本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『おおかみこどもの雨と雪』

細田守監督のアニメ映画のレビューです。

ファンタジーと家族ドラマの融合を、北陸の美しい自然とともに綴る秀作です。

ネタバレでお送りします。

 

 

あらすじ

東京都下の国立大学に通う花は、ある日ひょんなことから《おおかみおとこ》の彼と出会い、恋に落ちる。

結婚した二人の間には、長女の雪と、長男の雨が生まれ、ささやかながら幸せな家族生活を送っていた。

しかし、雨が物心つく前に、彼は亡くなってしまう。

いつ狼に変身するかわからない《おおかみこども》の雨と雪を、懸命に子育てする花だが、やがて都内の生活に限界を覚えるようになる。

二人の子どもがのびのびと、人として狼としての生き方を模索できるよう、山あいの田舎に引っ越した花。

新たな環境で花が奮闘するかたわら、《おおかみこども》たちもそれぞれに目覚ましい成長を遂げていく。

 

実在の風景とのつながり

大学時代の舞台となる町は、一橋大学国立市です。

見たことがある人なら必ずわかる光景が、アニメの中に違和感なく切り取られています。

田舎に引っ越したあとの山並みも、北陸の風景を美しく切り取っていて、映画の世界と現実をつなぐ意欲を感じます。

観たい風景を現実から好き放題切り貼りするんじゃなく、あくまで現地世界を投影しながら進んでいきます。

その誠実さが、子育てに翻弄される花の暮らしの描写にも表れていて、ファンタジーでありながらリアリティも感じられる作品でした。

 

子育てという日常を非日常に

本作では一家の日常場面を通じて、こどもの急病、破壊活動、日本語の通じなさなど、親業をやってる人が直面してる現実がさりげなく描かれています。

生活感ある苦労を描きつつも、おおかみこどもだからこその悩みに見せることによって、ほどよい非日常感と現実感を両立しています。

ファンタジーの醍醐味ってこういうところだな……とちょっと感動する鮮やかさとさりげなさです。

現実には、子育てしてる人が主人公になれる物語なんてそうそうないし、だから映画やドラマでもあまり描写されないのかもしれません。

でもファンタジーを取り込むことで、それを全部解決してしまったわけです。

 

主人公の描き方

もう一つ驚かされたのは、本を読んで独学でなんでも学び、次々と課題を解決する花の逞しさです。

雪と雨がのびのび遊ぶことも、オオカミこどもらしい振る舞いをすることも難しかった東京での生活。

厳しい風当たりを逃れて来た田舎は、かえって一人では生きていけない世界ではあるけど、花の神がかり的コミュニケーション能力でそれも解決します。

田舎の自然ってなめてかかると本当に生存が危うくなるし、物理的に「人は一人じゃ生きられない」世界だけど、逃げずに描写してたところが良かったと思います。

そして、雪と雨が何をやっても怒らないし、どんなことからも守る覚悟がある花、本当にすごい。

親ってこんな超人じゃなきゃなれないのか……と遠い目もしたくなるけど笑、親子愛ものが好きじゃない自分でも花を応援したくなった。

 

成長する雪と雨

小さい頃は、雪が野生児、雨が大人しかったのに、大きくなって逆の道を選んだのは運命のいたずらですね。

小さな生きものだった子どもたちが、一人の人間として意志を持ち始める過程がリアルに描かれていました。

天真爛漫に生きていた女の子が、ある日「あれ?」と思って社会に適応し始めるのはあるある。

雨が自然のなかで生きることに目覚めるきっかけは、(明示されてはいたものの)正直よくわからないところもありますが。

そして、姉弟二人のぶつかり合いもまた、あるあるです。

子どもの頃は、決断を裏付ける経験がないからこそ、「これが正しいの!」ってバトルせずにいられない気持ちを思い出しました。

大人になると、そう思う人もいれば、そうじゃない人もいる、って思えるようになるんですけどね。

最後はめちゃくちゃ切なくて、全員の幸せを祈らずにいられません。

 

おわりに

子育てと親離れをファンタジーのなかで描く、不思議な作品でした。

 実際は花みたいに神様のような親っていないと思うのですが笑、きっとこんな人がいたら子どもは楽しいのかなと思います。

 

 

おおかみこどもの雨と雪

おおかみこどもの雨と雪

  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: Prime Video