本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

二度と作れない映画

今の時代、今より先の時代には作れないだろうと思った映画をご紹介します。

理由には、社会情勢の変化や技術革新など個々の背景があります。

理由と一緒にご紹介します。

 

 

 

1日限りの真実の恋

ローマの休日

ヨーロッパの某国王女と、アメリカ人の新聞記者がお忍びで1日限りの淡い恋を楽しむというおとぎ話的王道ラブストーリー。

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もし現代で、歴訪中の外国の王女が、どう見ても一般人の男性と、2人で大都市を散策していたら、あっという間にTwitterなどで目撃証言が広がってしまいます。

お忍びデートどころじゃなくなってしまうでしょう。

日本公開が1954年ですから、SNSどころかインターネットも、

インターネットどころかパーソナルコンピュータも一般的でない時代です。

現代の私たちは知らない人やモノとインターネットを通じてつながることができますが、この時代には全くの偶然でしかつながれない人やモノが沢山あったはずです。

そんなところがこの映画を、公開されてから60年以上も経った今、さらに特別にしているのかもしれません。

 

ビフォア・サンセット

学生時代、ヨーロッパ旅行中に偶然出会って恋に落ちたアメリカ人男性とフランス人女性が、9年後にパリで再会する場面から始まる恋愛映画。 

3部作の第1部である『ビフォア・サンライズ』で「半年後にまたウィーンのこの駅で会おう!」と約束して別れた後の出来事です。

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こちらも現在であれば 、最初に出会ったときにお互いFacebookでフレンドになり、その後も簡単に連絡を取り続けることができます。

『ビフォア・サンライズ』の公開は1995年で、コンピュータに興味のある人であればWindows95ないしアップルコンピュータを持っている(かも)、という時代。

その場でスマホを操ってフレンド申請できる現在とは光年の距離が…。

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しかし、住所交換しておけば文通はできたはずですから、ロマンチックな再会を運命に委ねるという意図が元々あって、「半年後にまた会おう」エンドにしたのかもしれません。

いずれにしろ、大好きなこの映画が当時生まれてくれて本当に良かったです。

 

すべてがシンプルだった頃

イタリア映画の巨匠フェリーニによる『道』は、旅芸人の粗暴な男ザンパノと、少し知能の弱い彼の助手ジェルソミーナの2人を追った映画です。

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物語はとてもシンプルです。

全力でクズ男の本懐を発揮するザンパノに、頭は良くないが優しいジェルソミーナは散々付き合わされる。

仲良くなれた綱渡り男イル・マットとの交流もザンパノがぶち壊す。

映し出される風景は、まだ貧しさの陰が濃いイタリアの田舎です。

移動は古いオート三輪、娯楽と言えば酒と女とギャンブル(TVすら出てこなかった)、女性の権利?何それおいしいの?な時代です。

凝った設定もねじ込みようがない社会背景で、何もかもがシンプルなのに、心に強烈な引っかき傷を残す作品でした。

人間の醜さを鮮烈に見せつけ、「神の愛は信じぬ者にも及ぶ」というフェリーニのメッセージが表現される本作は、シンプルだからこそ監督の力量が際立っていると言えます。

もし今、1950年代の世界を舞台に映画を撮ろうとしても、ここまでシンプルかつ強烈なものが生み出されはしないと感じます。

 

同じ社会には戻れない

風と共に去りぬ

美しく強い女性スカーレット・オハラが激動の南北戦争を生き抜く大河ドラマです。

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原作小説刊行が1936年、映画製作が1939年です。

原作小説の人気冷めやらぬうちに映画化されたのは幸運でした。

と言うのも、本作では黒人奴隷たちと、雇い主であり所有者であるスカーレットたち南部の白人たちとの関係を肯定的に描いており、アフリカ系アメリカ人からの批判を受け続けています。

公民権運動以降の米国で映画化することは難しかったでしょう。

奴隷たちを大切な家族の一員としていた南部白人もいたかもしれませんが、彼らを売り買いしていた=人身売買していたのは事実であり、反省すべき歴史と言えます。

一方で、南部白人から見た戦争の姿を知るには貴重な作品であることには疑いがなく、スカーレットとメラニーと言う対立軸を示しながら人間の愛を描き切った大作であることも間違いありません。

 

ミリオンズ

通貨ポンドを廃止し、とうとうユーロを導入することになったイギリス。

焼却処分される前の大量のポンド紙幣を偶然手に入れた子どもが、家族を巻き込んで騒動を起こしていく、というストーリーです。

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イギリスの通貨がユーロになるというのは、イギリスがEUのメンバーだからこそ成り立った仮想筋書きです。

今はEU離脱の道を進んでいますので、同じストーリーの映画を作ることはできません。

コメディでありつつ、お金について考えさせられる良作だったので、いつかまた観直したい作品の一つです。

 

番外編

勝利の朝

アメリカを代表する女優キャサリン・ヘップバーン主演の映画『勝利の朝』は、原題が"Morning Glory"です。 

直訳なのかと思いきや、英語でmorning gloryは植物の朝顔のことなんですね。

実際、タイトルは中身と何の関係もないそうです。 

勝利の朝 《IVC BEST SELECTION》 [DVD]

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おそらく誤訳なのだと思いますが、現在だったらネットで映画ファンから指摘を受け、たちまち炎上しそうです。

 

いかがでしたでしょうか。

こうして並べてみると、そのストーリーが輝けるうちに作品を世に出すのって大切なことなんだと思います。

映画でも小説でも、良作にたくさん出会いたいファンとしては、これからも製作・執筆がさらに活発に行われてほしいです。

長くなりましたが、今日はここまで。

 

 

 

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