映画『サイダーハウス・ルール』のレビューの続きです。
成長物語として
ホーマーはウォリーの実家のりんご農園で、収穫作業をする季節労働者になります。
各地を巡って季節労働をしている黒人のチームに入り、親方のミスター・ローズの指導のもと仕事にあたりました。
手先が器用なので重用され、肌の色は違っても仲間として受け入れられ、親方の娘ローズ(フルネームがローズ・ローズ)とも仲良くなりました。
生まれ育った場所を離れ、違う場所で働き、自分で居場所を手に入れたことで自信がついたのか、充実した毎日を過ごします。
そして、ウォリーが戦地へ出征したあと、彼の恋人であるキャンディとホーマーは急速に親しくなります。
孤児院を出るまで海を見たことがなく、映画も1つしか観ていなかったホーマーは、今まで知らなかった物事をキャンディと共有していきました。
ラーチは彼が戻ってきて、医師として孤児院を支えることを望んでいましたが、キャンディのこともありホーマーはそれを断っていました。
ルールと信念
ある日親方の娘ローズが妊娠していると発覚します。
出産を望んでいないと知ったホーマーは、キャンディとともに孤児院に行って堕胎するよう説得しますが、ローズは無理だと言って聞きません。
キャンディが話を聞いてみると、何とお腹の子の父親は、彼女自身の父である親方のミスター・ローズでした。
悩み苦しむローズを見て、彼女を救うためにホーマーは堕胎手術を決意。
無事に堕胎手術を終えたローズですが、ある日父親を刺して農場を出て行ってしまいました。
ミスター・ローズは「警察には『娘を失って絶望したので自殺した』と言え」とホーマーたちに言い残して絶命しました。
時には規則を破っても間違いを正すものだろう、と自分に言い聞かせるように呟きながら。
良き市民として行動するなら、あったことを警察に全て話し、ローズの犯行だと伝えるべきかもしれません。
それよりもミスター・ローズが強く望んだのは、自分の犯した間違いが正され、償いをすることでした。
彼はローズの罪を被ることで、彼女を傷つけた贖罪をしようとしたわけです。
法律と言うルールにそぐわなくても、信念に従った行動をとること。
それはラーチ医師が中絶手術をするのと、そしてホーマー自身がローズに施術をしたのと、根底的には同じ動機でした。
人間の浅ましさと温かさ
堕胎や性的虐待など、人間の倫理が試されるテーマを孕みつつも、観終わったあとは胸がいっぱいになる不思議な映画です。
そうした気持ちになれるのは、
主人公ホーマーが穏やかで、人の役に立ちたいという信念を持っていること、
彼を育てた孤児院の大人たちが愛に満ちた人々であること、
ウォリーやキャンディ、サイダーハウスの仲間たちが温かく彼を受け入れたこと、
などが背景にあると思います。
性的暴力や、理不尽によって苦境に立たされる妊婦たちが常にどこかに存在する社会、
それは紛れもない現実であり、原因はすべて人間の行いです。
しかし、「人間を愛情深く育てたり、温かい居場所を提供するのもまた人間である」
という事実も同時に描くことで、現実を直視しつつ救いのある物語になっています。
もしヨーロッパ映画だったら、人間の醜さについて、より厳しく詳細な描写がなされていたと思います。笑
米国映画は人間に対しての評価がもう少し高いと言うか、
人間という存在についてもっと期待しているからこそ、
こうした優しい作品が作れるのかもしれません。
希望を感じさせるラスト
いくつかのきっかけに背中を押され、ホーマーは孤児院に戻ることを決意します。
りんごの収穫や、ロブスター漁で社会の役に立っていると充実感を覚えていた彼は、
元いた孤児院でも人の役に立てると気付いたのでしょう。
黒人労働者の仲間たちに、次の現場には行かないことを告げると、お前にはお前の道があるから、と仲間たちは快く承諾してくれます。
「ええー来ないの!?ふざけんなよ!来いよ!」と言っていた仲間もいて、それがまた泣けます。。。
孤児院で熱烈に歓待された彼は、子どもたちの成長を見守ることになりました。
おわりに
重いテーマを扱いつつも、深い温かみを感じる作品です。
ヨーロッパの容赦ない批判精神が宿った映画も好きですが、人間の美しさを描くことについては米国映画の方が一段上を行くときも多々あります。
『きみに読む物語』も、同様に人間の愛の美しさを感じさせてくれる映画でした。
感動できる成長物語を観たいと言う方に、ぜひお勧めしたい一作です。