映画『レディバード』
カリフォルニア州の田舎町を舞台とした、ある少女の成長物語のレビューです。
高校時代独特の背伸び感やイタさ、混乱の感覚を思い出して「あるある……!」となってしまう秀作でした。
アメリカ本国でも高い評価を受けています。
色々ネタバレしてます。
あらすじ
カリフォルニア州サクラメントの高校生クリスティーンは、家でも学校でも、本名ではなく「レディバード」と名乗っている。
田舎町の地元や、厳格な高校を離れ、一刻も早く文化のある都市ニューヨークで進学したいと願う毎日。
母に反対されても、父の協力を得て奨学金申請や入学申し込みを試みている。
進路のみならず、日常生活でも自分以上のものを求めてしまうレディバードは、華やかなクラスメイトと仲を深めたり、新しい彼氏を作ってみたりと積極的だが……
自分の可能性を信じる
レディバードは、自分の可能性をどこまでも信じているというか、全方位で輝きたいという強い希望を持っている、普通の女の子です。
文化都市ニューヨークに進学したい、裕福な地区の立派な家に住みたい、唯一無二の彼氏が欲しい、華やかなクラスメイトとお近づきになりたい、などなど。
もしかしたらそういう人もいるのかもしれませんが、大抵の人はそうなれません。笑
実際、学費や生活費がかさむのでニューヨーク進学は諦め、州立大にしてと母から言われているし、土地の安い線路の向こう側の地区に住んでいるし、と現実は厳しい。
父は高齢で、メンタルヘルスの問題からなかなか働けていない、などの事情も抱えています。
さらに、兄弟はカリフォルニア大学を出たものの良い職が見つからず、スーパーでのアルバイトで日銭を稼いでいます。
一家の大黒柱となっている母は、誰かが大病でもしたら破産になる現実をわかっているからこそ、レディバードの進学先にコメントするわけです。
それでも、自分の進路に夢を見たい彼女は言うことを聞きません。
こんな田舎町で終わるつもりはない、とばかりに父の協力を取り付け、ひそかにニューヨーク進学を実現しようとします。
快進撃
映画前半では、不器用ながらもレディバードの野望は徐々に実現していくように見えます。
シスターに勧められて挑戦した演劇の舞台が成功し、彼氏ができ、数学の成績を成功裏にごまかし、父も進学準備に協力してくれます。
しかも彼氏の祖母は、ずっとレディバードが理想の家と思っていた素敵な邸宅の住人。
「彼と結婚して他の親戚を排除すればあの家が相続できる」とまで豪語する始末(調子乗ってます……)。
親友ジュリーも、淡い恋心を抱く数学の先生に目をかけてもらえて幸せそう。
若いときの「自分は何だってできる」「環境さえよければもっとできる」という根拠のない自信をエネルギーに、どんどん進んでいきます。
しかし、蓄積や裏付けのない絶好調は崩れ去るとき脆いんですね。
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気づきの瞬間
ジュリーの儚い失恋(本人的には一大事なんだけど、初々しくて可愛い……)と並行して、レディバードにもスランプが訪れます。
彼氏がゲイであること、男子と浮気していたことが同時発覚、華やかなクラスメイトとの関係を優先して親友ジュリーと気まずくなったりもします。
その後、次にできた彼氏と初めて関係を持つものの、お互いに初めて同士かと思いきや相手は童貞じゃなかったり。
しかも、憧れのあの家に住んでいると嘘をついた結果、友人がその家を実際に尋ねてしまって嘘がバレます。
自分自身の実像を無視して背伸びした結果、すでに持っていた大切なものを失ったり、自分が蔑ろにしていたことの大切さに気づいたり、突っ走っていた自分が虚しくなったり。
どれも青春あるあるなんですが、体験しているその時は危うさに気づかないんですよね。
実際失敗してみて初めて、「ああこういう事って良くないな」と気づかされる。
そして、そういう時に救ってくれる人のありがたみが身に沁みます。
本当に守ってくれる人
彼とプロムに行きたかったレディバードですが、新たな友人や彼はサボろうと言って盛り上がってしまいます。
思い立ったレディバードは彼らと袂を分かち、ひとりで家にいたジュリーのもとへ。
仲直りして、二人でプロムに参加し、高校最後の思い出を作ります。
そして、ニューヨークの大学に内緒で出願していたことがばれ、母を激怒させてしまうも、最終的には旅立たせてもらうレディバード。
母さん的には、レディバードが、パッとしない地区にある家や、高齢のお父さんを無意識に恥じている(車で送ってもらっても同級生から見えないところで降ろしてもらう)ことがずっと嫌でした。
彼女にしても、人生もう少し順調に行くと思っていたら、いろいろ想定外だったわけです。
夫がメンタルを病んで働けなくなったり、子どもがいい大学を出ても就職できなかったり。
高校生のレディバードに、その大変さの想像がつかないのは仕方ないのですが。
故郷を離れて
念願のニューヨーク生活を始めるレディバード。
ある夜、飲みすぎてぶっ倒れたあと、教会の賛美歌に癒されます。
カトリックの高校に行っていたときは、まったく興味を持たなかったのに。
そして実家の留守番電話に、故郷サクラメントと家族への思いを吹き込みます。
ダサくてパッとしないと拒絶していたものも、自分の構成要素であると気づいたこと。
それを受け入れようと思えたことは、彼女にとって幸せなことだと思います。
幼少期や思春期が辛い思い出になってしまったために、決別や告白を選んで生きていく人もたくさんいるんけですから。
過去に背中を押され、人生の新しいパートを生きていくレディバードの将来が楽しみなラストです。
おわりに
サクラメントのカトリック高校出身の、監督の思いが詰まった作品でした。
イタい青春を送った人もそうでない人も、この頃ってこんなことあるよね……と振り返りながら見ていただきたい、珠玉の青春映画です。