映画『リトル・ダンサー』
ダンスの楽しさを知った男の子が、夢を追うために奮闘する映画をご紹介します。
あらすじ
サッチャー政権下のイギリス。
かつて炭鉱地域として栄えた北イングランドでは、国策により炭鉱の閉鎖が相次いでいた。
閉鎖に反対してストライキを行う労働者たちの中に、ビリーの父親もいた。
ビリーは父や兄と同じくボクシングに通う男の子だったが、ある日ささいなきっかけから踊る楽しさに目覚める。
バレエ教室の教師から才能を見出されつつも、大反対する父や兄に押され、一度はバレエを続けることを諦めたビリー。
しかし、無心に踊るビリーを父が目撃した日から、風向きが変わり始めた。
炭鉱の労働争議
サッチャー政権下では、競争力がないと見なされた赤字炭鉱は次々に閉鎖する方向へ舵を切ることになりました。
それは同時に、炭鉱で働いていた多くの労働者の食い扶持がなくなることを意味します。
労働者たちはストライキで経営者側に閉鎖反対の意思表示をしていましたが、中には経営者側に寝返ってストライキから離脱する人もいました。
彼らはスト破りと呼ばれ、ストライキに参加している労働者たちから後ろ指をさされていました。
組合として閉鎖反対の立場を貫く人と、割増退職金を目当てに経営者側につく人たちが分断される描写は、同じくイギリス映画の『ブラス!』にも見られます。
本作でも、
労働争議が炭鉱労働者たちを分断したこと、
炭鉱閉鎖がある地域の運命を変えたこと、
数々の人の人生や家族が揺さぶられたことを、
詳しく描いています。
主人公ビリーが歩きまわる町の風景の中には、ほぼ必ずと言っていいほど、ストライキの警備に出動する警察官の姿が映し出されます。
炭鉱閉鎖や労働争議といった現象が、町の運命に強く影響していることを示唆するかのようです。
家族の物語
ビリーの母は亡くなっており、彼は父、兄、祖母と暮らしています。
母という軸を失った家族はうまくまとまれず、ビリーのバレエ発覚に際しても大げんかになってしまいます。
「男がバレエなんて認めん!なぜなら男がやるもんではないからだ!」としか言えない父親にビリーは心を閉ざします。
しかしビリーの踊る姿を見て、息子がバレエに抱く情熱や、彼の将来の可能性を感じ取った父は、一路バレエ教室の先生の元へ。
この姿勢の変化が、ビリーと父親のみならず、兄と父親が本気で対話するきっかけも作ることになります。
家族のドラマとしても見ごたえのあるストーリーラインが盛り込まれた作品です。
斬新な演出
ビリーのダンスを始めとした斬新な演出が多数盛り込まれていることもこの映画の特徴です。
素人目には、ビリーのダンスはバレエとタップダンスを足して2でわったように見えますが、タップダンスの要素が加わることによって躍動感や生き生きとした感情がより強く伝わるようになっていると感じました。
夢を追うことで学べるもの
好きなことに全力を傾け、夢を追う経験ができる事は何にも変えがたいことです。
応援してくれる人がいなければそういったことはできないし、何かに全力で取り組んできた経験は、自分に自信を持つことにもつながります。
ビリーも応援してくれる人がいたことで、自分が愛されていることを実感できたと思いますし、自分の力で未来を切り開いていく自信がついたでしょう。
劇中で引き合いに出されるバレエ『白鳥の湖』には、愛だけが誰かを外の世界に連れて行けると言うメッセージが込められているのかもしれません。
おわりに
北イングランドの訛りが強く、ほとんど英語は理解できませんでしたが、それを補って余りあるダンスの表現力でした。
個人的には、ビリーの兄が警官隊から逃げ回っているときに、ある家の中で水分補給にひっ摑んだ飲み物が紅茶だったことが、イングランドらしくてクスっとなってしまいました。
夢を追う前向きなストーリーが見たいときにおすすめの一作です。