本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』3

前回は各キャラクターについての想いを語りましたが、今回は心に残った名言について語っていきたいと思います。

小説でも映像作品でも、ファンタジーは大きなテーマや抽象的な命題を語るのにとても適していると実感する名言たちです。

 

 

権謀術数に関する名言

ゲーム・オブ・スローンズと言えば七王国に群雄割拠する名家のパワーゲームが主な見どころです。

人に取り入り、利用し、騙し、裏切る彼らの熱い哲学が滲む名言を紹介します。

 

時に手紙の中身は財布の中身より価値がある

豊富な資金より何より、知られたくない人の秘密を知ることは戦術上、時にとんでもないアドバンテージを発揮します。

人の行動を縛り、敵に言うことを聞かせる可能性ももたらすからですが、たびたび気の抜けない情報戦が始まるGoTらしさが詰まった一言です。

 

敵は近くに置くものです

都合の悪い動きをいち早く察知できるよう、次の行動をいち早く読めるよう、関わりたくない敵こそ近くに置くべし、という格言。

確かに、ちょっと気を抜くとすぐに死人が出るGoTの世界では、この方針で生きた方が間違いなく賢明です…

 

親方たちの話す言葉は一つ 私の体の芯まで染み込んでいる 同じ言葉で言い返さなければ彼らには届かない

奴隷商人湾で奴隷を商う親方たちの反乱に際し、ミッサンディが言った言葉です。

いくつもの言語を操る通訳のミッサンディには、他所から来たデナーリスやティリオンの共通語では届かないものが敏感に感じ取れたのでしょう。

共通語といえば英語だけど、ローカル言語でなければ伝えられない何かがある、というのは現代にも通じる感覚です。

数多の奴隷、そして親方たちの命運を左右する交渉だからこそ、さらにそれが浮き彫りになるのを見越した言葉だと言えます。

 

獅子は羊の評判など意に介さん

タイウィン・ラニスターのいかにもな一言。笑

世のトップに君臨する彼らには、支配されている民の評判など関係ない、という主旨でした。

実際、民主主義なんて歴史的にみれば最近の話で、それまでは革命か天変地異が起こらない限りGoTの世界のように世襲の君主が君臨していたわけで。

そんな世界では、民意がどうであろうと知ったこっちゃない、という姿勢もある意味当然のことかもしれません。

 

まだ存在しない世界を見ようとするのは難しい

王都を陥落させたデナーリスがジョンに言い聞かせた一言。

デナーリスの苛烈な攻勢に恐れをなした味方がいると告げ、冷静になるよう諭すジョンに対し、このくらいの犠牲が出ることだってあると反駁するデナーリス。

なぜなら自分たちはまったく新しい世界を作ろうとしているから。

その偉業のためには、今までの世界しか知らない人々が恐れるようなことも推し進めるべきである。

だってその先には、誰も見たことのない素晴らしい世界が待っているんだから。

この頃のデナーリスの危険な陶酔を、エミリア・クラークが見事に演じきっています。

彼女はすごい童顔なので、年上だと知った時は心底驚きました。。。

 

この世に物語以上強いものがあろうか

ブランを王に推薦したティリオンのセリフ。

人々を一人の王のもとに集わせるのは、彼らを結びつける物語である、と説明するときの一言です。

確かに、建国の背景だったり、同じ経緯を辿ってきたと思える集団こそが、その人自身の属する場所を決めるというのはままあることと言えます。

生まれた場所や、血統ではなく、自分は誰と長い歴史や記憶を共有するのか、と考えた時にたどり着くよりどころというか。

日本人としては、実権を何一つ持ってなくてもたくさんの人に囲まれ続ける天皇家のことを連想してしまいます。

肝心の物語が概ね忘れ去られていても、なお崇敬されるレジェンドなので別格かもしれませんが…

対して、GoTの生まれ故郷米国は新しい国ですが、だからこそ強い物語で人を団結させようという努力は人一倍盛んなようにも見えます。

 

愛に関する名言

大河ファンタジーが繰り広げられる中、数々の恋愛劇も綴られていたGoT。

特に印象的だったセリフを選んでご紹介します。

 

“愛は義務を殺す”

何度か言及されていたこのセリフ、大河ファンタジーでありながらロマンスの描写も優れていたGoTならではの魅力が詰まっています。

基本的には権力闘争が軸のストーリーながら、愛を取るか力を取るか、あるいは愛する者をどうやって守れるかという問いがしばしば立ちはだかるからです。

勝利や正義より愛を優先したい気持ちが、理性や理論では御しきれない要素となって、世界を乱していく。

そうした背景が色濃く反映された一言と言えます。

 

誰が非難されるかは時代によって変わる 一つ変わらないのは自分が誰を求めるかよ

オベリン・マーテルを失ったエラリア・サンドの言葉です。

彼女の強い決意が表れているお気に入りのセリフ。

何が正しいかは、時代によって人々の価値観も変遷するので変わってしまうことがあります。

でも、ある時代を生きる自分が、誰と時間を分かち合いたいかは、自分にしかわからないことであり、それは時代が決めることではありません。

だからこそ愛した人のためにまっすぐ生きようとするエラリアの姿勢が伝わってきます。

 

俺は一番勇敢だった ナース島出身のミッサンディに会うまでは 今は恐れてる

恐れるものなど何もなかった最強の戦士グレイ・ワームが、愛するミッサンディを失うことを恐れるようになった、と告げるセリフ。

奴隷として囚われて必死に生き抜く中、そしてデナーリスに従っての快進撃を続ける中、死線をくぐり抜け、人の命の儚さを知っているからこそ出てきた言葉だと思います。

かけがえのない幸せは、それを失うことの恐れも連れてくることを象徴的に表していました。

 

人生に関する名言

GoTは権謀術数の機転や騙し合い、豪快な戦闘だけでなく、根底にある人生哲学みたいなものも見どころの一つでした。

その中でも印象的だったセリフをご紹介します。

 

代償がなければ義務を果たすのは容易だ だが遅かれ早かれどんな人にも それが容易でなくなる日がくる

ナイツ・ウォッチの掟について言及したセリフ。

義務を果たしていると思っていても、いつかは代償を迫られる時がやってくる、という意味合い。

ナイツ・ウォッチやGoTの世界に限らず通用するセリフだなあと思いながら観ていました。

何か義務を果たすことを選ぶ時、同時に何かをしないことを選び取っている、あるいは他のことに従事する可能性を捨てているとも言えるわけです。

こういう普遍的・抽象的な名言を伝えるのに、ファンタジーほど適した分野はないと実感しました。

 

この世に神は1つ その名は“死神” 死神に言うことは1つ “まだ死なぬ” 

アリアの「ダンスの先生」だったブレーヴォス人の言葉。

バタバタと人が死んでいくGoT界において、これほど大切な心構えもありません。

後にアリアが行くことになるブレーヴォスの不思議な哲学を、最初に視聴者に紹介してくれたセリフでした。

死の存在を無視せず、世界の重要な一部として捉えるからこそ、強くなって生き抜くべしという強固な意志が生まれてくるのかもしれません。

 

いくら本を読んでも 人の本質は学べない

バラシオン家の奥方が小さな令嬢に言い聞かせる言葉。

本で誰かの記憶や感情を追体験することはできても、実際に人と関わり合う経験なしには、人の本質は学べません。

GoTは人と関わっても学べなさそうな体験がてんこ盛りでしたが、だからこそこのセリフの重みが増すかもしれません…

 

しかし我々のような人間は 何をしようと箱の中ではそう長くは満足できない

ティリオンと話していたヴァリスが言った一言。

世の中に嫌気が差して引き篭もっても、結局は刺激がない世界に飽きて飛び出してきそうな二人にぴったりです。

様子を窺って人におもねる小悪人に見えていたヴァリスでしたが、のちにあくまでも「普通の人々」の平和のために動いていたとわかり、心を動かされた人も多かったはず。

 

あんな奴らに涙を見せるな  ゲスどものために泣く価値はない

ブライエニーがかつて仕えた君主から勇気づけられたときの言葉です。

弱肉強食で、日々生き抜くことが何より先に立つGoTの世界観の中、体だけでなく心を強く持つよう教えてくれる一言でした。

この一件によって君主に恋したブライエニーは、その後恋心を隠しながら彼に仕え、彼亡き後はキャトリンに仕え、ジェイミーに出会います。

不器用すぎる彼女の恋心は、最初から最後まで目が離せませんでした。

 

海の底は美しいが長居すれば溺れる

単純に文学的な言い回しが美しくてメモってしまったセリフです。

意味的にも、確かに!と思ったセリフで、海の底以外にもこういうコンテンツって色々ありますよね。

色恋とか楽しすぎる遊びとか趣味とか。

美しいけど夢中になりすぎると身を滅ぼすというもの、色々あるけどこんな言い表し方をしてみたいものです。

 

おわりに

記事を書きながら、GoTシリーズとの長い別れを噛み締めておりました…

数々の伏線、情報戦、どんでん返しで長く私たちを楽しませてくれたシリーズも有終の美を迎えました。

本当に悲しいけど涙、またこんなに夢中になれるシリーズに出会えることを期待したいと思います!

それまでは原作小説と『ダウントン・アビー』で寂しさを埋めたいと思います。うん。