長くて濃い!大長編映画9選
巣ごもり期間中にアップロードすべきだったのですが、今更ながら。
時間長いなあ…と敬遠してしまうけれど、是非観てほしい!と思うおすすめ大長編映画をご紹介します。
歴史を語る大河ドラマ
アラビアのロレンス(207分)
3時間半の大長編、『アラビアのロレンス』。
当時、部族同士で分かれて争っていたアラブ世界は、「国家」としての枠組みに無頓着。
多大な影響力を持つオスマントルコや西側列強に立ち向かう術がありません。
イギリス陸軍の軍人として現地にやってきたロレンスは、砂漠の美しさを愛し、アラブ民族にも積極的に関わります。
一方でアラブの人々に対し「部族同士で争う限り、いつまでも無力で愚かな民族に過ぎない」と断言し、部族の垣根を超えて結束し立ち上がることを求めます。
文化も何もかも違うイギリスから来た彼が、アラブの人々を率いて迎える結果に、最後まで目が離せない超大作。
雄大で美しくも過酷な砂漠のロングショットも特筆すべき作品です。
風と共に去りぬ(231分)
南北戦争下のアメリカを力強く生き抜く主人公、スカーレット・オハラの半生を描くドラマです。
激動の時代に突入する南部社会、恋い焦がれ続ける憧れの男性アシュリーとその妻メラニーとの関わり、運命的な出逢いを繰り返すレット・バトラーとの愛など、ドラマチック要素山盛りのストーリーが展開します。
炎上したアトランタを脱出し、戦後の困窮の中を必死で生き抜き、鬼のようにモテるのに恋や結婚に七転八倒するヒロインから目が離せません。
強く苛烈なスカーレットと、静かでたおやかだけど愛の力で人生を切り開くメラニー、二人のヒロインの対比も印象的です。
見終わった後に、自分も強く生きて行かねば!と勇気をもらえる映画の筆頭です。
ゴッドファーザー(175分)
序盤の結婚式のシーンから、並々ならぬインパクトでドン・コルレオーネの人柄を伝えてくる、フランシス・フォード・コッポラ監督の傑作。
伝説的俳優マーロン・ブランドが唯一無二のオーラを漂わせ、主演を張ります。
ドンのあまりに魅力的な人間性(特に有無を言わせぬ包容力!)、マフィアの世界の無慈悲かつ重厚な人間関係、そして贅沢に美しい映像で、3時間があっという間です。
終始抑えた淡々とした描写ながら、世界観に浸りきっている内に物語がどんどん進んでいきます。
作られてから数十年が経つも、これを超える「かっこよさ」の映画が一体世界に何本あるだろうか、と思わされる名作です。
地獄の黙示録(202分)
こちらもフランシス・フォード・コッポラ監督の大作です。
ベトナム戦争である極秘の暗殺任務を命じられた主人公は、戦地の奥まで川を上ってカーツ大佐を探しに行きます。
途中、味方の部隊による狂気的な空爆や、殺すか殺されるかの死線を潜り抜けながら、軍紀を乱したカーツを殺しに行くことの意味を葛藤します。
優秀な軍人であったカーツは、なぜ森の奥地で独自の帝国を築いたのか、という説明はあまりない一方、そこに至るまでのタガが外れた軍人たちの様子の方が雄弁かもしれません。
『ワルキューレの騎行』をBGMとした空爆シーンや、慰問に熱狂する軍人たち、恐怖心から殺戮を止められない仲間、などを見ている内に、誰が正気なのか、何のための戦争なのか、わからなくなること必至です。
そういう意味では、観ている人をウィラードと同じくらい深い葛藤に引きずり込むために必要な尺と言えます。
個人的には序盤の壮大さ・鮮やかさに比べ、後半はやや失速感がありますが、それでもたくさんの人に観ていただきたい一本です。
シンドラーのリスト(195分)
第二次世界大戦中、ユダヤ人たちを労働力として雇用することで、迫害から守り切った実業家シンドラー。
彼がその業態を始め、たくさんの人々を救った様子を描いたスティーブン・スピルバーグ監督の代表作です。
救われた人々の横顔を可能な限りリアルに描写し、さらに迫害する側だったドイツ人の姿も人間として描こうとしています。
そうした丁寧な描写を徹底したからこその長大な映画に仕上がったと言えます。
シンドラーと助手の男性の絆が時間をかけて深まっていった描写は特に印象的でした。
人生の物語に浸る名作
ベンジャミン・バトン 数奇な人生(167分)
年老いた老人の姿で生まれ、年々若返っていくという奇妙な人生を送る主人公ベンジャミン・バトン。
しかし、初めての一人暮らし、初めての仕事、初めての飲酒、初恋、と展開していく彼の人生は、ごく普通の人々が、成長の一過程を積み重ねていく様子と同じ。
誰しも経験を通して成長し、それを周囲の人と分かち合って生きていくのに、生まれ持った体や境遇で人々を区別することに、どれほど意味があるだろうかと考えさせられます。
船の仲間が呟く「太った奴 ヤセた奴 そして白人も 人は皆孤独だ 孤独を恐れてる」という言葉も含蓄が深いです。
人生に絶対はない中で、人が経験や記憶を誰かと分かち合おうとするのは、孤独を恐れ、寂しさから逃れたいからかもしれません。
しかし、圧倒的な違いや壁を乗り越えても、たとえ辛いことがあっても誰かといたい、その人のために何かしたいと思える時、それは孤独を紛らわすための人間関係を越えた愛になるのかなと思わされました。
絶対的に人と違う特徴を抱えながら生きるベンジャミン・バトンの姿が、いつまでも思い出される秀作です。
レ・ミゼラブル(158分)
ミュージカル史上最高傑作のひとつを映画化した作品。
主人公ジャン・バルジャンは、飢えて死にそうな姉の子どものためにパンを盗んだ罪から、投獄され19年の懲役刑に服します。
仮釈放中にミリエル神父の愛と寛容に感化され、生まれ変わる決意をしたバルジャンは、懸命に働いて市長にまで出世。
しかし、名を変えて暮らしていたバルジャンに、「悪人は決して更生しない」の信念を持つジャベール警視が執拗に付きまといます。
娼婦に身をやつし、絶命した女性ファンティーヌの娘、コゼットとともにさらに遁走するバルジャンですが、さらに厳しい宿命が彼を待ち受けていました。
ジャン・バルジャンの人生は控えめに言って波乱万丈、辛いこと悲しいことの嵐です。
なのに懸命に生きた彼の姿は、愛の力や生きる希望について強く訴え続けます。
何度も辛い境遇を潜り抜ける逞しさと憂いを秘めたバルジャンを、ヒュー・ジャックマンが熱演する名作です。
非英語圏からの代表選手
きっと、うまくいく(170分)
主人公の写真家ファルハーンは、ある日大学の同窓生から、かつての親友ランチョーの行方の手がかりを聞かされ、一路シムラへ。
ランチョーは大学卒業以来消息を絶っており、ファルハーンともう一人の友人ラージューは彼の行方が気になり続けていたのでした。
主席だったランチョーは、頭脳明晰なだけでなく、誰よりまっすぐで自分の心に正直な人物でした。
苛烈な成績競争の中でも楽しく学び、「何のために学ぶのか?」「本当はどう生きたいのか?」を問いかけ続けるランチョーの姿に、心動かされた人は多いと思います。
熾烈な受験戦争や学業への期待に苛まれる若者、というインドの社会問題を切り取った映画でもあるそうです。
同じく偏差値社会に日本の若者が悩んでいた頃に、こんな映画が作られてほしかったなあと思わず考えてしまう名作です。
時間は長いですが、インド映画らしいミュージカルパートはわりと控えめで、インド映画初見の方でもとっつきやすい作品かと思います!
リップヴァンウィンクルの花嫁(180分)
最後に日本代表として岩井俊二監督の作品を。
大人しく受動的な女性・七海は、出会い系サイトで会った男性と結婚することに。
呆気なくとんとん拍子に決まった結婚でしたが、家に訪ねてきて七海を脅す不審な男性にはめられて、不貞の濡れ衣を着せられてしまいます。
義母に偽の証拠を突きつけられ、夫からも糾弾された七海は、家を追い出され、離婚することになりました。
頼れる人もおらず、結婚式でサクラを手配してくれた男に仕事の紹介を依頼すると、無人の屋敷の清掃の仕事を破格の給料で紹介されます。
同世代の同僚・ましろとともに、住み込みで働く七海ですが……
友達がおらず、打ち込める仕事もなく、深く愛するパートナーもいない七海が、不思議な運命に翻弄されるうちに、徐々に人との関わり方が変わってきます。
流されるままに生きてきた彼女が、奇妙な仕事、奇妙な人間関係を通してどう成長していくのか、ぜひじっくり考察して頂きたい秀作です。
おわりに
こうしてみると、『風と共に去りぬ』がダントツの長さですね……
現在大きな動きを呼んでいるBlackLivesMattersデモの顛末を見ていると、ある種の友情や信頼はあったかもしれないとはいえ、「奴隷対雇い主」というアフリカ系アメリカ人と白人との関係を肯定的に描く作品は、適切な内容でないのは確かでしょう。
そこは一つの記録として淡々と見るしかないのだと思います。
一方で、それを「麗しい人間関係」と捉えた背景には何があったのかを知ることも、今後誰もが対等でいられる社会を築くために役立つことを願います。
紹介文を書いていて、やはり大長編映画は大きなテーマや長い年月にわたる物語を描きだしているなあとしみじみしました。
今後も名作・大作に挑戦し続けていきたいと思います。