本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『恋する惑星』

映画史に残る香港映画をご紹介します。

香港ひいてはアジアを代表する映画人、ウォン・カーウェイ監督作品のレビューです。

オレンジさん(id:mata1)や、id:Reiko_NBさんが以前コメントで言及してくださった作品なので「よっしゃー」と思って記事にしたくなった次第です。

割とネタバレしています。 

 

 

あらすじ

明日恋人になる相手と、今日すれ違っているかもしれない。

香港の巨大雑居ビル、重慶大厦には今日も様々な人物が行き交う。

恋人に振られた警官223号・モウは、手当たり次第女性に電話を掛けたりと、やけくそになっていたところで、謎めいたブロンドの美女に出会った。

一方、スチュワーデスの恋人と上手くいっていない警官663号は、ビル内の小さな食品店の店員フェイと出会う。

刹那の恋が、あらゆるものの行き交う香港の風景の中で始まっていく。

 

 

スタイリッシュだけど人間的

複雑なストーリーを楽しむと言うよりは、アンダーグラウンドを垣間見る場面や、非現実的な展開、ファンタジーのような雰囲気をゆったり味わう作品になっています。

この一文↑で触れた要素が本当に一つの映画にあるんかいなと思う方もいると思いますが、これがあるんです。

前半は金城武演じるモウ、後半はトニー・レオン演じる警官663号と、

2部構成になっていることもあり、間延びせず、かつ各要素が喧嘩しないバランスが保たれています。

また、スタイリッシュな空気感がありながらも、登場人物たちの心の動きは人間的で、無理なく感情移入できます。

失恋をした自分を受け入れられない気持ちや、

好きな人のことが知りたくなる好奇心は、

誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。

香港の街並みを美しく切り取った映像の中で、

人間味あるキャラクターたちの邂逅が、非日常感を失わずに繰り広げられます。

 

大都会だからこそ起こること

原題の『重慶森林』は、物語の舞台が重慶大厦という雑居ビルであることからつけられました。

実在の建物で、多数のゲストハウスや両替商が入居する、怪しくも賑やかな場所の1つです。

前半の登場人物と、後半の登場人物はビル内のとある飲食店を舞台にすれ違います。

このビル以外でも、香港はどこもかしこも人や物が無数にひしめき合う美しいカオスです。

本作は大都会でしか起こり得ない偶然の出会いや、刹那的な関係を描いて、無限の選択肢の中の運命を感じさせる物語にしています。

幾多の人がすれ違い、異なる目的を持って絶えず動き回る場所として、香港のど真ん中にある重慶大厦は最適の舞台だったのでしょう。

無数の可能性と出会いがあることが、都会でドラマが生まれる背景なんだと強く実感しました。

 

前半と後半で違う味わい

前半は失恋を癒したいモウと、麻薬ブローカーの女性との刹那的な出会いです。

何もかも違う2人の人生の中の一瞬のすれ違いが、互いに特別な記憶になりました。

後半は恋人と上手くいかない警官と、店員の女性の焦れったくも不思議な恋が綴られます。

巡り会うだけでなく、もう一度再会することも、この大都市では奇跡的だと思えます。

後半のほうが好きですが、ストーリーの中身もさることながら、主演であるトニー・レオンフェイ・ウォンのスクリーン映えが輝かんばかりというのも理由の一つです。

 

おわりに

別記事でご紹介した『マイ・ブルーベリー・ナイツ』も同じウォン・カーウェイ監督の作品です。

この映画でも、恋する人間の気持ちの移ろいや、説明しきれない感覚を物語に織り込む手腕が素晴らしかったです。

先日、いつもブログを拝見させていただいているニール・スキナードさん(id:lynyrdburitto)も紹介されていたので、食い入るように読んでしまいました。

lynyrdburitto.hatenablog.com

2つと出逢えない映画ですが、またこんな作品出てこないかなあと思ってしまいます。

都会的なラブストーリーが観たいという方に是非お勧めしたい映画です。

 

 

 

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