映画『ひまわり』
今年強化すると宣言したイタリア映画、ようやく2本目。
添い遂げることを誓い合った夫婦が、戦争によって引き裂かれる悲劇を描く名作です。
ネタバレします。
あらすじ
第二次世界大戦下のイタリア。
ナポリ出身の女性ジョバンナは、海岸で出会った男性アントニオと恋に落ちた。
アントニオはアフリカ戦線行きを控えていたが、12日間の結婚休暇を目当てにジョバンナと結婚する。
夫婦で幸せな日々を過ごすうちに、お互いを本気で愛するようになった2人。
一緒にいられるようにとアントニオが精神疾患を装うことを画策したが、間もなく詐病がばれてしまう。
アントニオは軍紀を破った懲罰としてソ連戦線へ送られてしまい、そのまま行方不明となる。
雪原で行軍の最中に消息が途絶えたアントニオを、終戦後も探し続けたジョバンナは、ついにソ連へ彼を探しに行くことを決意する。
率直でまっすぐな愛
ジョバンナとアントニオの愛情表現はいつも率直でまっすぐです。
THEイタリア映画な表現と言っても良いでしょう。
出会ったばかりの時の海岸での場面から、出征による別れが訪れるまで、2人の間には隠し事もわだかまりもありません。
短い期間ではありますが、プレゼントを贈り、それに喜び、大量のオムレツを作ってはしゃいだり、食べきれなくて嘆息したり、他愛ない感情を全力で共有しています。
明るい南イタリアの風景とともに、明るく深い愛が伝わってきます。
終戦後も続く悲劇
突然過酷なソ連戦線へ送られることが決まったアントニオを、ジョバンナは不安と惜別とともに送り出します。
戦争が終わっても彼の消息はわからず、雪中行軍の際に置き去りにされたことだけが伝えられました。
ソ連でアントニオを探し始めたジョバンナですが、イタリア人兵の大量の墓標や、亡くなったイタリア人たちの骨が埋まっているひまわり畑などを見せられます。
町中で出会ったイタリア人に声をかけても、「私は今やソ連人だ」と意味深なことを呟かれ、立ち去られます。
それでも諦めずに探し続けた彼女はアントニオの家を探し当てますが、そこにいたのは若い現地の女性と小さな女の子。
彼は雪原の中で少女に命を助けられ、彼女と家庭を持っていたのでした。
予測できなかった結果に、ジョバンナとともに言葉を失ってしまう場面です。
町で会ったイタリア人男性の意味深な発言の意味が、ここで判明しました。
ジョバンナはアントニオの出征時に彼と共に過ごす時間を失っただけでなく、この場面でもう一度アントニオとのつながりを絶たれます。
彼女はアントニオを2度喪失しなければならなかったと言えるでしょう。
戦争と人間
新しい妻との生活を始めたときには、それまでの記憶を失っていたアントニオですが、ジョバンナと再会してすべてを思い出したのか、動揺した表情を見せます。
ジョバンナは彼を振り切って電車に飛び乗り、大声で激しく泣いて悲しみを隠しません。
この様子が後の場面との印象的な対比になります。
ジョバンナはイタリアに帰り、辛い決別の記憶を乗り越えてミラノで新生活を始め、新しいパートナーもできました。
彼とはしゃいで喜ぶジョバンナは、序盤のアントニオとの出会いの頃と同じくらい生き生きしているように見えます。
そして、彼女と話をしに来たアントニオと会っても、お互い今の生活を捨てることはしません。
ソ連に帰る彼をミラノ中央駅で見送るジョバンナは、ソ連で彼を見つけたときとは対照的に、声を押し殺して咽び泣きます。
ソ連で泣いていた時は、失った愛や時間に絶望した涙だったけれど、
ミラノでは今ある幸せを捨てて彼と元通りにはなれないこと、彼との別離の辛さを乗り越えて生きていかなければならないことを覚悟した、もっと複雑な涙だったでしょう。
この映画では、運命の相手と思いあった男女でも、戦争に引き裂かれ、幸せを諦めなければならなかった悲しい描写が印象的です。
しかしそれ以上に、 辛い過去や命の危機を乗り越えて、新しい生活を始め、新たな家族との絆を築き始めた2人の逞しさに心を打たれます。
また、ソ連での行軍の長い描写を経て、人間の命も心も追い込む戦争の過酷さが入念に表現されていました。
ソ連での戦いを経験した男性たちの表情が一様に暗いのも、戦争と言う圧倒的な暴力の前で、人間の心がいかに簡単に挫かれてしまうかを示唆しています。
おわりに
ジョバンナはアントニオを2度失い、アントニオは生死の境をさまよう苦しみを味わいます。
気力も記憶も打ち砕かれるような思いを味わいつつも、それでも続いていく人生を生き抜いた姿が淡々と描かれ、悲しいながらも人間の強さを感じさせてくれます。
そして、アントニオのように過去をなかったことにして生きた人や、ジョバンナのように辛さを乗り越えて新たな人生を始めた人が、戦争によってどれほど生み出されただろうか、と考えさせられました。
フランス映画『シェルブールの雨傘』との共通点も多く感じる、非常にヨーロッパ映画らしい作品です。