本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

ドラマ『情熱のシーラ』2

引き続き『情熱のシーラ』の魅力を語ります。

前回はシーラ個人を描いた作品としての魅力を語りましたので、今度は大河ドラマとしての面白さをご紹介します。

 

 

大河ドラマとして

スペイン語の原題はEl tiempo entre costurasで、直訳は「縫い目の間の時間」という意味です。
スペイン内戦から第二次世界大戦という2つの大きな歴史的事件の間、激動の時代という意味かと思われます。
シーラという個人の人生を印象的に描きつつも、これらの時代背景を描写する大河ドラマとしての完成度も追求されていました。

 

スペイン内戦

舞台がモロッコに移って間もなく、シーラは人の裏切りや大きな挫折を経験します。
あまつさえスペイン内戦が始まってしまい、マドリッドに帰ることも、残してきた母に会うこともできなくなります。
そんな時にシーラの世話を焼き、構ってくれたのが下宿の女主人や店子たち、下宿を紹介してくれたバスケス警察署長。
皆、シーラにとってかけがえのない存在になり、大変な思いはしつつも、モロッコでの生活は徐々に順調さを増してきます。
そして内戦の終わり。一応の平和の訪れではあるものの、下宿の住人たちの小競り合いを見ていると、皆が手を取り合って喜べる終わり方ではなかったようです。

 共産主義に対する反応が立場によって異なり、内戦が終わってもスペイン国内にしこりが残ったことを示唆していました。
また、モロッコにいたシーラたちは内戦の惨状を目にしていませんが、その後再会したシーラの母の表情の暗さから、内戦がスペインに与えた傷の深刻さを窺い知ることができます。
加えて、内戦終了後も共産主義者への弾圧が続いたこと、それが内戦後の人々に暗い影響を与えていたことも詳しく描写されていました。
別記事で紹介した『パンズ・ラビリンス』の状況と同じですね。

kleinenina.hatenablog.com

 

第二次世界大戦

内戦が終結したスペインの回復を待つことなく、ヨーロッパに第二次世界大戦の影が忍び寄ります。

スペインに再び戦争に持ちこたえる力はない。

内戦を見ていた母の言葉にも後押しを受け、シーラはスペインが戦争に巻き込まれないための諜報活動に身を投じることを決意します。

ヨーロッパで不穏な緊張感を高めているナチスドイツと、内戦後のスペインを治めるフランコ独裁政権の距離を引き離すこと。

そのためには、重要なポストにいる親英派の人物を突破口として、スペインとイギリスの仲を取り持つ必要がある。

シーラの任務は、工房にドレスを仕立てに来る要人の妻や娘たちから、重要人物たちの動きについて情報収集を行うこと。

その情報を活用して、外交上の作戦や暗闘が繰り広げられます。

だんだんとシーラの活躍がハイレベルになっていき、終盤には「これもう協力者どころじゃなく立派な工作員やんけ!」というレベルになります。

ドラマ後半は手に汗握る展開がこれでもかと続き、はらはらが止まりません。

 

ロザリンダとの友情

工房のお得意様の一人であり、要人ベイグベデルの愛人でもあるロザリンダ・フォックスは、ドラマ後半の重要な登場人物です。

イギリス人ですが、モロッコで暮らしており、あるきっかけを通じてシーラとは顧客と仕立て屋以上の間柄になります。

美しく豊かで、全てを手にしているように見えますが、夫との関係が良好でなかったり、人間らしい面を持つ人物でもあります。

リアルな人物描写もこのドラマの魅力の一つ。

彼女とシーラはモロッコにいる間じゅう強い友情で結ばれ、その後も互いに何かと思い出される存在です。

こんな素敵な女同士の友情が沢山あったらいいですね。

激動の時代に強い絆で結ばれた2人の様子はとても印象的でした。

ロザリンダを介し、シーラの人生にとって重要な人物となるローガンにも出会うことになります。

 

余談ですが、ドラマに登場するヨーロッパの都市マドリッドリスボンはもちろん、モロッコのタンジールやテトゥアンにも、様々な国から来た人が暮らしています。

スペイン人、イギリス人、ドイツ人、各国の要人たちの思惑がモロッコで交錯する。

帝国主義全盛時代、列強が世界中に人を送り出していたことを実感します。

帝国主義は、植民地開拓の推進であったのと同時に、グローバル化でもあったのでしょう。


まとめ

とにかく夢中になって観てしまいました。

原作の小説がベストセラーだったと言うのも大納得です。

そのためか、細部までとてもクオリティの高いドラマに仕上げられています。

原作が持っているであろう登場人物の魅力や、物語の面白さ、歴史に対する洞察が最大限に活かされているのはもちろん、それぞれの都市の街並みや、衣装の美しさなど、映像作品としてのクオリティも惜しみなく付加されていました。

原作の小説はまだ読んでいませんが、いつかスペイン語で読めるようになりたいです。

周りのスペイン語学習者ガチ勢の女性たちも、皆このドラマに夢中になっていました。

スペインを代表する映像作品として、いろんな人にお勧めしたいです。