本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『戦火の勇気』

湾岸戦争を背景にした映画のレビューです。

メグ・ライアンデンゼル・ワシントンが主演を務めた作品をご紹介します。

戦場サスペンスという一面がありつつ、強いメッセージも持っている作品です。

原作小説の原書を読んだことがありますので、そちらにも簡単に触れたいと思います。

 

あらすじ

湾岸戦争中のクウェート領内で、部下の乗った戦車を誤射してしまったナサニエル(ナット)・サーリング中佐は、表彰候補者の調査を行う業務へ配置転換された。

仲間を殺してしまった罪悪感に苦しみながらも、表彰候補者となった女性カレン・ウォールデン大尉の調査を進めるナットは、やがて不審な点に気づく。

カレンの臨終に立ち会った兵士数人の証言の内容が一致しないのだ。

ある者は勇敢だったといい、ある者は臆病でパニック状態になっていたと証言する。

勲章授賞者というヒーローを生み出したい上から制止されながらも、ナットは独自に調査を継続することを決意した。

 

戦場サスペンス

1つの事象について皆が食い違う証言をするという、黒澤明監督『羅生門』のような構成になっています。

ディティールが違うどころか、異なる兵士から全く正反対の証言が出てきます。

それに加えて、全身をがんに犯されてまともな証言が取れなかった男のうわ言、証言をした後自殺を図った男など、事態は混迷を極めます。

ナットが戸惑いながらも調査を進め、最後に辿り着く証言ですべてが明らかになります。

戦場という極限状況の中で、自らの命が危険に晒された状態で、人間が何を感じどう行動したのか、映画を観ながら考え込まざるを得ません。

 

ナットの苦悩

敵の戦車と誤認し、親友に攻撃してしまったナットは、湾岸戦争から帰還してからも深刻な苦悩に見舞われます。

戦争だったとは言え、

特殊な状況だったとは言え、

人の命を奪ったという事実による罪悪感は計り知れないものでした。

そしてその姿は、生きて帰ってきたものの、ナットへの証言後に何らかの理由で自殺した兵士の姿と重なります。

詳しくは伏せますが、ウォールデン大尉と居合わせた他の兵士も深刻なトラウマに悩まされていました。

この描写から、戦勝国側で戦い、生きて帰れたとしても、戦場から何も傷つかずに帰ってくることなど出来ないのだと思い知らされました。

戦争に勝利しても、帰還を遂げても、誰かを殺した罪悪感や、人の死に立ち会った衝撃から逃れることはできない。

映画ではカレンの死にまつわる謎を追うことがメインテーマになりますが、

小説ではナットや帰還兵たちの苦しみがより詳しく描写されていました。

映画を観て興味を持った方は、是非小説も手に取られることをお勧めします。

 

その他の見どころ

帰還兵役で出演しているマット・デイモンは、やつれた若者を演じるため過酷な減量に挑んだそうです。

実際、命が心配になるレベルの痩せようで、終盤の迫力を否応なく増していました。

本作の監督はエドワード・ズウィックが努めています。

ラスト・サムライ』『ブラッド・ダイヤモンド』など、他にも戦いをテーマとした作品を複数手がけており、特に『ブラッド・ダイヤモンド』は大きなテーマを扱った大作となっています。

 

おわりに

ブコメの女王メグ・ライアンの女性兵士役ということで、ミスキャストと思う方もいたようですが、私は特段違和感なく観られました。

ブコメの方の作品をあまり観たことがないからですが。

ナット役のデンゼル・ワシントンはこの人しかいないと思える配役でした。

シリアスなテーマについて考えたい時にお勧めの作品です。