本と映画と時々語学

書評、映画評、時々語学学習や時事ネタなど書き綴りたいと思います。

映画『レント』

クリスマスにぴったりのミュージカル映画、青春映画のレビューです。

原作は驚異的なロングランヒットとなった同名のブロードウェイミュージカルです。

 

 

あらすじ

ニューヨークの一角でルームシェアする脚本家志望のマークと、歌手志望だったが今は引きこもるロジャー。

大家であり友人でもあるベニーからは、クリスマス直前だというのに立退きを迫られ、モーリーンをはじめとした住人皆で抵抗を試みている。

ロジャーは上階に住むミミに惹かれるが、HIVで亡くなった恋人を忘れられず一歩を踏み出せない。

そんな中、MITで講師をしていたコリンズが恋人エンジェルを連れて、彼らの部屋に帰ってくる。

 

夢と愛を追う若者の群像劇

本作はプッチーニの古典オペラ『ラ・ボエーム』のパロディで、劇中のハイライトで”La Vie Boheme”というタイトルの歌があるのもこのためです。

「芸術家を目指す若者たちが貧しい生活の中で青春する」という流れは元ネタを忠実に踏襲しています。

名前が『ラ・ボエーム』の主人公と同じロジャーとミミの2人、彼らを取り巻くマーク、コリンズ、エンジェル、モーリーン、ジョアンナの誰もがいきいきと描かれ、歌って踊る映画です。

コリンズやジョアンナは比較的堅い仕事に縁があるものの、ロジャーは歌手、マークは脚本家、モーリーンはストリートパフォーマーと、芸術や自己表現に打ち込んでいます。

なお、『ラ・ボエーム』はパリが舞台ですが、『レント』では舞台をニューヨークのイースト・ヴィレッジ(かつて貧しいながらも若い芸術家たちが集まる界隈として独特な存在感を持っていたらしい)に移しています。

オペラと違うもう一つの点は、主人公たちの人種、性的嗜好が多様と言うこと。 

ユダヤ系、WASP、アフリカ系、ヒスパニックなど異なるルーツを持ち、レズビアン、ゲイ、ストレート、バイセクシュアルと様々な愛の形を持った彼らが本気でぶつかり合い、成長していく青春映画です。

二重の意味での多様性を描けるのは、アメリカならでは、ニューヨークならではです。

そういった意味では元ネタよりも若者の自由さ、柔軟さが強調されていると言えるでしょう。

 

盛りだくさんなミュージカル映画

歌ではない通常の台詞もありつつ、要所要所で歌が差し挟まれる構成となっています。

ロック、ポップス、タンゴからゴスペルまで、様々なジャンルの歌が出てきますが、それぞれが場面の展開や登場人物のキャラクターにぴったりです。 

どの曲も、登場人物たちの若者らしい気持ちをぶつけた渾身の一曲といえる完成度。

特に、オープニングの"Seasons of Love"はもともとミュージカル史に残る名曲ですが、無人の劇場のステージで主要キャストたちが歌っている光景が、さらにドラマチックさを掻き立てています。

主題歌である"Rent"、中盤のハイライト"La Vie Boheme"、エンディングテーマの"No Day But Today"など、 キャスト全員で歌う曲は盛り上がりも迫力も抜群です。

それに加えて、恋敵同士の2人が対峙する"Tango:Maureen”や、マークとロジャーが自らの本当の気持ちに気づく"What You Own"など、個別の人物が歌う曲も有り余る個性を放っています。

 

喪失と成長

登場人物のうち何人かはHIVに感染しており、そのうちの1人が中盤で他界します。

仲間たちは喪失感に包まれるものの、ぶつかり合ってぎくしゃくしていた彼らは、軸となっていた人物の死により決定的な別れを迎えてしまいます。

本当はもつれた人間関係を修復したいのに、プライドが邪魔して謝ったり歩み寄ったりすることができません。 

しかし、一度は離れた人や町を忘れることができないと理解した時、再び行動を起こす場面が感動的でした。

若くて夢や希望があっても、何かを失う体験は容赦なく来ることがあります。

でも、そんな時に知恵やお金がなくても、自分の気持ちに素直に従う行動力さえあれば、一番大切なものは取り戻せるのではないかと思わせてくれるストーリーです。

 

おわりに

原作ミュージカルの初演前に、『レント』を書いた脚本家ジョナサン・ラーソンが亡くなったことから、エンドロールにも"Thank you, Jonathan Larson"と綴られています。

この作品がブロードウェイでカリスマ的人気を誇ったのは、こうしたエピソードも貢献したかもしれません。

しかし、実際に観てみればこの物語そのものが強い力と表現を伴っていることが充分に実感できるはずです。

映画はブロードウェイのオリジナルキャストが多数出演していることから、初演メンバーの熱気も映画の完成度を高めていたことでしょう。

ちなみに、モーリーンを演じたイディナ・メンゼルは『アナと雪の女王』のエルサを演じた人物でもあり、この頃から圧倒的な歌唱力を発揮しています。

クリスマスに観るミュージカル映画としては筆頭に上げたい作品です。

 

 

 

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