ミュージカル『レ・ミゼラブル』
先日、ロンドンでレミゼを観る機会がありましたので行ってまいりました。
ハリウッド映画版(ヒュー・ジャックマン主演)や、フランスTV映画版、原作小説を4/5読破した状態で観劇しました。
当日感想をメモした文章が、後から読み返しても興奮と躍動感に溢れていましたので、原文に忠実にお伝えします!!笑
余すところなくネタバレします。
公演開始まで
まずはミュージカルのチケットを押さえるべくアプリをダウンロード。
ハリーポッターの舞台は今日のが表示されなかった(売り切れか、そもそもやってないのか不明)ので、レミゼとウィキッドで迷ってレミゼに。
ウィキッドはきっとブロードウェイで観るべきだよね。
アプリより何とかいうウェブサイトのが2000円くらい安かったのでそちらで購入。
レミゼを結構良さそうな席で観ることに。
途中までだけど小説読んどいて良かった。
映画観ておいて良かった。
定番曲は歌詞覚えるくらい聴いてるし、他の曲も大体サビはわかるような感じ。
ありがとうスーザン・ボイル。
ありがとうヒュー・ジャックマン。
ギリギリにクイーンズシアターに駆け込み、チケットオフィスで5分前に券ピックアップ。
「あと5分!」と発券係の陽気な兄さんに煽られる。
入り口から席へはすぐ。前から5列目の一階席という素敵立地。
公演レビュー
映画と同じく、ジャン・バルジャンの服役中の場面から始まるのだが、俳優さんたちの歌唱力もさることながら、オーケストラ生演奏の迫力が凄い。
日本でオペラやレントを観た時はこんなに素敵に聞こえない気がしたんだが、施設の音響のせいもあるのかな?(東京国際フォーラムとかは広すぎるのかなという気もする)
ただ、上野で見たフィガロの結婚と比べても音の安定感や厚みが全然違う気がする。
ていうか、映画のヒュー・ジャックマンですらこんなにも男声の高声が素晴らしく伸びてはいなかった気がする。。。
臨場感を差し引いても、有り余る技能の上に表現が乗っかってる感じが力強くてもう。
映像の世界の外にもこんな素晴らしい演技人たちがいるのか。
ジャン・バルジャンの俳優さんは今までのイメージ通り(ジャックマンよりフランス版のジェラール・ドパルデュー寄り)だったけど、ジャベール警部の役の人はイメージよりかなり若く見えた。
だけどそれが凄く良い方向に出てた気がする。
ジャベールの傲慢さや教条的な断罪の姿勢は、若い方がしっくりくると言うか人間味として受け入れられる(世間知らずの正義漢であるほうが、偏屈な中年よりも目を惹くし親近感が湧く)。
頑迷さが若さゆえだと思うと何かもう美しくすらある。
文学史上最も魅力的な悪役(というのも憚られるけど)の一人であるのは元々間違いないけど、その新しい形を見つけた感ある。
フランス版のジョンマルコヴィッチより、ハリウッド版のラッセルクロウよりこの人が良い。。。
『ガラスの仮面』の劇中劇の『たけくらべ』で起こったことを観てるみたい。新しい解釈での表現。
At the end of the day, Lovely ladiesなどなど、役名のない人たちが大勢で歌ってるところも技量に余力があって、音程も迫力も素晴らしくて、ロンドンのミュージカル人材の層の厚さをバリバリ感じる。
控えめに言ってレントの来日公演より感動してる。
映画の方が撮り直しできるし、何度も歌ったうえで最高の回を採用してるはずだし、完成度は上回るかもしれないとか思うじゃないですか。
でも映画を下回ってるところが一個もなくて、むしろ上回ってるところが多々見つかるっていう。
なおファンティーヌの人の情感も素晴らしかった。
I dreamed a dreamの序盤の台詞が少し駆け足じゃないかなと思ったが、最初の一節を歌い出した瞬間からどこを切り取っても深みのある声に一発で変わって、情感も声量もどんどん如何なく発揮されていく。
完全に劇場の空間全部を取り込んでる。泣いた。
そしてコゼットがアフリカ系の少女というダイバーシティ。
名前のない役にアジア人の人はいたけど、アフリカ系はこの人以外にはいないように見えた。
ハリーポッターの舞台で、ハーマイオニーを演じるのが黒人の人で話題になってたけど、ハリーポッター以外でも普通にあるんだな。
観衆がちょっとびっくりした気配はしたけど。
大人になってからのコゼットは少し肉厚感があったので、個人的にはフランス版のヴィルジニー・ルドワイヤンがベスト。
そしてテナルディエ夫妻ですよ。
夫人の方は特に、下品な発音を再現してるのか全然聞き取れなかった笑
でも言葉わかんなくても絶賛しちゃうくらいの見事な助演女優男優賞。息ぴったり。
映画では米仏ともに単なる「嫌な奴」だった気がするのだが、こちらはめちゃくちゃコミカルでこれもジャベールと同様新鮮だった。
何かもう、あの二人が現れた瞬間に全部持っていかれるよね。
終盤彼らが出てくると客席が「またお前か!笑」ってなってた。
確かにこの二人の行動様式って、徹頭徹尾人間味の塊なんだよね。。。
『沈黙』でいうキチジローみたいな。滑稽だけど圧倒的既視感があるっていう。
エポニーヌは若さとまっすぐさと不器用さが全面に出る王道な感じで、マリユスに対する態度とか観てて切なかった。
ていうかマリユス、エポニーヌにコゼットの行方を探させるとか鬼かよ。
学生たちの中でも半人前扱いみたいになってたし、どこまでも邪気のないお坊ちゃん。
マリユスはあんまり裁量が与えられない役かもしれない。
ハリウッド版マリユスがエディ・レッドメインだって気づいた時驚愕したよね。
あまりに役を忠実に再現し過ぎててレッドメインその人の印象までイマイチに固定化するところだった。
ファンタビで魔法生物学者を生き生きと演じてるところが観られて本当に良かったよ。
映画では全然記憶になかったけど、学生革命のリーダーのアンジョルラスが結構ウェイトのある配役なのね。
あとガヴローシュもいい感じに目立っててナイス。
ハリウッド版ではそもそも登場したっけってくらいだけど、台詞の中で名前呼ばれててようやく思い出した。
最後の挨拶でリーダーと一緒に礼をして、かつ互いに敬礼するところが粋すぎて死ぬかと思った。
ジャベールが自殺するところ、わかっちゃいたけど悲しくてやるせない。
映画では米仏ともに、自分が間違っていたと知ったジャベールが死を選ぶことについて「なるほどな、これが彼にとっての筋の通し方なんだな」と淡々と観ていたけど、今回は共感度が高かったせいかめちゃくちゃ悲しかった。
間違っていたと認めて生きたっていいのにと思ってしまう。
寿命を迎えたジャン・バルジャンを、ファンティーヌやエポニーヌが迎えにくるところも泣いた。
もうどんな鎖もあなたを縛らない場所へ、って言う台詞で絶句した。
確かにパンを盗んだ罪って言う鎖をずっとジャベールが追ってくる人生だった。
で、One day moreの大合唱を最後に聴いて泣かないわけがないんですね。泣いたよ。泣いた。
音響や舞台美術の迫力も、歌唱力の層の厚さも、演出の作り込みも、どれを取っても隙がない舞台だった。
その根底に、素晴らしい楽曲があり脚本があり原作があるのは勿論なんだけど。本当に観てよかった。
人生のどうにもならなさに必死で向き合いながら生きる情感とか、信念に従って生きたいと思う人間の気持ちとかを強烈に表現してる作曲を改めて実感。
原作がそう言ったテーマを余すところなく描き切ってるから出来ることだと思うけど、だからと言ってそれを余すところなく汲み取れる作曲家もそうそうおらんよね。
個別の人物の人生を描いてるのにとても普遍的で、かつ、原題どおり悲惨な人たちの群像を描いているのに、何でこんなに観た人に希望を持たせるんだろう。
ハリウッド版の「愛とは、生きる力。」っていうコピーが本当にぴったり。
変えることのできない状況の中で、人間の気持ちだけが唯一の救いであり続け、人間すら変えていく。
音楽を効果的に配置して、原作と楽曲の良さを最大限に発揮させている脚本も凄い。
あんな陰鬱で長大な小説を、こんなにもわかりやすくパワフルな演劇にした人って誰なんだ。
フランスが舞台の物語をロンドンで観るってのは思ったより違和感なかった。
ヨーロッパの話だからむしろイギリス英語で観られることに謂れのない安心感を覚える。
Look downからバリバリのイギリス英語を感じた時にうおおーと思った。
ハリウッド版や、日本語吹き替え版にないしっくり感。
フランスは外国なので、イギリスから見て非日常感がありつつも、文化的文脈に共通な部分も多くて違和感はない。
たぶんフランスでやってたとしてもフランス語なまりの英語で聴いたらちぐはぐ感あっただろうし、フランス語で上演されても理解できないし…結果として、遠過ぎず近過ぎない、ベストな距離感のエキゾティシズム。
ハリウッド版のサウンドトラック聴いてみたけど、やっぱり間違いなくミュージカルの方が巧い。声の伸びが全然違う。
男声が物足りなくて口直しにウィーンミュージカルの『エリザベート』聴いちゃったよ。
映画の中ではアン・ハサウェイが一番うまい。
ヒュー・ジャックマンも良かったと思うんだけど、ジャベールは舞台の圧勝。
おわりに
世界中で愛されるミュージカルたる理由が大納得できた時間でした!
英語が得意な方でも、ミュージカル映画版やサウンドトラックで予習して行った方がより深く理解でき、楽しいと思います。
ロンドンに行く機会がある方はぜひ検討してみてください!
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