本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

ドラマ『バビロン・ベルリン』

第一次世界大戦後のベルリンを舞台とした、硬派なミステリドラマのレビューです。

映像のクオリティも、シナリオの密度もピカイチの逸品です。

ドラマの感想がメインですが、ところどころネタバレを含みます。

 

 

あらすじ

1929年、ワイマール共和国体制下のドイツ。

第一次世界大戦からの帰還後、ひそかに戦争神経症に悩む刑事ゲレオン・ラート。

故郷のケルンからベルリンへと赴任した彼は、ヴァルター上級警部とともにポルノ映画の撮影現場を摘発する。

それは巨大な陰謀を暴く道への第一歩だった。

貧しい家族を支えるべく、警察で事務員として働くシャルロッテとともに、ゲレオンは巨大な謎を紐解いていくことになる。

 

ドイツ史上最大規模の撮影

見出しの通り、ドイツで過去最大の規模で撮影されたドラマ作品と言われます。

その評判にたがわず、とにかく映像のクオリティが尋常じゃなく高い!

1929年のドイツがそのまま立ち現れたかのような美術、衣装は、画面のどこを切り取っても隙がない。

リアリティを感じさせつつ、お洒落で魅力的にも見せています。

シーズン1のエピソード2でのモカ・エフティでのダンス場面の壮麗さは、他のドラマに類を見ません。

耽美的なナイトライフの描写は、現在のドイツのカルチャーの「濃さ」の源泉になっているかもしれないと思わせます。

音楽のセンスも卓越していて、特に主題歌の『Zu Asche, Zu Staub』のクールさは群を抜いています。

本作のストーリーや世界観にもぴったりです。

そして何より、カットやシーンの構成力が高いんですね。

あまりに視点や場面の移り変わりが自然なので、夢中になっているうちに時間を忘れてしまいます。

 

ゲレオンとシャルロッテ

メインとなる人物、ゲレオンとシャルロッテそれぞれの人間造形の奥行きも、ドラマの見どころの一つです。

主人公ゲレオンは、第一次世界大戦に出征し、西部戦線で兄アンノーを亡くしています。

彼の命の危機を目撃したうえ、自分より兄に期待をかけていた父の思いも知っているという、複雑な背景。

さらに、アンノーの未亡人となった兄嫁に、兄の死以前からただならぬ想いを寄せ続けてきました。

さまざまな葛藤を抱えながら、事件を追い続ける姿は人間臭く、主人公としては若干頼りないもののハラハラ見守ってしまいます。

一方ヒロインのロッテは、雑草魂というべきか、貧しい家庭の生まれながらたくましい精神の持ち主。

昼は警察の事務補助、夜はダンスホールのスタッフ(更に裏の顔あり)として働いています。

家族の中で誰より現実的な視野を持っているため、必然的に問題に対処する役目を負ってしまい、なんやかんやでいつも苦労している気が……

でも決して卑屈にならず、やるべきことを見つけてこなしている姿が視聴者を引き付けます。

シャルロッテは事件を追うゲレオンのサポートをするうちに、彼との間にも絆が築かれていきます。

社会的立場が彼より弱い分、降りかかってくるトラブルの影響度も深刻で、ある意味ゲレオン以上にハラハラさせる、そして応援したくなる人物です。

 


スポンサードリンク
 

 

当時の時代背景

本ドラマの舞台となるのは、第一次世界大戦終戦から十年以上が経ったドイツ。

しかし、敗戦の陰はまだそこここにわだかまり、敗北に納得できない軍関係者は再軍備し、ヨーロッパの覇権を握る機会を虎視眈々と窺っています。

西部戦線での従軍経験から、戦争神経症を抱えるゲレオンや、戦争があとを引く社会で困窮するロッテ一家など、登場人物たちの状況ともリンクしてきます。

一方で共産主義やナチズムも存在感を増しており、きなくさい火種があちこちで燻ぶる世の中。

秘密裏に活動を行う第四インターナショナルの存在や、徐々に台頭し始めるナチ党の動きが不気味に浮かび上がってきます。

現在シーズン3まで公開されており、シーズン1~2が第一部、シーズン3が第二部となっています(第二部の続きにあたるシーズン4の製作が決定済)。

第一部のほうがより、国際的な陰謀の絡んだ大規模なミステリとなっており、第二部はベルリンの裏社会とナチズムの台頭にフォーカスが当たっています。

知識ゼロだとさすがに取っつきにくそうなので、第一次世界大戦の結果や、その後ドイツが被った影響などをさらっとでも押さえてから見るのがいいと思います。

 

見どころ

緊迫感あふれる捜査やだまし合いはもちろんのこと、メインの二人のプライベートもひっきりなしに新展開が訪れます。

ゲレオンには、兄アンノーの未亡人となった義姉との関係、戦争神経症を扱う謎の医者、などなど戦争の暗い影が付きまといます。

基本的には翻弄されていくスタイルのゲレオンですが、第二部が終わるころには人生の指針を決められるんでしょうか。

シャルロッテは、健康状態の優れない母や、ろくでもない男(妻の実家に転がり込んでます)と結婚した姉を抱え、日々奮闘。

ダブルワークや出世で何とか家族を養っていますが、次から次へと新しい問題が発生します。

そんな中でも前向きさを失わず、現実的に対処する姿を応援せざるを得ません。

さらに、彼女は警察署の掲示板で見つけたお手伝いの求人を友人グレタに紹介するのですが、それが新たな火種を呼び寄せることに……

様々な要素を詰め込みながらも、渋滞を起こさず視聴者を掴み続けるのは、ひとつには原作のクオリティの高さもあるでしょう。

原作小説は創元推理文庫から『濡れた魚』のタイトルで発売されています。

 

おわりに

スペインの『情熱のシーラ』、イギリスの『ダウントン・アビー』のように、戦前の時代を舞台とした重厚なドラマが、ドイツでもないかなあ……と思っていたら、あった!という感動的な出会いでした。

とにかく高クオリティで、この映像とシナリオに耽溺しているだけでも幸せ、という代物です。

舞台となっている大陸ヨーロッパや、第一次世界大戦第二次世界大戦前の時代がツボな私ならではの好みではありますが。笑

日本ではやや影の薄い第一次世界大戦ですが、近代兵器を大規模に用いた初めての戦争であり、第二次大戦へとつながった布石でもあることから、ヨーロッパ史では非常に重要な転換点とされます。

ハードボイルドな時代物ミステリがお好きな方に、ぜひおすすめしたい作品です。