦争のトラウマと闘う人の姿が印象的なシーズンでした。

この闘いは、妊産婦を取り巻く人々だけでなく、メインのメンバーにも影を落とします。

ともあれ、ノンナートゥスの皆んなが回を追うごとに愛しくなっていく名作ドラマです。

時代物として

舞台となる1950年代のイーストエンドは、造船業に携わる職人や、海運に関わる現場仕事の人々でにぎわう地域。

お世辞にも上品とは言えないけど、活気があり、人間同士のつながりが密な下町独特の雰囲気です。

そうした、猥雑だけどエネルギーに満ちた空気を、終始魅力的に切り取る映像は、一瞬で時間も場所も超えるパワーがあります。

加えて、随所にちりばめられる50年代、60年代のファッションも観ていて飽きません。

特に、ノンナートゥスきってのファッショニスタであるトリクシーの装いは必見。

基本的には現代の価値観から見て、著しく乖離のある表現はないと思うのですが、一つ印象的だったのは出産の立ち会いに関する描写。

パートナーが出産に立ち会うことが一般的になって久しいと思いますが、この時代はそうではなかった模様。

シスター・エヴァンジェリーナが「出産は女たちの仕事」と言って立会いへの反感を示す場面があります。

なるほど昔はこうした考え方だったのか、と勉強になる一面も。

また、現在でもイギリス国民を支える医療システムNHS(National Healthcare Service)の萌芽はこの頃のようです。

医療が無料で受けられるようになったおかげで、救える命が増えた、とターナー医師が語る姿が印象的でした。

 

おわりに

多種多様な家族ドラマを展開しつつ、真摯で客観的な職業ドラマ、ヒューマンドラマが織りなす重層的な展開は秀逸です。

非常に緻密な構成ながら、有機的で心を揺さぶる展開も多く、本当に質の高いドラマ。

家族が増えるという現象について考えてみたいとき、ぜひおすすめしたいドラマです。

 

  

 

 

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第2話

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