本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『ワンダーウーマン』

面白いだけじゃなく深かった、最強ヒロインの活躍するアクション映画です。

「超強くてかっこいい女の人を見てスカッとしたい」と観始めたところ、

思いがけず心を鷲掴みにされました。

ネタバレします。

 

 

あらすじ

最強の女性戦士アマゾネスたちが住む島・セミッシラ。

島の王女ダイアナは強い戦士に憧れ、最強の女将軍アンティオペに教えを請う。

ダイアナの母で女王のヒッポリタが彼女の将来を案じる中、

やがてダイアナはどんな者にも劣らない強さを身に着けていった。

ある日、島の沖に突如現れた墜落機とそのパイロット、スティーブ・トレバーを目にしたダイアナは、ドイツ軍へ潜入していたスパイだとも知らず彼を助ける。

第一次世界大戦で窮地に陥るドイツ軍が、新しく開発した毒ガスで一発逆転を狙っていると聞かされ、戦争は軍神アレスだの仕業だと確信するダイアナ。

軍神アレスを葬り、世界大戦を止めるべく、ダイアナはスティーブとともに外の世界へ行くことを決める。

母ヒッポリタは、人間は救うのに値しない存在だと言い聞かせるものの、

ダイアナの決意は固く、島に戻れないことを覚悟したうえで旅立つ。

神をも殺す力を持つ剣・ゴッドキラーを携え、2人はロンドンへ辿り着いた。

 

ダイアナの強さ

ダイアナはアマゾン族最強の戦士で、驚異的な身体能力を備えています。

彼女が走ったり戦ったり跳んだり撃ったりする様子を観ているだけで眼福に惚れ惚れしました。

強く美しいだけでなく、知性も最強で、数百の言語を自在に操れるほか、

科学の知識も万全で、複雑な化学式を苦も無く理解します。

彼女の圧倒的な強さと活躍ぶりから目が離せず、映画があっという間に終わってしまった気さえします。

一方、生まれてからずっと絶海の孤島セミッシラで過ごしていたため、

世間の常識には疎いところがあります。

アマゾン族の民族衣装のまま町を出歩こうとしたり、世間の垢に塗れた中年男性たちに、もっともな正論を正面からぶつけたりします。

強く賢く美しく、まさに全知全能といったところですが、世間ずれしておらず素朴なところに更に惹かれてしまいました。

他にも、助けを求める人の声を決して無碍にしない正義感の強さや、

決めたことを最後までやり抜こうとする意志の強さも、

ダイアナをさらに魅力的にしている要素の一つです。

 

舞台設定の妙

ドイツ軍が悪役というと、第二次世界大戦を思い浮かべる方が多いと思いますが、本作の舞台は第一次世界大戦下のヨーロッパです。

1900年代前半ですから、まだまだ女性の地位は低く、

社会参加できる領域には限りがありました。

そうした描写が劇中のあちこちに登場することで、

社会的状況とダイアナの強さ・知性の対比がより強烈になっていました。

第一次世界大戦は、初めて近代兵器を用いて行われた大規模な戦争であり、

その爪痕の惨さと残酷さでヨーロッパに深いトラウマを残しました。

体の一部を無くした帰還兵や、あまりにも多い死者など、これまでの

戦争とは被害の深刻度が格段に違っていたからです。

こうした背景は、終盤でダイアナが思い知らされる人間の愚かさを示唆するのに

適していたのかもしれません。

ダイアナたちは軍神アレスの化身と目されるルーデンドルフ総監を追って、

戦場となったベルギーを訪れ、惨状を目の当たりにします。

本作とは関係ないところですが、「二度とこんな事態を招いてはならない」と

痛感した戦勝国の、ドイツへの制裁が苛烈を極めたために第二次大戦を

誘発した経緯も、人間の愚かさや争いの不毛さを強調するかのようです。

 

戦争をもたらすのは誰か

軍神アレスの化身のはずのルーデンドルフを葬れば、戦争は終わると

ダイアナは信じていました。

スティーブはそもそも神の化身が社会に紛れ込んでいることも信じていませんでした。

また、一人の重要人物を殺しただけでは戦争は止められないと知っています。

そして、悲しいかな彼の言った通りであることをダイアナは悟ります。

アレスが彼らを操ったことがすべての元凶なのではない。

人間たちは自ら、互いに殺しあう戦争をすることを選んだ。

人間は愚かで、互いを憎みあい、美しかった世界を荒廃させている。

人間はダイアナが救うに値しない存在だという、ヒッポリタの言葉の意味が明かされました。

愚かで浅ましく、どうしようもなく醜い生き物は滅びて然るべきなのか?

混乱の中でダイアナは葛藤しますが、ここまで一緒に戦ってきたスティーブの言葉や、彼と過ごしてきた記憶が彼女を支えます。

人間は互いを憎みあい、殺しあう生物であるが、他者を愛することも知っている。

一つの答えを見つけた彼女は、信念を取り戻し戦い続けることを決意します。

 

闘う理由

ヒッポリタは人間を救おうと旅立つダイアナに、「人間は救うに値しない(They don't deserve you)」と言い切ります。

終盤に現れる敵も彼女にThey don't deserve your protection. と言い放ちます。

そうかもしれない、とダイアナは一瞬迷ったかもしれません。

しかし、ドイツ軍の毒ガスによる大量殺戮を止めようと奔走するスティーブが言った一言が、今度は彼女の口から出てきます。

「大切なのは価値ではなく、何を信じるか」

人間が愚かで浅ましいのは事実でしょう。

そんな生物に価値はないかもしれません。

それでもダイアナは人間の、愛という情動に希望を託すことを決めます。

積み上げられた伏線が一気に進展する強烈な場面でした。

ほぼ同時に明かされる彼女の存在の秘密もまた、この場面の感動を補強しています。

 

おわりに

ダイアナのパワフルな活躍に目を奪われっぱなしでしたが、終盤に投げかけられる哲学的なやり取りも感動的で、二重三重に驚かされた映画でした。

そして、語学マニアとしては、ダイアナがハイパーマルチリンガルと言う設定も重要な萌えポイントでした。笑

話の本筋とは関係ないのですが、劇中に出てくるベルギーの場面では、周囲のベルギー人の話し声がちゃんとオランダ語とフランス語(フラマン語ワロン語と言うべきですが)に聞こえました。

隅々まで凝ってて素晴らしいです。

強く信念をもって生きなければ、という勇気をもらいたい時、特におすすめしたい映画です。

 

 

 

 

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