映画『シン・ゴジラ』
昨年話題になった『シン・ゴジラ』をご紹介します。
どんな層にウケてたのか調べてないけども、学生さんが観ても面白いんでしょうか。
社会人が観ると、風刺的な描写にあるあるーと見入ってしまいます。
《あらすじ》
首都圏近海に巨大な恐竜のような生物が出現した。
巨大不明生物は京浜地区に上陸し、破壊活動をしたあと一切の動きを止める。しかし、暫くののちに再び動き出し、日本の人口が集中する首都圏の壊滅が危惧される事態となった。
ゴジラと名付けられた生物を止めるには核を用いるしかないかと思われた矢先、特別編成されたチームがある作戦を練り始める。
ちょいちょいネタばれしております。
SF映画として
あの生物の正体を特定して対策を考えなければ、と奔走している傍らゴジラが暴れていて一刻の猶予もない!という緊張感がある映画でした。
ゴジラの第一次暴動では、これまでのビジュアルと一線を画す、ノーマル爬虫類感満載のゴジラが出てきます。しかも気持ち悪い。
アップデートが行われると、我々の知っている姿に近づきます。
SF映画でありつつ、「国難とも言える重大な脅威が迫った時に日本人は対処できるのか」という問いを含んでいます。
だから、長谷川博己さん演じる主人公はこの非常事態の対応にあたるで官房副長官であり、他の登場人物も政治家や行政関係者がほとんどを占めているのでしょう。
官僚組織の描写
言わせていただくならば、どこの弊社かしらと思うくらい役所の役所感がリアル。
地方公務員でも国家公務員でもないのですが、とても官僚的な組織で働いているので、初っ端から「あるある」が多くて目眩がしました。
誰の担当?誰が決めるの?これうちの仕事じゃなくない?ということを議論し尽くさないと何も進まない感じが特に。
山ほどの会議があるのも同じです。
でも少しだけ仕事をしてみた感じ、現実の霞が関の人はもう少しレスポンス良いんじゃないかと思いました。
誇張して描かれていると思いますので、実際と違うことは致し方なしですが。
ボトムアップ
本当のところは現場しかわからない。
だから部下が事実から結論にいたるまで誂えた報告を上にあげ、その指示を実際に「出す」役目だけをボスが負う、ということを端的に示している場面があります。
トップ自身の意志を示すのではなく、トップなのに指揮系統の歯車になってしまっているように見えます。
はみ出し者
なお、各省庁や研究機関のはみ出し者が集まって好き勝手やるドリームチームの設定ですが、残り物には福ばかりみたいなのはさすがに夢見がちな気が。
あとさすがに最高識者集めたらもっとマシなコメント出ると思いました。
実力がありすぎて浮いてしまい、組織の中で能力を発揮できていないというドラマチックな存在は現実そんなに沢山いないと思います。
ただ、おじいさんばっかりの会議の場面に比して、特撮災害対策本部は働きざかりの人が沢山いたことについてはちょっとリアルだなと思いました。
年功序列の組織では若手の暴れる機会がないので、非常事態でもなければ打順が回ってきません。
年取ったはみ出し者は、天下りして省庁を出て行ってしまうので、現役のはみ出し者は比較的若い人たち。
皮肉ですが、組織のピンチが若手のチャンスになりました。
若手といってもアラフォー、若くてもぎりぎりアラサーくらいの人たちだったと思いますが、高齢化してる以上若手の定義にも見直しが必要かも。
市井の力
ゴジラを駆除するための作戦が終盤で計画・実行されますが、作戦準備には日本中の化学メーカーの力が必要とされました。
そのため、あらん限りの設備と能力を投じて目的の物質を製造しにかかります。
主人公は官房副長官で、群像劇の登場人物は主に行政立法関係者だけど、それだけで国が動くわけではないことを示唆していた重要な場面でした。
作戦実施は全部自衛隊がやっていたけど、本当は化学メーカーや重機のオペレーターなど、もっと沢山の職業の人が現場に行く必要があったと思います。
まとめ
これまでのゴジラの世界から全く離れ、国防上の危機としてゴジラを描いた作品です。
東日本大震災という非常事態の記憶が生々しい時代だからこそ、「日本は重大な脅威に立ち向かえるのか?」というテーマが話題を呼んだのだと思います。
日本的組織の特徴、国際関係論上の日本の立ち位置などを絡め、ゴジラという国難を現実世界の中で描くことに真摯に向き合っているのが印象的でした。
意見を言いたくなる場面もありましたが、そのくらい夢中になって観てしまった作品でした。
お勧めできるか訊かれたら間違いなくお勧めですが、日本的組織の特徴をよく知らない人が観てもピンと来ないところは多々あると思います。
なので、海外ウケが芳しくなくても致し方ないところ。
とは言え、一日本人として見ておきたい作品でした。