本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『マイケル・コリンズ』

アイルランド独立戦争を巡る歴史映画をご紹介します。

イギリスの支配に抵抗し、アイルランド独立のため闘ったマイケル・コリンズの生涯を映画化した作品のレビューです。

リーアム・ニーソンアラン・リックマンジュリア・ロバーツなど、錚々たるキャストで映像化されました。

事前知識なしで観た場合は疑問が残る部分もあると思うので、レビューするとともに、歴史的背景を補う解説ができればと思います。

 

 

あらすじ

1916年のダブリン。

イギリス軍との市街戦になったイースター蜂起で、マイケル・コリンズの独立活動家としての名が知られることになる。

蜂起は失敗するものの、刑期を終えて出所したコリンズは、ゲリラ戦に類稀な才能を発揮し、イギリス軍を手こずらせる。

ゲリラ戦の快進撃により形勢はIRA(アイルランド共和軍、イギリス軍への抵抗組織)に有利となる。

しかし、休戦後のイギリス政府はアイルランド全体の独立を認めず、北アイルランドイギリス連邦に残留させようとしていた。

 

イギリス支配の歴史

アイルランド自由国が成立し、イギリスからの主権引継ぎの式典が行われた時、マイケル・コリンズは7分遅刻で到着します。

イギリス人から遅刻を咎められると、

「あなたたちは700年も待たせたのだから7分くらい待てるだろう」

と言ったと言います。

この場面から700年前にあたるのは1216年で、イギリスのジョン王がアイルランド卿の別号を与えられた年だそうです。

イギリスの王がアイルランドの支配者でもあると決定づけられた年、と認識すれば良いでしょうか。

(実際にはそれ以前から諸豪族がイングランド勢力下に入っていた)

アイルランドでは自治も剥奪され、

イギリスの植民地として支配されていました。

カトリックが多数派だったため、プロテスタント国家であるイングランドから宗教的迫害も受けることになります。

さらに19世紀には、イギリス支配のもと工業化が遅れたうえ、飢餓輸出によるじゃがいも飢饉が発生します。

この飢饉で激減したアイルランド島の人口は、今もって飢饉前の人口最多時期の水準まで回復したことがありません。

このように、イギリス政府が残した爪痕は大変深いものでしたから、

1918年に相次いで各国が独立したヨーロッパにおいて、

アイルランドが翌年の1919年に独立戦争を始めたのはある意味自然なことでした。

 

独立への強固な意志

コリンズ率いるIRAのゲリラ戦での勝利や、血の日曜日事件を経ても収まらない独立への強い意志が印象的でした。

仲間を拷問で失ってもひたすら突き進む彼らの姿をただ黙って観ているしかありません。

民族自決の潮流が全欧州で盛り上がっていたから、と言えばそれまでですが、何としても自分たちの国を持ちたいというコリンズやデ・ヴァレラたちの思いに胸を打たれます。

しかし、一丸となって戦っていた独立運動家たちもある論点を巡って一枚岩ではなくなってしまいます。

それが後述する北アイルランド問題でした。

ともに死と隣り合わせの抵抗運動に身を投じていた彼らの中に、不穏な空気が漂うことになります。

 

北アイルランドの運命

ベルファストを中心とする北アイルランド地域には、イングランド系・スコットランドプロテスタントが比較的多く住んでいました。

アイルランドが独立したら、彼らはアイルランド島内で少数派の弱い立場となってしまいます。

このため、北アイルランドを中心とした「反独立運動」もあったのが事実です。

休戦を申し入れたもののアイルランドを独立させたくないイギリス政府は、反独立派の意見も汲んで、ざっくり下記のような英愛条約を提示しました。

「新国家アイルランド自由国が英国王室に忠誠を誓い、

北アイルランド地域をイギリスに留めるならば、

アイルランド島南部は独立してよい」

独立運動家たちはもちろん、アイルランド島全体を新しい国として独立させたいと考えていました。

条件をのんで南部だけでも平穏に独立するか、

あくまで全島での独立にこだわるか。

後者を選びたいのはやまやまですが、世界の大英帝国が相手の交渉は難航。

交渉団として出向いたコリンズは苦戦を強いられ、悩んだ末に英愛条約を受諾します。

 

アイルランド内戦へ

コリンズが受諾した英愛条約を巡って、アイルランド独立派内部が真っ二つに割れてしまいます。

英国王室の影響下に留まり続けるならアイルランドは主権を持てないのではないかという強い懸念が頭をもたげていたからです。

完全独立と共和国樹立を目指していたのに何てことをしてくれたんだ、と怒り狂ったグループは、指導者デ・ヴァレラを筆頭に条約反対派となります。

一方コリンズたちは英愛条約に則って先に進もうとしていました。

全ての国々が望む最終的な自由ではないが、それを実現する可能性が与えられた

と考えていたためです。

結果としてアイルランド自由国は共和国になって完全独立し、コリンズの方針が功を奏することになりますが、この頃はまだ先行きが全くわかりませんでした。

そして、デ・ヴァレラ率いる派閥は、条約に反対し再び武力闘争を開始。

これを目をつけたイギリス軍が再びアイルランドを占領することを恐れてか、コリンズたちは条約反対派の武力攻撃に応戦し鎮圧を図ります。

首都ダブリンに端を発した戦いは他都市にも飛び火し、島内でアイルランド人同士が争う内戦に発展してしまいます。

本作で描かれるアイルランド独立戦争は、英愛条約の賛否から始まったアイルランド内戦、ひいては北アイルランド紛争の原因となっていきます。

独立戦争からアイルランド内戦への流れが比較的わかりやすく描かれているため、今日のアイルランドにつながる歴史を知るためにも有用な映画と言えます。 

 

おわりに

今回は映画の内容に絞ったレビューではなく、歴史的背景の説明が多くなりました。

以前いくつかケルト音楽フィーチャーなアーティストの記事を書いているし、アイルランドも実際に行って楽しかったので力が入ってしまいました。

ジュリア・ロバーツ演じるキティがコリンズの唯一無二の相手みたいに描かれているけど実はそうじゃないとか笑、人間模様についても細かく書いてみようかと思いましたが、ひとまず歴史のほうに絞って書いてみました。

とは言え、歴史を辿るという観点だけでなく、コリンズやデ・ヴァレラたちの迫力ある人間ドラマにも目を奪われる映画です。

アイルランドの現代史の勉強におすすめの一作です。