本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『愛を読むひと』

ドイツ留学中に現地で観て、今般再鑑賞した映画です。

数奇な恋愛の話かと思いきや、ナチスドイツの罪を問う重々しい展開に後半は圧倒されがちになります。

最後までネタバレします。

 

 

あらすじ

1960年代のドイツ。

15歳の少年マイケルは、突然具合が悪くなり道端で動けずにいたところを、21歳年上の女性ハンナに助けられる。

熱から回復した後、お礼にハンナを訪ねたマイケルは、彼女と男女の関係になり、足しげく家に通う。

やがて、ハンナに頼まれて『オデュッセイア』などの物語を読み聞かせるようにもなる。

しかし、ある日突然ハンナは彼の前から姿を消し、消息がつかめなくなってしまう。

時が経ち、ハイデルベルク大学の法学部で学業を修めていたマイケルは、ある日衝撃的な形でハンナとの再会を遂げる。

 

ハンナの葛藤

ドイツ語が理解しきれなかったところを消化しつつ、大筋はわかってる中でハンナの行動を見てると、非常に辛いものがありました。。。

マイケルとのやり取りの中で現れる気まずい瞬間をかわし(料理のメニューをさりげなく先に読ませて同じものを注文する)、職場での昇進の打診も擲って蒸発し、罪を軽くする証明すらも拒んで、文字が読めないことを隠し続ける。

序盤の情緒不安定な様子も、結末を知っているとなぜなのか理解できてしまいます。

重大な隠し事をしながら、それがいつ明るみに出るかわからない怖れと常に闘いながら暮らしているからです。

のちの裁判で、読み聞かせ役に指名した相手を次々移送していたのも、非識字者だとばれたくない一心だったのでしょう。

文盲であることを隠すために、仕事も限られ(現場仕事ならできるが事務職はシーメンスでも市電でも徹底的に避けています)、人と深い関りを持つこともできません。

そんな中で得られた数少ない人間関係が、マイケルとの奇妙なつながりです。

ついついいろんな思いをぶつけがちだったんだろうと想像がつきました。

 

ハンナの秘密

劇中では、なぜ一生隠し続けたハンデをハンナが負うことになったかは語られません。

全てを擲っても隠さなきゃいけないことだったのか、そこに別のトラウマがあったのか、ハンデを負ったことに加えて、身寄りや友人やパートナーもいなかったことが、克服のきっかけを失った背景だろうか。

色々考えていましたが、他の方のレビューを読んでみたところ、原作小説『朗読者』に書かれている彼女のルーツにヒントがあるようです。

ハンナはルーマニアの田舎町出身で、ヨーロッパの人なら流浪の民ロマであろうと推察できる特徴が書かれているそうです。

定住しない生活を送っていたなら、学校に行けず文盲であるのも納得です。

そして、滞在した先の住人と、定職を持たない貧しい暮らしゆえにトラブルが多いロマは、長らく差別の対象となってきました。

ナチスドイツでは、ロマは「劣等民族」の一つに数えられ、絶滅政策がとられました。

ユダヤ人と同様に強制収容所に入れられ、数十万人のロマが殺害されたと言われます。

また、ドイツ以外の国でも、第二次世界大戦までは店舗を持って開業することが禁じられていました。

戦後のソ連や東欧圏では移動禁止令が課され、定住・同化への圧力がかけられたほか、西側諸国でもロマを少数民族と認め、権利を保障する動きはありませんでした。

戦後の反省を通して、声が聞かれ始めたユダヤ人の人々と比べても、遜色ない過酷な社会的立場であることが窺えます。

このことこそが、ハンナが絶対に秘密を明かさなかった理由でしょう。

文字が読めないことを告白したら、おそらく「何で?学校行かなかったの?どこで育ったの?」→「ルーマニア出身?かつ文盲?えっ…」→ロマだと暴露される、という不安があったのではないでしょうか。

自分の短いヨーロッパ在住歴(00年代)を振り返ってみても、ロマに関する数少ない情報はネガティブな評判でしたので、「ロマだとわかった瞬間に排除される」恐怖は非常に強かったと思われます。

その思いの片鱗は、人と関わらず、でも真面目に仕事をして、社会に溶け込もうとしている姿勢からも読み取れます。

マイケルが裁判時に、文盲であることを明らかにするべきと考え、ハンナに面会を試みるも立ち去ってしまった理由も、このへんにあるのかもしれません。

こちらもほとんど語られませんが、少年の頃の関係が暴露されることへの怖れ(相手はロマの女性)、ハンナが隠し続けてきた属性を暴いてしまうことの重みの理解があったとしたら、少し納得できるような気がします。

 

マイケルの反省

留学当時、一緒に映画を観たお姉さんが「期待させては突き放して、あの主人公何なんだ」と怒ってた意味が今ならわかります。

そのときは少年時代の主人公と同じ歳くらいだったから、まあ踏み切れない時もあるのかなくらいに思っていました。

今観ると「少年時代はともかくとしておっさんになったらちゃんと自己開示して深く人と関わりなよ…」と思います。

家父長感溢れる抑圧的な父親、温かさのないぎこちない家族、好きだったハンナの突然の失踪なんかを経て、(娘に対しても誰に対しても)心を開けない人になってしまったと、根拠はちゃんと描かれています。

でも本当に人と繋がろうと思うなら、そのくらい大切な人がいるなら、失敗覚悟で相手の懐に飛び込んだり、相手を受け入れる勇気を持つ必要があります。

ようやくまともに関わりかけたハンナが、彼の手をすりぬけるように自殺してしまった後、マイケルはついに娘に過去を語り始めます。

誰にも言えなかった過去を、娘に打ち明けることで、マイケルは本当の意味で人と関わることを始めたのではないかと思えます。

その兆しが見えたのが、ハンナとも妻とも安心できるつながりを築けなかったマイケルの成長と言えるのかもしれません。

 

ハンナと本

ハンナは『オデュッセイア』に涙したり、冒険小説を楽しんだり、豊かな感受性も知性も持った人だったのだと思います。

ハンナが思い切って足を踏み入れる刑務所の図書館では、本棚に並ぶのが古い本ばかりなのに妙にカラフルで美しいです。

本当はあんなにお洒落な本棚なはずないとは思いつつ、新たな世界が拓けたハンナの目線を代弁しているかのようで印象的でした。

個人的に、もっとハンナの学びが深まって、自身の背負う罪について整理できていたら結末は変わった気がします。

裁判の時には(要約すると)「私は自分の仕事をしただけなんです」と悪気なく証言していた彼女に、罪の意識は希薄だったことが窺えます。

正直に証言しようという真面目な姿勢はあったけれど、行動の意味や罪の重さを理解するだけの理性は持ち合わせていなかったわけです。

しかし、本を読んで学ぶことで、自分のしたことの意味はだんだんと理解していたんじゃないかと推測します。

でも多分、薄々罪の重さに気がつきつつも考えないようにしていて、過去に整理をつけるところまでは考えが追いついていなかった。

だから、マイケルに自分の罪をどう思うか質問された時に、目を背けたような発言をしてしまいます。

何をしても死んだ人は還ってこない、というのは、喪った人に別れを告げようとする遺族が言うならわかりますが、多くの命を葬った張本人が言うことではないはず。

哲学も歴史も法律も深く学んだことのない彼女に、向き合いきるのは難しい罪だったかもしれません。

一方で、自分を見たマイケルの目のなかに幻滅があることには気付いてしまった。

そこで初めて、罪の重さが真に迫ってのしかかって来たのかもしれません。

だから死を選んだのかな、という気がしました。

本を踏み台にして首を吊ったのも、知識を深めたことによって、本を通してマイケルと関わったことによって、自分のしたことの意味がわかってしまったためではないかと思います。

だけどそれを整理して折り合いをつけるだけの知識や言葉はまだ持っていない。

どうしたらいいかわからないのに、唯一頼りにしていた人にも罪が理由で見放されてしまった。

序盤で「謝る必要なんて誰にもない」と叫ぶセリフが、妙に彼女の生き方とシンクロして聞こえてきます。

ずっと自分にそう言い聞かせてきたんだという気がするからです。

 

ナチスの罪を裁く

今でこそ世界中に認知されているドイツの「ナチス時代の反省」ですが、戦後まもなくのドイツにそうした態度はまだありませんでした。

必死で復興しなければならなかったし、東西分裂のバタバタもあったからでしょう。

映画『顔のないヒトラーたち』では、「ナチスを逮捕なんかしたらドイツ国民全員いなくなっちまうよ」と笑う人も登場します。驚きです。

kleinenina.hatenablog.com

しかし、同作にも登場する検事フリッツ・バウアーが始めたフランクフルト政治裁判を皮切りに、戦争犯罪者を裁く裁判が始まります。

ハンナが裁かれたのもそんな裁判の一つです。

マイケルの同級生が「親世代は、収容所があるのを知っていて何食わぬ顔で生きていたのか」とショックを受ける場面がある通り、戦争中の罪に対する認識が変わり始めていた頃です。

それまでは、戦争という非常事態で起こったことを、平時の法律で裁くことに反感も高かった模様です(平時では犯罪になること。

ハンナが罪の意識や危機感を持てていなかったのには、そういう背景も一役買っていたかもしれません。

自分の勤める収容所が満杯になってしまうから、アウシュヴィッツに移送しただけ。

収容者を監視するのが仕事だから、火事のなか彼らを解放できず閉じ込めていただけ。

だってそれが戦争のなかで求められていた自分の仕事だったから。

刃物や銃を持って人を殺したわけじゃない。

さらに清々しく「業務だからやりました」と言っている人物として、イスラエルで法廷に立ったアイヒマンが挙げられます。

彼については以下二本の映画で取り上げられていました。

kleinenina.hatenablog.com

kleinenina.hatenablog.com

アーレント博士が語る通り、アイヒマンは忠実な仕事人間でいることのみによって、何万人ものユダヤ人を死に至らしめました。

ハンナも、殺意はなかったにしろアイヒマンと似た道筋を辿ってしまったように見えます。

歴史の重さにしり込みしそうになっても、自分と同じ人間が過去に何をしてしまったのか理解することは、この先社会を作るために不可欠なことだと思います。

理解しきれない出来事を知った時にも、持てる限りの言葉と知識で向き合う姿勢は、生涯を通して学んでいかなければならないのかもしれないと考えさせられる映画でした。

 

おわりに

特に後半は重い展開が続く映画ですが、考える時間のある時に、たくさんの人に集中して観ていただきたいと思う作品でした。

最初から重い歴史のすべてを理解しきれる人はいないからこそ、皆で時間をかけて考えるべきだと思うテーマでもあります。

ドイツ関連の映画はついつい記事が長くなってしまいますが、少しでもどなたかの参考になれば幸いです。

 

 

 

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映画『マリッジ・ストーリー』

ある夫婦の離婚を描いた秀作映画をご紹介します。

離婚未経験の既婚者、という状況で観てみて出てきた感想を、ネタバレしながら率直に綴っております。

 

 

あらすじ

ニューヨークで舞台監督として生計を立てるチャーリーは、女優の妻ニコールと二人三脚で、息子ヘンリーを育てている。

公私ともにパートナーの二人だったが、カリフォルニアで暮らしたいニコールと、ニューヨークで働き続けたいチャーリーの間で方針が合わず、離婚手続きに踏み切る。

調停の最初のステップでつまずいたニコールは、当事者同士の協議で離婚を完了しようとするが、カリフォルニアの仕事仲間からのすすめで弁護士を立てることにする。

あくまで穏便にプロセスを進めたいと思っていた二人だが、第三者を立てたことで協議が激化し、裁判にまでもつれこんでしまう。

お互い、そして息子にとって最もベストな選択を探るため、チャーリーとニコールはともに七転八倒して苦悶することになる。

 

離婚というテーマ

「離婚」という特定のステージや状況について絞り込み細かく描写し切っているため、共感しやすい人口はよくある恋愛映画・ファミリー映画と比べると少な目かもしれません。

登場人物を具体的に描けば描くほど観ている人と遠くなる(観ている人との共通項が少なくなる)、というジレンマを呑み込んで描いた話だと思いました。

だからこそ、掘り下げの深度については折り紙付きです。

恋人だったら「やっぱり合わなかった!」で別れて終わりですが、一つの家族を作った後に別れるとなるとこんなに痛みを伴うのか、というのが詳らかにされます。

というのも、一度は愛し合った人たちが罵り合い殴り合いになるからです。

劇中でノラがstreet fightという言葉を使ったのがまさに的を射ています。

(日本のドラマ『リーガル・ハイ』でも、主人公が「離婚裁判はルール無用のストリートファイト」と形容していたのを思い出しました。離婚という現象の普遍性は、国境を越えてるんだなと感嘆します)

さらに、子どもがいなければ罵り合いながらも財産分けてサヨナラかもしれないのですが、二人とも失うわけにいかないヘンリーとの絆ってもんがあります。

行儀良く、お金をかけずに負けることは簡単だけど、それでは子どもに会えなくなってしまう。

だからチャーリーは多額の弁護士費用がかかっても、「勝てる」弁護士に鞍替えするわけですね。

ヘンリーがいるからには、「かっこよく去る」ことは選択肢にないから。

とはいえ、夫婦の歴史、家族の歴史が長ければ長いほど、「今までは何だったの」「何で自分たちで築いたものを全力で否定して壊しているの」という虚無感や悲しさがあるんじゃないかと感じました。

数多のレビューで言及されている、二人きりでの罵り合いの場面は、互いに相手を全力で傷つけあっているにも関わらず、「本当はこんなことしたくなかったのに!」と言っているように見えます。

でも、少しずつたまった歪みや、抑圧してしまった望みに、向き合わなければならない時がついにやってきた、というのも、他ならぬこの二人の歴史なのだと思います。

 

チャーリーの苦悶

独立した二人の人間が長く一緒に暮らし続けるためには、日常どこかで生まれざるを得ない不満を、お互いこまめに発散しあったり、一緒に解決したりする必要があるでしょう。

でもチャーリーは、そういう人間関係のメンテナンスの仕方を、自分の生まれた家族からおそらく教わっていません。

親がアルコール依存症を抱えた、機能不全家庭に育ったことが語られているので、安心感や自然さとは無縁の、寂しい幼少期を送ったと思われます。

安心できず、緊張感溢れる家に育つと、自分の内面に閉じこもってひたすら防御体制を取るしかないのはわかる、わかるよ。。。

話し合いや交渉の仕方がわからないから、主張し続けて戦って勝つしかないと思うのも、その結果でしょう。

ニコールからたびたび「話し合っても譲ってくれない」と指摘されているのは、彼のそうした特徴の表れだと思います。

現在の姿からその人の過去を読み取らせるという映像表現の基本に忠実でしたが、見てて何とも心が痛い。

一方でチャーリーが指摘したニコールの「意見もないのに声を上げたがる 文句を言いたいだけだ」というのはあまりピンと来なかったですね…ニコールの母親には当てはまると思うんですが。

辛い家庭環境から派生した内省しまくる力を仕事にも役立ててるチャーリーからしたら、ニコールは意見がないと映ってしまうのかもしれません。もしかしたら。

ただチャーリーが折れないから引き下がっただけとも見えるという。。。

このへんは、「夫婦のことは当人同士にしかわからない」というか、「夫婦のことなんて当人同士にだってわからない」というか、そんな領域に思えます。

チャーリーの苦悶を辿って行き着くところが、幼少期から培ったコミュニケーションの方法の違いにあるからこそ、「ここでこうしていれば」という解がなくてやり切れませんでした。

彼のこの特徴を克服しなければ、(多少延命することはできても)遅かれ早かれニコールとの関係は破綻を迎えていたと思うし、そうでなくてもニコールが我慢することでしか続かなかったと思うからです。

 

ニコールが望んでいたこと

そんな中でも、決定的な転換点があったとすればどこだろうと考えると、二つ思い浮かびました。

一つは、過去にチャーリーにLAの仕事の打診があった時。

もう一つは、チャーリーが仕事仲間と浮気をしてしまった時。

前者の時点で、カリフォルニアに移住を決意していれば、ニコールも望むかたちで家族の運営ができていたかもしれません。

ただ、二人の現在の様子を見る限り、チャーリーがそれを受け入れてくれる展開がどうしても思い浮かばず、きっと無理だったろうなと思います。

やはりチャーリーが無意識のうちに身に着けた「押し切る」かたちの交渉が家庭内で定着している限り、移住は難しかったはず。

実際問題として、ニューヨークとカリフォルニアって東京大阪以上のカルチャーギャップがありますし(劇中でみんな「カリフォルニアのが広い」としか言わないけど笑)、ニューヨークで上手く行きかけた仕事を手放すのはきっと勇気が要ったでしょう。

後者は、もうこれは100%チャーリーが悪いと思うのでノーコメントです。笑

回想がほぼない映画なので、どんな状況だったかは想像するしかないけど、そこでよそに逃げては行けなかったんだと思います。

そして、この二つの転換点を振り返るとニコールが望んでいたことも見えてきます。

仕事ではチャーリーが監督、ニコールが演者という立場。

しかし家庭でも、チャーリーが方針を決め、ニコールはそれに従うという役割分担を徹底されては、息が詰まってしまいます。

一体自分の意志は生活の中のどこで反映されうるのか、ニコールは悩んだはず。

彼を支えたいから必死に合わせてサポートしてきたけど、自分がサポートされる場面はいつやってくるのか?と思ってしまっても仕方ない。

映画を見る限り、母業もばっちりこなして、融通の利かないチャーリーよりも、きめ細かくヘンリーに寄り添っているように見えます。

なのに何も意見を聞き入れてもらえなかったら、「誰のために頑張ってるんだろ」という考えが出てきてしまう。

ヘンリーのための頑張りはまあまあ報われている(相互に意思疎通できている)、だけどチャーリーのために頑張っても、この先も認められることはないんじゃないか?と思って糸が切れたのかもしれません。

そういう時にこそ逃げずに向き合ってほしいのに、もし浮気が判明したりしたら、そりゃ共同生活を続けていく気力は潰えてしまうわけで。

離婚は二人の問題だと思うのですが、正直ニコールにはあまり非が見当たらないと感じてしまいました。

一切合切の望みを伝えず、「いつか気づいてくれる」とただひたすら尽くす察してちゃんなら、「思ってることはちゃんと伝えようよ」となるんですが、そうは見えない。

意見を言っても、きっとチャーリーが折れてくれなかったんだろうな、と思えてしまうんですよね。

 

対等なパートナーでいるには

終盤に印象的なシーンがあります。

カリフォルニアでの仕事で、ニコールが賞を獲ったことを知るチャーリー。

女優としての賞かと思いきや、監督賞だと聞かされて驚きます。

大げんかでの「意見もないのに声を上げたがる」という彼の指摘とは正反対。

監督としての自分に忠実に女優をしてくれていたニコールにも、仕事の中で反映したい意志があり、しかもそれが業界で評価されている。

自分の知らないニコールがいたんだ、それを自分の前では表現できなかったんだと悟るシーンに思えます。

また、二人の人間が対等なパートナー同士でいるには、「片方が監督で、片方が演者になる」のではなく、「お互いが共同監督になる」必要があるというメッセージではないかと感じました。

二人で常に同じことを、同じやり方でしている夫婦はいないと思います。

お互い別の人間だから、やりたいことも違えば、取りたいやり方も違う。

なのに「俺はこういう作品が撮りたい。こういう脚本で、こういう演出で演じて」と片方だけが指示を出し続け、片方だけが従い続けていたら、いつか破綻してしまう。

それは上司と部下の関係であって、対等とは言えないからです。

お金をもらって仕事としてやるからこそ、そういうことも耐えられるわけですが、家庭ではやりたくないですね。笑

「わかったけど、次はこういう作品が撮りたい。こういう脚本で、こういう演出で。だから次作では協力してね」と言い合えたら、長期的なパートナーとして共同生活していけるのかなと思います。

 

おわりに 

愛し合った二人が離れる切なさというのはあるんですが、離婚を扱った他作品として『ミセス・ダウト』を思い出しました。

「家族の形は様々」「お父さんとお母さんは、離れて暮らした方がbetter peopleでいられるのかも」というセリフがあって、まさにその模索をこの二人はしているんだなとしみじみしました。

そして、本筋とは関係ないですが、弁護士費用の高さやノラの交渉術の凄まじさに、米国社会に「離婚産業」が確立されていることを実感しました。

しかもノラの言うことがいちいち的確です。

「欠点のある父親は愛されるけど、母親は完璧でないといけない」のくだりはその筆頭です。(「なぜならマリアは処女懐胎したから」の説明にぐうの音も出なかった)

ともあれ、離婚を描きながらも、「結婚生活に大切なことって何だろう」と考えさせ続ける脚本が秀逸でした。

主演二人の渾身の演技も素晴らしいし、脇役も盤石です。

結婚や家族について考えてみたいとき、ぜひおすすめしたい作品です。

 

 

 

ミセス・ダウト (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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マリッジ・ストーリー

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時間がキーワードになる映画6選

6月10日の時の記念日にちなんで、物語の中で時間がキーワードになる映画6本をまとめてみました!

 

 

1.アバウト・タイム~愛おしい時間について

アバウト・タイム ~愛おしい時間について~ (字幕版)
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  • 発売日: 2015/04/10
  • メディア: Prime Video
 

ある日突然、父親から、タイムトラベルの能力を持つことを告げられる主人公の青年ティム。

能力を駆使して、恋した女性メアリーとの距離を縮め、ロンドン生活も順風満帆。

しかし、何でもありに見えたタイムトラベル能力でも決して突破できない問題に直面する時がやってきます。

皮肉とイングリッシュジョークに満ちながらも、家族やパートナーとの終始温かいやり取りが心に染みるストーリーです。

個人的には、メアリーの着ていく服を二人で選定する場面が、二人の関係性がよく現れていて好きです。

 

2.きみがぼくを見つけた日

きみがぼくを見つけた日 (字幕版)
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  • 発売日: 2013/11/26
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『アバウト・タイム』と同じく、レイチェル・マクアダムスがヒロインを演じていますが、本作の主人公エリックは自分でタイムトラベルの能力を制御することができません。

いつどこで、どんな行き先にタイムトラベルしてしまうか全くわからず、しかも毎回全裸で放り出されると言うしんどい世界。

でも引力に導かれるように重要な出来事に引き寄せられます。

パートナーとなる女性クレアもそんな出来事の一つ。

しかし、運命的な恋をした二人なのに、思ってもないタイミングでタイムトラベルが起こり引き離されたり、二人でいることによる悲しい出来事にも直面してしまいます。

煩悶しながらも互いを思いやる二人の姿に途中から涙が止まりませんでした。

タイムトラベルは一つの比喩であって、パートナーとともに生きると言うこと(一緒にいられる時間もいられない時間も二人の人生として乗り越えていくこと)を象徴的に描いたストーリーかなと思う作品でした。

 

3.ベンジャミン・バトン  数奇な人生

ベンジャミン・バトン 数奇な人生(字幕版)
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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

年老いた体で生まれ、年々若返ると言う数奇な体質を持った主人公ベンジャミン・バトン。

体が辿る時間の流れはあらゆる人と逆ですが、経験は他の人々と同じ。

初めての一人暮らし、仕事、お酒、初恋などを経て成長していきます。

人は身体的特徴だけを共通項としてわかりあえるのではなく、記憶の共有を通じてつながれるのだと教えてくれる映画です。

家族を持った時、決定的に人と違うことを思い悩んだベンジャミンが、一体どんな決断を下すのか、家族は彼とどう向き合うのか、何度も思い返してしまうストーリーでした。

 

4.君の名は。

君の名は。
君の名は。
  • 発売日: 2017/07/26
  • メディア: Prime Video
 

説明不要の大ヒットアニメです。

夢の中で互いに入れ替わっていると気づいた田舎の女子高生・三葉と、東京の男子高校生・瀧。

喧嘩しながらも協力して入れ替わり生活を送り、絆が深まってきたところで、突然会えなくなってしまい、瀧の謎解きが始まります。

青春もの・冒険ものど真ん中な甘酸っぱさと爽やかさは、普段アニメを見ない人にもとっつきやすい仕上がり。

緻密な伏線や、密度の高い展開を描きつつも、主人公二人の心の動きが辿りやすいのも多くの人の心をつかんだ要因でしょう。

『天気の子』と比べて、二転三転する展開や、ミステリーとしての完成度は此方のほうが高めだと感じます。

どんなに遠くに住んでいても距離を越えて会うことはできますが、二人を隔てる絶対的な壁に隔てられ、再会することは叶うのか、手に汗握りつつ応援してしまう名作です。

 

5.青天の霹靂

青天の霹靂

青天の霹靂

  • 発売日: 2014/12/10
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主人公の晴夫は35歳の売れないマジシャン。

小さな頃に母親は自分を置いて家を出たため、父親に男手一つで育てられたものの、現在は音信不通。

しかし、うだつの上がらない毎日を過ごしていた晴夫のもとに、父が死んだと警察から連絡が来ます。

茫然とする晴夫を突然落雷が襲い、目を覚ますとなぜか昭和48年の浅草にタイムスリップしていました。

そこで出会ったのは、若き日の父親・正太郎と母親・悦子。

晴夫は生きていくために二人の正体を知りつつ何食わぬ顔で正太郎と同じ雷門ホールで同僚として働くことになります。

タイムスリップして若い頃の両親に会い、というモチーフ自体は新しい物ではありませんが、晴夫と正太郎が同僚として絆を深めていく過程が面白く微笑ましいです。

とくに劇団ひとりは、普段とやってることが変わらない…笑

そして、自分の人生が上手くいかないこと全てを親のせいにして生きていた晴夫に、ある変化が生じるところも見応えありです。

派手なことや斬新な展開はないけど、良い話が観たい、という時に間違いなくおすすめなお話です。

 

6.バック・トゥ・ザ・フューチャー3部作

バック・トゥ・ザ・フューチャー (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2 (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3 (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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タイムトラベルと冒険活劇と言えば!の超名作シリーズです。

主人公マーティとドクの名コンビが、さまざまなタイムトラベル先であらゆる知恵と技術と機転を駆使して困難に立ち向かいます。

二人の友情とマーティの奮闘ぶりに目が離せないのは毎度のことですが、最終盤でマーティに見られる成長も見どころの一つです。

まだ観たことない方には一刻も早くご覧になることをお勧めします。笑

「いやー映画ってほんっとに良いもんですね」と言いたくなること必至の冒険物語です。

 

おわりに

まとめて見てみると、一つ一つがエンタメとして完成度が高いのはもちろんなのですが、しみじみ噛みしめたくなる余韻やメッセージを持った作品ばかりです。

時間って身近なテーマだからこそ、自分の生活と重ね合わせてあれやこれや省みたり、こんな冒険がないかなーとワクワクしたりしてしまうものかもしれません。

読んでいただいた方のおうち時間も、より楽しく充実することを願っております。

またテーマに沿って映画を紹介する記事を書きたいと思います!

 

長くて濃い!大長編映画9選

巣ごもり期間中にアップロードすべきだったのですが、今更ながら。

時間長いなあ…と敬遠してしまうけれど、是非観てほしい!と思うおすすめ大長編映画をご紹介します。

 

 

歴史を語る大河ドラマ

アラビアのロレンス(207分)

アラビアのロレンス (字幕版)

アラビアのロレンス (字幕版)

  • 発売日: 2015/01/08
  • メディア: Prime Video
 

 3時間半の大長編、『アラビアのロレンス』。

当時、部族同士で分かれて争っていたアラブ世界は、「国家」としての枠組みに無頓着。

多大な影響力を持つオスマントルコや西側列強に立ち向かう術がありません。

イギリス陸軍の軍人として現地にやってきたロレンスは、砂漠の美しさを愛し、アラブ民族にも積極的に関わります。

一方でアラブの人々に対し「部族同士で争う限り、いつまでも無力で愚かな民族に過ぎない」と断言し、部族の垣根を超えて結束し立ち上がることを求めます。

文化も何もかも違うイギリスから来た彼が、アラブの人々を率いて迎える結果に、最後まで目が離せない超大作。

雄大で美しくも過酷な砂漠のロングショットも特筆すべき作品です。

 

風と共に去りぬ(231分)

南北戦争下のアメリカを力強く生き抜く主人公、スカーレット・オハラの半生を描くドラマです。

激動の時代に突入する南部社会、恋い焦がれ続ける憧れの男性アシュリーとその妻メラニーとの関わり、運命的な出逢いを繰り返すレット・バトラーとの愛など、ドラマチック要素山盛りのストーリーが展開します。

炎上したアトランタを脱出し、戦後の困窮の中を必死で生き抜き、鬼のようにモテるのに恋や結婚に七転八倒するヒロインから目が離せません。

強く苛烈なスカーレットと、静かでたおやかだけど愛の力で人生を切り開くメラニー、二人のヒロインの対比も印象的です。

見終わった後に、自分も強く生きて行かねば!と勇気をもらえる映画の筆頭です。

kleinenina.hatenablog.com

 

ゴッドファーザー(175分)

ゴッド・ファーザー (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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 序盤の結婚式のシーンから、並々ならぬインパクトでドン・コルレオーネの人柄を伝えてくる、フランシス・フォード・コッポラ監督の傑作。

伝説的俳優マーロン・ブランドが唯一無二のオーラを漂わせ、主演を張ります。

ドンのあまりに魅力的な人間性(特に有無を言わせぬ包容力!)、マフィアの世界の無慈悲かつ重厚な人間関係、そして贅沢に美しい映像で、3時間があっという間です。

終始抑えた淡々とした描写ながら、世界観に浸りきっている内に物語がどんどん進んでいきます。

作られてから数十年が経つも、これを超える「かっこよさ」の映画が一体世界に何本あるだろうか、と思わされる名作です。

 

地獄の黙示録(202分)

こちらもフランシス・フォード・コッポラ監督の大作です。

ベトナム戦争である極秘の暗殺任務を命じられた主人公は、戦地の奥まで川を上ってカーツ大佐を探しに行きます。

途中、味方の部隊による狂気的な空爆や、殺すか殺されるかの死線を潜り抜けながら、軍紀を乱したカーツを殺しに行くことの意味を葛藤します。

優秀な軍人であったカーツは、なぜ森の奥地で独自の帝国を築いたのか、という説明はあまりない一方、そこに至るまでのタガが外れた軍人たちの様子の方が雄弁かもしれません。

ワルキューレの騎行』をBGMとした空爆シーンや、慰問に熱狂する軍人たち、恐怖心から殺戮を止められない仲間、などを見ている内に、誰が正気なのか、何のための戦争なのか、わからなくなること必至です。

そういう意味では、観ている人をウィラードと同じくらい深い葛藤に引きずり込むために必要な尺と言えます。

個人的には序盤の壮大さ・鮮やかさに比べ、後半はやや失速感がありますが、それでもたくさんの人に観ていただきたい一本です。

 

シンドラーのリスト(195分) 

シンドラーのリスト(字幕版)

シンドラーのリスト(字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 第二次世界大戦中、ユダヤ人たちを労働力として雇用することで、迫害から守り切った実業家シンドラー

彼がその業態を始め、たくさんの人々を救った様子を描いたスティーブン・スピルバーグ監督の代表作です。

救われた人々の横顔を可能な限りリアルに描写し、さらに迫害する側だったドイツ人の姿も人間として描こうとしています。

そうした丁寧な描写を徹底したからこその長大な映画に仕上がったと言えます。

シンドラーと助手の男性の絆が時間をかけて深まっていった描写は特に印象的でした。

 

人生の物語に浸る名作

ベンジャミン・バトン 数奇な人生(167分)

ベンジャミン・バトン 数奇な人生(字幕版)

ベンジャミン・バトン 数奇な人生(字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 年老いた老人の姿で生まれ、年々若返っていくという奇妙な人生を送る主人公ベンジャミン・バトン。

しかし、初めての一人暮らし、初めての仕事、初めての飲酒、初恋、と展開していく彼の人生は、ごく普通の人々が、成長の一過程を積み重ねていく様子と同じ。

誰しも経験を通して成長し、それを周囲の人と分かち合って生きていくのに、生まれ持った体や境遇で人々を区別することに、どれほど意味があるだろうかと考えさせられます。

船の仲間が呟く「太った奴 ヤセた奴 そして白人も 人は皆孤独だ 孤独を恐れてる」という言葉も含蓄が深いです。

人生に絶対はない中で、人が経験や記憶を誰かと分かち合おうとするのは、孤独を恐れ、寂しさから逃れたいからかもしれません。

しかし、圧倒的な違いや壁を乗り越えても、たとえ辛いことがあっても誰かといたい、その人のために何かしたいと思える時、それは孤独を紛らわすための人間関係を越えた愛になるのかなと思わされました。

絶対的に人と違う特徴を抱えながら生きるベンジャミン・バトンの姿が、いつまでも思い出される秀作です。

 

レ・ミゼラブル(158分)

レ・ミゼラブル (2012) (字幕版)

レ・ミゼラブル (2012) (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

ミュージカル史上最高傑作のひとつを映画化した作品。

主人公ジャン・バルジャンは、飢えて死にそうな姉の子どものためにパンを盗んだ罪から、投獄され19年の懲役刑に服します。

仮釈放中にミリエル神父の愛と寛容に感化され、生まれ変わる決意をしたバルジャンは、懸命に働いて市長にまで出世。

しかし、名を変えて暮らしていたバルジャンに、「悪人は決して更生しない」の信念を持つジャベール警視が執拗に付きまといます。

娼婦に身をやつし、絶命した女性ファンティーヌの娘、コゼットとともにさらに遁走するバルジャンですが、さらに厳しい宿命が彼を待ち受けていました。

ジャン・バルジャンの人生は控えめに言って波乱万丈、辛いこと悲しいことの嵐です。

なのに懸命に生きた彼の姿は、愛の力や生きる希望について強く訴え続けます。

何度も辛い境遇を潜り抜ける逞しさと憂いを秘めたバルジャンを、ヒュー・ジャックマンが熱演する名作です。

 

英語圏からの代表選手

きっと、うまくいく(170分)

きっと、うまくいく(字幕版)

きっと、うまくいく(字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 主人公の写真家ファルハーンは、ある日大学の同窓生から、かつての親友ランチョーの行方の手がかりを聞かされ、一路シムラへ。

ランチョーは大学卒業以来消息を絶っており、ファルハーンともう一人の友人ラージューは彼の行方が気になり続けていたのでした。

主席だったランチョーは、頭脳明晰なだけでなく、誰よりまっすぐで自分の心に正直な人物でした。

苛烈な成績競争の中でも楽しく学び、「何のために学ぶのか?」「本当はどう生きたいのか?」を問いかけ続けるランチョーの姿に、心動かされた人は多いと思います。

熾烈な受験戦争や学業への期待に苛まれる若者、というインドの社会問題を切り取った映画でもあるそうです。

同じく偏差値社会に日本の若者が悩んでいた頃に、こんな映画が作られてほしかったなあと思わず考えてしまう名作です。

時間は長いですが、インド映画らしいミュージカルパートはわりと控えめで、インド映画初見の方でもとっつきやすい作品かと思います!

 

リップヴァンウィンクルの花嫁(180分)

リップヴァンウィンクルの花嫁【劇場版】

リップヴァンウィンクルの花嫁【劇場版】

  • 発売日: 2016/09/02
  • メディア: Prime Video
 

最後に日本代表として岩井俊二監督の作品を。

大人しく受動的な女性・七海は、出会い系サイトで会った男性と結婚することに。

呆気なくとんとん拍子に決まった結婚でしたが、家に訪ねてきて七海を脅す不審な男性にはめられて、不貞の濡れ衣を着せられてしまいます。

義母に偽の証拠を突きつけられ、夫からも糾弾された七海は、家を追い出され、離婚することになりました。

頼れる人もおらず、結婚式でサクラを手配してくれた男に仕事の紹介を依頼すると、無人の屋敷の清掃の仕事を破格の給料で紹介されます。

同世代の同僚・ましろとともに、住み込みで働く七海ですが……

友達がおらず、打ち込める仕事もなく、深く愛するパートナーもいない七海が、不思議な運命に翻弄されるうちに、徐々に人との関わり方が変わってきます。

流されるままに生きてきた彼女が、奇妙な仕事、奇妙な人間関係を通してどう成長していくのか、ぜひじっくり考察して頂きたい秀作です。

 

おわりに

こうしてみると、『風と共に去りぬ』がダントツの長さですね……

現在大きな動きを呼んでいるBlackLivesMattersデモの顛末を見ていると、ある種の友情や信頼はあったかもしれないとはいえ、「奴隷対雇い主」というアフリカ系アメリカ人と白人との関係を肯定的に描く作品は、適切な内容でないのは確かでしょう。

そこは一つの記録として淡々と見るしかないのだと思います。

一方で、それを「麗しい人間関係」と捉えた背景には何があったのかを知ることも、今後誰もが対等でいられる社会を築くために役立つことを願います。

紹介文を書いていて、やはり大長編映画は大きなテーマや長い年月にわたる物語を描きだしているなあとしみじみしました。

今後も名作・大作に挑戦し続けていきたいと思います。

 

映画『ラヂオの時間』

自粛中だからこそコメディで笑いたいなと思い観てみたら、想像以上に面白かったのでご紹介します。

三谷幸喜監督作品で、若かりし頃の唐沢寿明が大活躍しています。

遠慮なくネタバレします。

 

あらすじ

ラジオドラマの生放送に向けてリハーサル中のスタジオ。

番組のつつがない放映を見守るプロデューサー、ディレクターを始めとしたスタッフたち、ラジオドラマのキャストたちが集結。

初めての脚本がコンクールで受賞し、放映されることとなった主婦のみやこもリハーサルを見学に来ている。

放送を楽しみにしていた彼女だが、主演女優のクレームでヒロインの大幅な設定変更を余儀なくされる。

他の出演者からも次々に注文をつけられ、だんだんと原型を留めなくなっていく脚本。

キャストのわがままに翻弄されるスタッフ、思い入れのある脚本が変えられて悲しむみやこのドタバタコメディでありながらも、作品づくりに励むクリエイターのプロとしての葛藤を掘り下げた珠玉の名作。

 

ドタバタ喜劇として

ラジオのスタジオという閉じられた空間であることを忘れてしまうくらい、いろんなトラブルが目まぐるしく展開します。

ラジオドラマ『運命の女』を無事に生放送するため、各スタッフがなりふり構わず奔走する様子に引き込まれました。

生放送という制約が、タイムリミットという緊張要素を加えるため、さらに手に汗握る展開になっていきます。

ドラマの舞台は熱海で、平凡な主婦・律子と漁師・寅造の道ならぬ恋、という正直地味な話。

ですが、みやこにとっては記念すべき初作品。

ところが、意に沿わない出演となった主演女優・千本のっこのわがままから、ヒロインの名前が律子からメアリージェーンへと大幅に変更、プロフィールもアメリカ人の女弁護士に変わってしまいます。

しかしこれは始まりに過ぎず、こだわりの強いナレーターや、のっこに引けを取りたくないキャストのわがままも炸裂。

熱海がシカゴになり、漁師寅造がパイロットになり、最早脚本要らなくね?という事態に。

プロデューサーの牛島はキャストのご機嫌取りに回ってしまい、作品を変えたくないみやこの気持ちは置いてきぼりをくいます。

しかし牛島やディレクターの工藤は、彼女を慮ってばかりもいられません(仕事なんで)。

キャストの満足いく設定を考え出し、設定変更に伴う考証や効果音の準備、根回しに走り回ります。

効果音ライブラリがなければ乗り切れないと思われるピンチも、あの手この手で打開していくくだりは特に見応えありです。

 

プロフェッショナルのドラマとして

冒頭、少し斜に構えた様子で、みやこに意地悪言うなーと思っていた工藤Dが奔走する中盤にグッときた方も多いと思います。

どんなくだらない番組でもな、俺にはそいつを作り上げる義務がある! それが俺の仕事なんだ!

「良い作品を作りたいならこの業界はやめた方がいい」とみやこに言った意味も、キャストのわがままをくだらないと思いつつ引き受ける理由も、このセリフで一気に繋がります。

彼自身の仕事の役割と限界を知っているからこその言動行動なんだなと納得がいきます。

番組を世に送り出すのが仕事だから、それはどうしても果たさなければならない義務である。

できれば納得いくクオリティで、作り手が満足できる作品を世に送り出したいが、一人で仕事をしているのではない以上、叶わないことの方が多い。

キャストやスポンサーがいなければ作品は成り立たない。

全部知っているからこそ、ある程度の諦念を抱えたまま仕事しているんだと伝わってきます。

しかし、牛島Pや編成マンに比べて若い工藤はまだ完全に諦めたわけじゃなく、できることなら良い作品にしたい、クリエイターの納得いく番組にしたいと思っています。

だからこそ、牛島に

これ以上変えたら、あの人の本じゃなくなる

と忠告したり、そう言うのは自分たち自身のためだと断言したりできるんでしょう。

しかし、牛島も長年この仕事をしてきて葛藤がなかったわけではありません。

堪忍袋の尾が切れたみやこが彼らに窘められ、

自分たちの都合で私の本をめちゃくちゃにしておいて、よくそんなことが言えますね!

とさらに怒ってしまった後も、「あなたは何もわかってない」とバッサリ切りつつ、職業人としての覚悟を語る長台詞があります。

マスメディアやエンタメに関わる仕事ではなくても、やりたい仕事と毎日の現実の中で葛藤している人なら誰しも共感できる内容です。

 

怒涛の終盤

ラストの結末までも変えられることになり、失意の底にいるみやこ。

番組の無事の放送や、関係者のご機嫌伺いに囚われ、作品づくりをあまりに蔑ろにしていると訴えた工藤は、その場でディレクターを下ろされてしまいます。

しかし、何とかラストはハッピーエンドにしたい彼は、同僚とともに一計を案じます。

最後に残ったみやこのわずかな望みは叶うのか、業界人たちは作品づくりという原点に立ち返ることはできるのか?

最後まで手に汗握りつつ笑わせてもらえる終盤は、見どころが沢山詰まっています。

 

おわりに

関係者からの要求が多すぎて汲々とする管理職、

理想を捨てかけている中堅のお兄さん、

人生消化試合で若者を突き放して見てるじーさん、

現場より顧客のことしか見てないトップ、

日和見の極みみたいなおじさん。

放送業界じゃなくても、どこかで見たような面々が凄まじい個性で揃っています。

だからこそいろんな人が感情移入して笑ったり感動したりできる作品になっているんですねー。

我々一般人からすると華々しく見えがちな俳優陣を主人公ポジションにつけないのも特徴の一つです。

むしろわがままを繰り出すトラブルメーカーばかりで、三谷幸喜監督の舞台人・クリエイターとしての苦労が込められているんじゃないかと思ったり。

なんとなくドタバタコメディと思って手に取りましたが、観終わってみると笑って泣けるお仕事ドラマという感じでした。

某邦画の「作品の前に、番組なんですよ」という言葉を彷彿とさせる場面が多々ありました。

笑いたいけど見応えのあるお仕事ドラマも観たい!という方に是非お勧めしたい作品です。

 

ラヂオの時間

ラヂオの時間

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 
ラヂオの時間 スタンダード・エディション [DVD]
 

 



 

映画『誰もがそれを知っている』

スペイン映画史上最強カップルが出演するサスペンス映画をご紹介します。

監督は、アカデミー賞外国語映画賞を受賞したアスガル・ファルハディ監督です。

遠慮なくネタバレします。

 

 

あらすじ

アルゼンチンに暮らす女性ラウラは、妹の結婚式のため、家族とともに生まれ故郷のスペインの街に帰省する。

老親や姉妹、幼なじみでワイン農園を営むパコとの再会を喜んだのも束の間、結婚式のパーティー中に娘のイレーネが失踪してしまう。

必死の捜索ののちにもイレーネは見つからず、脅迫が届いたことから誘拐と判明する。

時間稼ぎとラウラの奪還に知恵を絞る一同だが、混乱の恐れの中で、長年隠されてきたある真実が炙り出されてゆく。

 

映像作品として

スペイン映画界の至宝、ペネロペ・クルスハビエル・バルデム夫妻が出演しています。

二人の存在感と葛藤に引き込まれるのは勿論、スペインの荒涼とした景色があてどのない謎解きの背景によく合っています。

家族の秘密や、クローズドコミュニティのせめぎ合いを描くのは、『セールスマン』のアスガル・ファルハディ監督。

こうした主題を描くのに彼ほど適任な監督もいないと言えます。

セリフは全編スペイン語なのですが、ファルハディ監督がスペイン語スピーカーというのは聞いたことがないので、どうやって脚本を描いたのか気になります。

監督がペルシャ語で書いた原版がスペイン語に翻訳されたんでしょうか。

 

閉ざされた社会と秘密

映画前半で、みんなが再会を喜び合うあたりから既に、ラウラとパコは特に深い人間関係があったんだなと言うのは示唆されています。

そして、ラウラの家族と、パコの農園にやんわり因縁が残っていることも。

都会だったら人・物・金の移動が激しいので、元カレ・元カノの関係や、土地の売買の記憶は、時とともに薄れてしまうでしょう。

関わった相手に二度と会わないことも珍しくないからです。

しかし田舎のクローズドコミュニティではそうはいかず、元恋人も、昔望まない取引をした相手も、長い年月ずっと隣人として付き合い続けます。

大人だから、ということで当り障りなく接していても、極限状況や精神的に追い詰められた時に、ふとした怒りや鬱憤が爆発する。

強い怒りや納得できない思いって、やはり簡単にはなくならないんだと思わされます。

そして、そうした歪さの蓄積を、他の隣人たちはやはり抜け目なく洞察している。

絶対に内密にするはずだったことも、一人一人の距離が近いコミュニティでは公然の秘密と化してしまいます。

イレーネ誘拐事件では、長い間ラウラの家族とパコたちが抱えてきた公然の秘密に付け込んで、ある隣人が犯罪に踏み切ってしまったわけです。

 

何が正しいのか

公然の秘密=イレーネの出生は終盤で明かされるものの、秘密の当事者の一人であったパコは、新たに衝撃的な事実を知ります。

ラウラの夫が、イレーネが実子でないことを知りながら受け入れていたことです。

途中から「もしかしたらそうかも」と思うのですが、実際告げられるシーンの迫力は真に迫るものがあります。

大きな秘密も、言えない過去も、全部受け入れる愛というのがあるんだなと。

ラウラのことも、イレーネのこともすべて愛してきたのに幸せが壊れようとしている、というのはきっと恐ろしかったに違いありません。

一方で、金銭的なことでありのままを言えない心理はよくわからなかったんですが、これは自分自身が同じ苦労をしてないからそう思うだけかもしれないです。

プライドも捨ててイレーネのためにと支払いを頼まれるパコ、苦悩の演技といえば彼、のハビエル・バルデムが熱演しています。

正直、『BIUTIFUL』も『海を飛ぶ夢』も苦悩にしか苛まれてません。

イレーネを大切に想う大人たちの、気持ちの掻き乱されようが凄まじかった。

彼女の出生にまつわる親たちの行動は、社会的あるいは宗教的な意味合いからしたら、正しいとは言えないのかもしれません。

でもイレーネのために最善を尽くす彼らの熱量だけは本物です。

そのことに比べたら、道義的な高潔さなんていったい何の意味があるんだろうと思わされます。

文字通り「墓まで持っていく」覚悟を決めた大人たちの肚のくくり方が見どころの一つです。

一方で、イレーネがこうして身代金目当てに攫われるきっかけを作ってしまったのも、この秘密主義だと言えます。

最初からオープンにされていたら、彼女が攫われることもなく、それをネタに脅されることもなかったわけだから。

探られたくない腹を持ってしまうことは、愛する人を守るうえで最善の答えと言えるのか、という考えも浮かびます。

何より、ラストシーンで蒼白な顔のまま問いかけるイレーネの顔を見ると、他にやりようがあったのではないか、という暗い余韻が残らざるを得ません。

ファルハディ監督の『セールスマン』と同じく、一体どうしたら良かったんだ、と言う問いが頭の中で回り続ける作品でした。

 

おわりに

個人的には、大切な人を守るために、秘密はなるべく持たない方が良いのかもしれない、というすごく浅薄な感想に辿り着いてしまいました。

ただ、長い人生、一つの過ちも犯さない人なんてあまりいないわけで、過ちとまでは言えなくても生涯高潔な人なんてそうそういないわけで。

秘密を呑み込んで、墓まで持ってく覚悟で人を守り切れることもあれば、人生が残酷なら本作のような追撃が襲ってくることもあるのかもしれません。

スカッとした正解はなく、いろいろ考えさせると言う監督の持ち味が存分に発揮されていたと思います。

主演二人の迫力も如何なく発揮されていて、見ごたえのある作品でした。

 

 

誰もがそれを知っている (字幕版)

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  • 発売日: 2019/12/04
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誰もがそれを知っているDVD

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ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』3

前回は各キャラクターについての想いを語りましたが、今回は心に残った名言について語っていきたいと思います。

小説でも映像作品でも、ファンタジーは大きなテーマや抽象的な命題を語るのにとても適していると実感する名言たちです。

 

 

権謀術数に関する名言

ゲーム・オブ・スローンズと言えば七王国に群雄割拠する名家のパワーゲームが主な見どころです。

人に取り入り、利用し、騙し、裏切る彼らの熱い哲学が滲む名言を紹介します。

 

時に手紙の中身は財布の中身より価値がある

豊富な資金より何より、知られたくない人の秘密を知ることは戦術上、時にとんでもないアドバンテージを発揮します。

人の行動を縛り、敵に言うことを聞かせる可能性ももたらすからですが、たびたび気の抜けない情報戦が始まるGoTらしさが詰まった一言です。

 

敵は近くに置くものです

都合の悪い動きをいち早く察知できるよう、次の行動をいち早く読めるよう、関わりたくない敵こそ近くに置くべし、という格言。

確かに、ちょっと気を抜くとすぐに死人が出るGoTの世界では、この方針で生きた方が間違いなく賢明です…

 

親方たちの話す言葉は一つ 私の体の芯まで染み込んでいる 同じ言葉で言い返さなければ彼らには届かない

奴隷商人湾で奴隷を商う親方たちの反乱に際し、ミッサンディが言った言葉です。

いくつもの言語を操る通訳のミッサンディには、他所から来たデナーリスやティリオンの共通語では届かないものが敏感に感じ取れたのでしょう。

共通語といえば英語だけど、ローカル言語でなければ伝えられない何かがある、というのは現代にも通じる感覚です。

数多の奴隷、そして親方たちの命運を左右する交渉だからこそ、さらにそれが浮き彫りになるのを見越した言葉だと言えます。

 

獅子は羊の評判など意に介さん

タイウィン・ラニスターのいかにもな一言。笑

世のトップに君臨する彼らには、支配されている民の評判など関係ない、という主旨でした。

実際、民主主義なんて歴史的にみれば最近の話で、それまでは革命か天変地異が起こらない限りGoTの世界のように世襲の君主が君臨していたわけで。

そんな世界では、民意がどうであろうと知ったこっちゃない、という姿勢もある意味当然のことかもしれません。

 

まだ存在しない世界を見ようとするのは難しい

王都を陥落させたデナーリスがジョンに言い聞かせた一言。

デナーリスの苛烈な攻勢に恐れをなした味方がいると告げ、冷静になるよう諭すジョンに対し、このくらいの犠牲が出ることだってあると反駁するデナーリス。

なぜなら自分たちはまったく新しい世界を作ろうとしているから。

その偉業のためには、今までの世界しか知らない人々が恐れるようなことも推し進めるべきである。

だってその先には、誰も見たことのない素晴らしい世界が待っているんだから。

この頃のデナーリスの危険な陶酔を、エミリア・クラークが見事に演じきっています。

彼女はすごい童顔なので、年上だと知った時は心底驚きました。。。

 

この世に物語以上強いものがあろうか

ブランを王に推薦したティリオンのセリフ。

人々を一人の王のもとに集わせるのは、彼らを結びつける物語である、と説明するときの一言です。

確かに、建国の背景だったり、同じ経緯を辿ってきたと思える集団こそが、その人自身の属する場所を決めるというのはままあることと言えます。

生まれた場所や、血統ではなく、自分は誰と長い歴史や記憶を共有するのか、と考えた時にたどり着くよりどころというか。

日本人としては、実権を何一つ持ってなくてもたくさんの人に囲まれ続ける天皇家のことを連想してしまいます。

肝心の物語が概ね忘れ去られていても、なお崇敬されるレジェンドなので別格かもしれませんが…

対して、GoTの生まれ故郷米国は新しい国ですが、だからこそ強い物語で人を団結させようという努力は人一倍盛んなようにも見えます。

 

愛に関する名言

大河ファンタジーが繰り広げられる中、数々の恋愛劇も綴られていたGoT。

特に印象的だったセリフを選んでご紹介します。

 

“愛は義務を殺す”

何度か言及されていたこのセリフ、大河ファンタジーでありながらロマンスの描写も優れていたGoTならではの魅力が詰まっています。

基本的には権力闘争が軸のストーリーながら、愛を取るか力を取るか、あるいは愛する者をどうやって守れるかという問いがしばしば立ちはだかるからです。

勝利や正義より愛を優先したい気持ちが、理性や理論では御しきれない要素となって、世界を乱していく。

そうした背景が色濃く反映された一言と言えます。

 

誰が非難されるかは時代によって変わる 一つ変わらないのは自分が誰を求めるかよ

オベリン・マーテルを失ったエラリア・サンドの言葉です。

彼女の強い決意が表れているお気に入りのセリフ。

何が正しいかは、時代によって人々の価値観も変遷するので変わってしまうことがあります。

でも、ある時代を生きる自分が、誰と時間を分かち合いたいかは、自分にしかわからないことであり、それは時代が決めることではありません。

だからこそ愛した人のためにまっすぐ生きようとするエラリアの姿勢が伝わってきます。

 

俺は一番勇敢だった ナース島出身のミッサンディに会うまでは 今は恐れてる

恐れるものなど何もなかった最強の戦士グレイ・ワームが、愛するミッサンディを失うことを恐れるようになった、と告げるセリフ。

奴隷として囚われて必死に生き抜く中、そしてデナーリスに従っての快進撃を続ける中、死線をくぐり抜け、人の命の儚さを知っているからこそ出てきた言葉だと思います。

かけがえのない幸せは、それを失うことの恐れも連れてくることを象徴的に表していました。

 

人生に関する名言

GoTは権謀術数の機転や騙し合い、豪快な戦闘だけでなく、根底にある人生哲学みたいなものも見どころの一つでした。

その中でも印象的だったセリフをご紹介します。

 

代償がなければ義務を果たすのは容易だ だが遅かれ早かれどんな人にも それが容易でなくなる日がくる

ナイツ・ウォッチの掟について言及したセリフ。

義務を果たしていると思っていても、いつかは代償を迫られる時がやってくる、という意味合い。

ナイツ・ウォッチやGoTの世界に限らず通用するセリフだなあと思いながら観ていました。

何か義務を果たすことを選ぶ時、同時に何かをしないことを選び取っている、あるいは他のことに従事する可能性を捨てているとも言えるわけです。

こういう普遍的・抽象的な名言を伝えるのに、ファンタジーほど適した分野はないと実感しました。

 

この世に神は1つ その名は“死神” 死神に言うことは1つ “まだ死なぬ” 

アリアの「ダンスの先生」だったブレーヴォス人の言葉。

バタバタと人が死んでいくGoT界において、これほど大切な心構えもありません。

後にアリアが行くことになるブレーヴォスの不思議な哲学を、最初に視聴者に紹介してくれたセリフでした。

死の存在を無視せず、世界の重要な一部として捉えるからこそ、強くなって生き抜くべしという強固な意志が生まれてくるのかもしれません。

 

いくら本を読んでも 人の本質は学べない

バラシオン家の奥方が小さな令嬢に言い聞かせる言葉。

本で誰かの記憶や感情を追体験することはできても、実際に人と関わり合う経験なしには、人の本質は学べません。

GoTは人と関わっても学べなさそうな体験がてんこ盛りでしたが、だからこそこのセリフの重みが増すかもしれません…

 

しかし我々のような人間は 何をしようと箱の中ではそう長くは満足できない

ティリオンと話していたヴァリスが言った一言。

世の中に嫌気が差して引き篭もっても、結局は刺激がない世界に飽きて飛び出してきそうな二人にぴったりです。

様子を窺って人におもねる小悪人に見えていたヴァリスでしたが、のちにあくまでも「普通の人々」の平和のために動いていたとわかり、心を動かされた人も多かったはず。

 

あんな奴らに涙を見せるな  ゲスどものために泣く価値はない

ブライエニーがかつて仕えた君主から勇気づけられたときの言葉です。

弱肉強食で、日々生き抜くことが何より先に立つGoTの世界観の中、体だけでなく心を強く持つよう教えてくれる一言でした。

この一件によって君主に恋したブライエニーは、その後恋心を隠しながら彼に仕え、彼亡き後はキャトリンに仕え、ジェイミーに出会います。

不器用すぎる彼女の恋心は、最初から最後まで目が離せませんでした。

 

海の底は美しいが長居すれば溺れる

単純に文学的な言い回しが美しくてメモってしまったセリフです。

意味的にも、確かに!と思ったセリフで、海の底以外にもこういうコンテンツって色々ありますよね。

色恋とか楽しすぎる遊びとか趣味とか。

美しいけど夢中になりすぎると身を滅ぼすというもの、色々あるけどこんな言い表し方をしてみたいものです。

 

おわりに

記事を書きながら、GoTシリーズとの長い別れを噛み締めておりました…

数々の伏線、情報戦、どんでん返しで長く私たちを楽しませてくれたシリーズも有終の美を迎えました。

本当に悲しいけど涙、またこんなに夢中になれるシリーズに出会えることを期待したいと思います!

それまでは原作小説と『ダウントン・アビー』で寂しさを埋めたいと思います。うん。