本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

ドキュメンタリー『モンスター・イン・ファミリー』

Huluで観たドキュメンタリー番組をご紹介します。

だんだん映画も本も軽々と逸脱するレビューに罪悪感を覚えなくなってきました。

 

 

概要

米国の重大事件(連続殺人)を起こした加害者の1人を毎回取り上げ、その人物の家族の証言を中心に犯人の姿を考察する番組です。

加害者の妻や子ども、知人などが登場します。

また、当時の捜査を担当していた警察関係者や、被害者遺族も登場します。

加害者家族から見た家族の一員としての姿、

捜査官から見た犯罪者としての姿を語りつつ、

時間が止まってしまった被害者遺族の思いも込められた番組です。

終盤では加害者家族と、被害者遺族が対面し、直接言葉を交わします。

 

家族の一員としての犯人たち

第1回と第2回を観たところ、主な語り手は両方とも加害者の娘です。

連続殺人の犯人と言うと、さぞや冷静に、あるいは楽しんで殺人をしていたのではないか、と想像する方もいるかと思います。

しかし、彼女たちの証言から明らかになるのは、犯行の直後や、警察官と接触した後に不安定になったり、暴力性が増したりする弱々しい人物像です。

終始家族に暴力を振るいまくるわけではなく、娘たちが小さな頃には愛ある父親としての姿を見せていたり、

食事の前にお祈りをするよう言い聞かせていた一面もあったり、

そうした「どこにでもいそうな」人物の特徴も兼ね備えているところが、むしろ恐ろしさを感じさせます。

2回の犯人に共通するところは、続かなくなった家族内の人間関係にひたすら冷淡であることでしょうか。

終わってしまった人間関係は顧みないと言う冷淡さは、その場限りで終わる被害者との関係において殺人と言うかたちで発現しました。

 

被害者遺族との対面

被害者遺族は、理不尽に大切な家族の命を奪われ、人生の一部について時計が止まってしまったかのような感覚を持っています。

これからも続いていくはずだった家族との人生がいきなり断ち切られ、しかもその理由が被害者の落ち度がないものであれば、なおさら乗り越えることは難しいでしょう。

しかし、加害者家族と対面しても、彼女たちが感情を爆発させる場面はありません(多少気持ちが高ぶっていると見えるシーンはありますが)。

加害者家族が真剣に謝罪をするのを見た遺族から「あなたも辛かったのでしょう」と冷静なコメントが出てきて安堵するとともに、彼女たちの強さに驚きも覚えます。

遺族は、加害者の娘たちが、本人には何の咎もないことで世間の注目を浴びてきたことも理解する様子を見せます。

1回の面談で何もかも分かり合うことは不可能だとは思いますが、互いに共感し、感情を分かち合ったことで、どちらも大きな区切りを迎えたように見えました。

犯人本人ではなくとも、謝罪の言葉を受けたことで遺族は気持ちが少しだけ変わるかもしれませんし、

遺族から直接、大変さに共感する言葉を貰った加害者家族もまた、一定の救いが得られたものと思います。

 

おわりに

重大事件そのものを特集するドキュメンタリーは多くありますが、加害者家族のその後を追ったものは初めて目にしました。

犯人の周りの人々が「普通に生きていく」ことが困難になってしまったことを知り、

また、小さな頃に親の逮捕を目の当たりにしたショックを思うと、被害者本人や遺族だけでなく、加害者本人の家族の人生も奪ってしまうのだと実感しました。

犯罪を巡る個人の人生への影響について、冷静な考察の得られる番組だと思います。

 

   

 

加害者家族 (幻冬舎新書 す 4-2)

加害者家族 (幻冬舎新書 す 4-2)