本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『7月4日に生まれて』

トムクルーズの代表作の1つであり、ベトナム戦争に対し大きな反省を投げかけた映画をご紹介します。

もうすぐ7月4日なのでこの映画を思い出しました。

 

あらすじ

アメリカ独立記念日が誕生日の主人公ロンは、高校卒業後すぐに海兵隊へ入隊し、ベトナム戦争に従軍する。

死線をくぐり抜け、大きなトラウマを負い、車椅子が手放せない体になりながらも生き残った彼は、生まれ育った街に戻ってくる。

しかし、ベトナム戦争は彼に対する周りの見方も、帰還兵としての彼の立場にも大きな負の影響を及ぼしていた。

従軍により失ったものの大きさと、新たな人生を始めることの困難さに直面し、苦悩する帰還兵の姿を描いた映画。

 

一兵卒と戦争

ロンは第二次世界大戦を戦った父を尊敬し、国のために戦う兵士に憧れを抱き、その仕事に人生を捧げるつもりで入隊します。

兵士本人にとって、入隊は人生を変える決断です。

しかし、国家にとってその戦争の戦略的意味合いが変われば、戦争の意味や意義は簡単に失われます。

また、ベトナム戦争には、第二次世界大戦のように「人権弾圧の象徴ヒトラームッソリーニを倒し、自由な世界を守る」という輝かしい大義はありません。

共産主義と資本主義、ひいてはソ連とアメリカの代理戦争のためにアメリカの若者が死ぬのは避けねばならない、

ということで米国内での反戦機運が高まり、結果として撤兵することになります。

同時に、戦地ベトナムで行われた残虐な戦闘行為や、民間人犠牲者の状況もまた、戦争反対を訴える人の増加に拍車をかけました。

本作は、国を守る仕事に夢を抱いて入隊した若者が、戦争に対する国のスタンスや世論の変化に翻弄された過程を描いた作品です。

国の戦略にとっては1つの歯車でしかない兵士ですが、

国の戦略は兵士の人生を大きく変えてしまったわけです。

 

英雄になれない帰還兵

第二次世界大戦の帰還兵は、ヨーロッパを圧倒した枢軸国を倒し、世界の平和を守ったと言う名誉があったようです。

しかし、同じく激しい戦いをくぐり抜け、さらに脊髄損傷のため胸から下が不随になって生還したロンを待っていたのは、賞賛ではありませんでした。

国に帰ると、弟や、好きだった女性が反戦運動に参加しています。

それはロンにとって、彼の行動を否定するかのように映ります。

同じ帰還兵でも、第二次世界大戦ベトナム戦争では全く違う。

遠く離れた戦地のことなど考えず、自分自身の順風満帆な人生しか知らない友人もいる。

そういった背景から、ロンは帰還後に故郷や家族に馴染めず、鬱屈した日々を送ります。

深夜に酔って家族に当たり散らし、近所中が目を覚ますような騒ぎを引き起こした後、彼は故郷を離れメキシコへ旅立つことを決めました。

 

戦地でのトラウマ

ベトナム戦争が米国の軍人たちにもたらした爪痕として、もう1つよく語られるのが戦地でのトラウマです。

ロンもまた、戦地で深刻なトラウマを負います。

しかしそれは、命の危機を経験し、その時の状況を思い出させるものに恐怖すると言ったような、戦争の被害者になったためのものではありません。

彼は自分が人を殺してしまったというトラウマに激しく苛まれることになります。

ベトコンが潜んでいるという村の掃討作戦を実施したロンたちは、ほどなくして自分たちが皆殺しにしたのが罪のない民間人であったことを悟ります。

生き残った赤ん坊が泣き叫ぶ声を後に、迫り来るベトコンから逃れて走り去るロンたち。

追われる恐怖で半狂乱になったロンは、砂の丘の後ろから現れた人物を必死で撃ちますが、それは敵兵ではなく同じ隊のウィルソンでした。

民間人を虐殺したうえ、同じ海兵隊の仲間も殺してしまった。

決して癒えないトラウマを抱え、彼は生き続けねばならなくなります。

 

メキシコで彼を知っている人がいない生活を送り、自堕落な毎日の中で「落ちるところまで落ちた」彼は、このトラウマに対する負い目を清算すべくある行動に出ます。

そして、入隊した時とは違う信念を持って、新たな人生をスタートさせることを決めます。

 

おわりに

この映画には原作の書籍があり、実在の人物ロン・コーヴィックの体験が記されたものです。

 7月4日に生まれたことも含め、事実の経過がかなり忠実に反映されているようです。

どんな立場で立ち会ったとしても、やはり戦争はその場にいた人全てを傷つけるのだと実感させられる映画でした。

傷ついたベトナムの人々からしてみれば、米国軍人のトラウマがとか言われても、「自分の意志で武器を持ってやってきて人を殺しておいて何を言うのか?」と言いたくなるかもしれません。

それに反論できる人はいないでしょう。

しかし、武器を構えている人間も、武器を向けられている人間も、等しく血の通った存在であることは覚えていなければならないと思います。

 どちら側に立っていたとしても傷つくのだと言うこともまた然りです。

ロンがベトナム戦争で負った傷跡は深刻なものでした。

ただ、癒えない傷を抱えてもがき、痛々しいまでの葛藤を見せながらも立ち直るロンの姿に、救いのあるラストになっています。

ベトナム戦争や、帰還兵問題について知りたい方に是非お勧めしたい映画です。

 

 

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