本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『ジーサンズ はじめての強盗』

邦題で損している珠玉のコメディをご紹介します。

設定は地味かもしれないけど、いろんな人に勧めたいです。

 

 

あらすじ

ウィリー、ジョーアルバートの3人は、定年後の余生を静かに過ごす老年男性。

若い頃に勤めていた会社からの企業年金で悠々自適の生活を送るはずだった。

しかし、かつての勤め先の再編により企業年金の支払がなくなってしまい、収入を失った3人は経済的苦境に立たされる。

ローンの支払が滞り、娘と孫と暮らす家が差し押さえられる危機が迫ったジョーは、偶然遭遇した銀行強盗を真似て、 大金を奪取しようと他の2人に持ち掛ける。

最初は半信半疑だったウィリーと、断固拒否していたアルバートも最後には合意し、足腰もおぼつかない3人の強盗計画が始まった。

 

オールドブラックジョー

おじいさんならではのクスッとなる小ネタがあちこちにあり、年の功を感じます。

「おい、電話を取れ!ジョーから電話だ!」と言われて、

「誰が死んだんだ?」と返すシーンは秀逸。

当事者だからこそ言えるジョーク。

3人のジーサンズだけではなく、他の人物もコミカルな会話が多いです。

孫娘が、急に接近して仲良くなろうとする父親(母と離婚済み)に違和感を覚え、

「パパどうしたの?宗教でも始めたの?」というこましゃっくれたコメントを出すのもその一つ。

年金収入をなくした老い先短いじいさんたちの話なのに、悲壮感がありませんでした。

それどころか、「何でもない日常っていいわー」と思える、明るい雰囲気です。

 

謙虚に教えを請う強盗

年の功があるので、自分たちではどうにもならないと分かった時の対処も正確です。 

娘婿との交渉の末、「悪そうなやつ」から直々に強盗の手ほどきを受けられることになります。

この交渉の場面も年の功を感じて好きなんですが、ネタバレ防止で詳細伏せます。

その後、強盗に関するレクチャーを1から10まで受けるのですが、謙虚に相手の教えを受け入れられるのは、良い歳の重ね方をしたからじゃないかなと思いました。

歳をとればとるほど、人の言うことが聞けなくなる人っていますし。

自分たちより何十歳も若いヒスパニック系の悪人のレッスンを受ける様子が真剣で実直で、しかし講義内容のディティールは何だかリアリティがあって、この学習過程は大きな見どころの一つと言えるでしょう。

犯行は2分以内、体は鍛えておけ、など様々なハードルがありますが、足腰の衰えてきた3人に果たして成し遂げられるのか、見届けたくなってくる場面です。

 

最期まで見守りたくなる強盗

ジョーたちは大金を得て豪遊したいわけでも、今さら金持ちになりたいわけでもありません。

老後資金(もう老後だけど)に充分な額以上が手に入ったら、余剰はどのように処分するかも決めて強盗を始めます。

3人は踏ん反り返った偉そうなところがなく、娘思い・孫思いだし、何なら年下の彼女ができるくらい優しいです。

それでいて、取り澄ました銀行窓口の男や刑事には悪態をついたりと人間味があります。

主役3名のキャラクターが、リアリティを失わない範囲で魅力的に描かれていて、自然に観ている人間を応援者にしてしまいます。

教えを請う相手も、しおらしくしてやり過ごすべき場面も年の功でわかっていて、多くを望まないでやってきた彼らですが、終盤に絶体絶命のピンチが訪れます。

彼らは全くの偶然、純然たる奇跡としか言えない出来事で九死に一生を得るのですが、それまでのストーリーが理詰め+長年の経験則に裏打ちされたロジカルな展開だったからこそ、人生最後(に近い)の奇跡も不思議な説得力を持っています。

これが若い主人公がガッツポーズするような場面だったら「人生そんなに上手くいかねーよ!」と言いたくなりそうだけど、

酸いも甘いも嚙み分けた彼ら自身が奇跡を信じられず「え?」とキョトンとしているのを観ると、「もしかしたら人生にはこういう幸運があるのかも」と思わされます。

 

おわりに

本作は1979年の映画『お達者コメディ/シルバー・ギャング』のリメイクです。

脚本に安定感があり、細部まで面白いと思えたのは、既に実績ありだったからかもしれません。

しかもこの御三方、全員オスカー俳優でした…設定も実力も鉄板で、道理で違和感なく入り込めるわけですね。

個人的には邦題に若干引いて、劇場に行けなかった映画ですが、観終わってから素直に判断の誤りを認めました。

しかし、自分の他にも「邦題からしてハズレだと思った」と証言していた人がいたので、邦題で損しているのでは。。。

リメイク元から一部拝借して『シルバー・ギャング はじめての強盗』とかなら運命が変わったのではないかと思ったりします。

ともあれ、アメリカらしい明るさがある一方で、伏線や細かい設定までリアリティ・納得感を持っている、バランスが優秀な映画でした。 

元気をもらいたい時におすすめなコメディです。

 

  

 

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