本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『あと1センチの恋』

幼馴染同士のじれったい恋を描いた珠玉の名作のレビューです。

近すぎて遠い二人の様子が観ていていじらしいです。

 

 

あらすじ

ロージーとアレックスは6歳の頃からの親友で幼馴染だった。 

ロージーの18歳の誕生日に、アレックスはずっと好きだった彼女にキスする。

しかし、酔い過ぎた彼女がキスのことを覚えていなかったため、 アレックスは自分が振られたと思い込んでしまう。

高校卒業後は一緒にアメリカへ留学しようと約束していた2人だったが、ロージーが予期せず妊娠してしまったことで出発できなくなる。

イギリスとアメリカで、学業と子育てという別々の道を歩み始めた2人は、お互いを大切に思いつつもすれ違いを繰り返す。

回り道の末に自分の本当の気持ちに気づいたロージーだったが、その直後、アレックスが昔の恋人と婚約したと知らされる。

彼女は最後の奇跡を願って、結婚式のため愛娘を連れてアメリカに向かうことを決意する。

 

少年少女と大人のあいだ

ロージーとアレックスは、18歳を迎えて自立し始めた少年少女ですが、まだ自分の恋愛感情を率直に表現できるほどの余裕はありません。

一人暮らししたり、子どもを産んだり、どんどん責任ある行動をするステージに進んでいくものの、ままならないことも多々あります。

ロージーは想定外の妊娠に戸惑い、最初は子どもを養子に出そうとしますが、産まれてきた娘を見て手放せなくなってしまいます。

それは同時に、彼女自身が進学したり働くのを諦めることを意味しました。

懸命に母親業に奮闘するロージーですが、かつての同級生の女子と平常心で向き合えなかったり、娘の父親に翻弄されたりと数々の試練が訪れます。

アレックスはアレックスで、アメリカでの新生活が順調かと思いきや、恋人が意識高い系過ぎたり、上手くいかなかったり、ロージーのことが心配だったりします。

学校を出て、答えのない人生を歩き出す2人は若くてひたむきで思わず応援したくなります。

そんな時に本当の気持ちを打ち明けあえる友人の大切さを、わかりやすく伝えてくれるストーリーです。

ところが人生は上手くいかないもので、

好きな気持ちを確認したと思ったらアレックスの恋人が妊娠したり、

やっぱりロージーを守らねばと思ったところで彼女が娘の実父グレッグと復縁したり、

とにかくタイミングの悪い2人は何年もすれ違いを続けます。

 

ロージーを支える人々

遠くアメリカからロージーを心配するアレックスの他にも、ロージーを支える名脇役がいます。

彼女の父と、親友ルビーです。

ロージーの父親はホテルで働いており、ホテル経営を学んで自分の宿を開きたい彼女を応援します。

夢を語りつつ、母の心配も知っているロージーが「私って欲張り過ぎかな」と言うと、優しく激励します。

「欲張らないほうがもったいないと思うよ

 お前の好きにしなさい」

子育てに翻弄されるロージーも見守ってくれる父親は、彼女の生涯を通して尊敬できる人物の1人です。

優しさの権化のような父親と対比してコミカルなのが友人ルビーです。

妊娠・出産で環境が激変し、娘の実父は軽薄なチャラ男だし、アレックスとはすれ違いばかりのロージーに本音で寄り添います。

「あんたは最高の友達よ

 ヤなことがあってもあんたよりマシだと思える」

そんな踏んだり蹴ったりなロージーに、逆境に立ち向かえ!とばかりに背中を押してくれる頼もしい存在でもあります。

ロージーより結構年上に見えるのですが、年齢差を感じさせないフランクさもかっこよかったです。

 

人生は待ってくれない

とにかくタイミングが合わないロージーとアレックスを観ているうちに、人生には躊躇ってる暇なんてないのかもと思わされます。

好きなら伝えなきゃ、会いに行かなきゃ、でも今まで近しすぎてかえってきっかけがないし、大人になって毎日の仕事や義務に追われていると機会がない。

でも、時間が限られている以上は、好きな人と過ごす時間を失うわけにはいかないし、タイミングも好きな人もいつまでも待っていてはくれません。

アレックスの結婚式に向かう途中、親友ルビー姉さんがポーターの男性に「結婚しましょう」と初対面で突然プロポーズされるのが象徴的です。

ルビーは躊躇いもなんもなく良いわよと答え、あっさり婚約します。

「そんな簡単な話があるか!」とロージーが憤激するのですが、本当はこのくらい簡単なことだったんだろうなと思わされる一場面でした。

 

おわりに

すれ違ったりお互いを思って悩むロージーとアレックスのいじらしさがじれったい一方、2人を全力で応援したくなる映画です。

30歳近くなってくると、20歳くらいの若者が可愛らしく見えてきて困ります。

自分がその歳だったとき、心も大人のつもりでいつつ、そうじゃない実態と格闘していたのを思い出して煩悶したりもしますが。

太眉が可愛いロージーも、知的でハンサムながらロージーのこととなるとあと一歩のアレックスも、終始目が離せませんでした。

いつか原作の小説も読んでみたいです。

切ないけど勇気をもらえる青春映画をお探しの方に、ぜひお勧めしたい作品です。

 

 

 

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映画『月曜日のユカ』2

『月曜日のユカ』のレビューの続きです。ネタバレです。

 

 

矛盾と解放

修は、仲直りのために花を家に届けたら迎えにきてくれたし、プロポーズしてくれたし、ユカの母も大切にすると言ってくれた。

一方パパは、あの手この手で尽くしても、家族に見せたような笑顔はしないし、ユカが母を連れて行くと、一目で娼婦上がりとわかる姿にドン引きします。

しかもユカを顧客に差し出し、修だけに許したキスも奪われてしまう。

ユカは船長の居室から飛び出し、パパと船をあとにします。

どこからか聞こえる音楽に合わせ、港でパパと踊るユカでしたが、ふと手が離れた瞬間にパパは海に落ちてしまいました。

泣きも叫びもせず、パパが溺れるのを黙って見ていたユカが何を考えたかはわかりません。

映画は彼女が横浜の街を歩き去って行く場面で終わります。

 

日曜日の幸せ

パパが幸せそうだったのは、妻と娘との他愛ない時間を楽しんでいたからです。

ユカと過ごしている時も楽しそうですが、愛人をちやほやする優越感、若い娘を囲えて嬉しい、という即物的な楽しみでしかないでしょう。

家族愛とは違いますが、ユカはその笑顔を引き出すため、自分と母がパパと出かければいいと勘違いします。

日曜日は家族の日だと修に言われ、月曜日に会うことにしたユカですが、歓迎されません。

「男を喜ばせること」が第一と教えられてきたユカですが、彼女が知っている方法は優しく接して体の快楽を提供することだけでした。

その方法で接する限りにおいてパパは喜んでくれますが、それ以外の幸せは引き出すことができません。

体で尽くされなくても幸せそうなパパを見て、ユカは理由がわからず、幸せの与え方が他にもあることにうっすら気づいて戸惑います。

 

体と心の愛

体を許される以外の方法で、ユカと関わりたかった人もいます。

同じ店で働く手品師の男は、「私と寝て」と言われた途端に姿を消してしまいました。

いなくなった理由を聞きたがるユカの前で彼は何も語りませんが、おそらく、体の関係を持つことで、数ある相手の一人になってしまうのを恐れたのでしょう。

彼にとっては肉体関係より、ユカにとって唯一の存在であることのほうが重要だったに違いありません。

現恋人の修は、ユカの心も体も愛しており、パパとの非対称な関係を案じて「一緒になろう」と言います。

プロポーズを受けて不思議そうな顔をするユカは、彼女を本気で心配し、誰とも寝ないように彼女を養うと言い、彼女の母も受け入れようとする修が、今まで知らなかった「喜び」を教えてくれそうなことに気付きかけています。

それでもパパの懇願に応じて、船長と寝てほしいという申し出を受けてしまう。

ユカが承諾した理由は二つ、一つはパパが、そうしてくれたら本当に幸せになると思ったからでしょう。

一つは、修と住む部屋の準備に必要な十万円が手に入るから。

「寝ることで男を喜ばせる」価値観からそう簡単に離れられず、二人の男性を一度に喜ばせる(と彼女が思った)選択をしてしまったわけですが、修は当然ショックでした。

修はユカの体も心も欲しかったし、ユカにも自分を唯一の相手にして欲しかったからです。


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ユカが求めていたもの

ユカは不思議なくらい、男性全般あるいはパパを喜ばせることに執着します。

若くて綺麗なんだから、こんなおっさん放っとけばいいじゃないと思わざるを得ません。

でも彼女は、妻や娘といった「唯一の存在」への笑顔が忘れられません。

彼女の愛し方に決定的に欠けているのは、心の深い結びつきと、お互いにとって唯一の存在になることです。

体で奉仕するし、愛してると言って優しく接するけれど、相手を深く理解してのことではないし、一人だけに特別な愛を向けることはありません。

元彼からも、「愛なんて言葉を、そう簡単に使いなさんな」と諫められます。

肉体関係を望んでいる相手は、彼女から快楽以外得ることはないし、

ユカの心も愛したい相手は、唯一の存在にしてくれない彼女といるのが苦しくなってしまいます。

自分のやり方では、相手を本当に幸せにはできないということに、映画が終わった時にはユカは気づいたのではないでしょうか。

 

映像の表現について

様々な人や船が行き交って賑やかな、港町横浜の情景がかっこよく映されています。

外国人が多く、夜はお洒落なナイトライフを楽しむ人で溢れ、そんな中にはユカのように美しく個性的な少女がいるのも納得してしまいます。

一方で、ユカが一人で自室で過ごす様子を台詞なしで長く写したり、ユカの夢を脈絡なく挟んだり、独特な表現が見られます。

昔の邦画がこんなにこじゃれた映像を作っていると知らなかったのもあり、新鮮な驚きでした。

今ほどの映像技術はないので少々不自然さはありますが、個性的な演出や、お洒落な映像から目が離せません。

 

おわりに

フランス映画みたいという評価が多いのも納得の、愛について鋭いメッセージを持った映画でした。

とはいえ、加賀まりこが可愛いというだけで終わりまで楽しめる作品でもあります。

お洒落なモノクロ邦画をお探しの方にお勧めしたい映画です。

 

  

 

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映画『月曜日のユカ』

日活の名作、加賀まりこの代表作と言われた60年代の邦画をご紹介します。

フランスのヌーベルヴァーグに影響を与えたとも言われる中平康監督作品です。

ラストまでネタバレします。

 

  • あらすじ
  • ユカの信念
  • ユカと母
  • ユカと恋人

 

あらすじ

18歳のユカは、横浜のクラブ『サンフランシスコ』で働く可憐な少女。

気さくな性格で誰からも好かれており、日曜には教会に通っている。

一方で、どんな男性にも体を許すものの、キスだけはさせないことでも知られていた。

彼女は「男を喜ばせることが生きがい」と公言して憚らない。

最近は専ら、初老のパトロンのパパか、同世代の恋人・修と過ごしている。

ある日、修と町を歩いていたユカは、パパが妻と娘と買い物をしているのを偶然見かける。

パパが嬉しそうに娘に人形を買うところを見て、ユカは自分もパパに同じ幸せな顔をさせたいと思うようになる。

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映画『マイ・ファーザー 死の天使』

ナチス強制収容所で、非人道的な人体実験を繰り返した医師ヨーゼフ・メンゲレの息子が語り手の映画のレビューです。

父親の犯した罪について、戦後の時代を生きる彼が煩悶する模様が描かれています。

 

 

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映画『シェイプ・オブ・ウォーター』

気鋭の映画監督ギレルモ・デル・トロによる意欲作のレビューです。

結構ネタバレします。

 

 

あらすじ

冷戦下のアメリカ。

天涯孤独な掃除婦のイライザは、物心つく前から首筋に大きな引っかき傷の跡がある。

耳は聞こえるが言葉を話せない彼女は、手話で会話し、友人と言えば年老いた隣人と、掃除婦仲間のゼルダくらいと言う静かな暮らしをしている。

しかしある日、職場である政府の研究所に、生きている何かが研究対象として搬入されてくる。

その生き物は、大半の時間を水の中で過ごしているものの、人型をし、知能や意思を持っているように見えた。

ソ連との宇宙開発競争に不思議な生き物の能力を役立てたいというストリックランドは、生体解剖を試みようとしていた。

ストリックランドの意図を知ったイライザは、人生を変える決断をしようとしていた。

 

素朴で不思議な絆

イライザが研究所で出会った生き物は、人型の両生類のような姿です。

二足歩行ができ、水の外でも呼吸ができますが、塩水に長く触れていないと活力を失ってしまうようです。

彼はイライザの簡単な手話を理解し、音楽を楽しむ知性や感受性も持っていました。

しかし、研究所を束ねる軍人ストリックランドは、宇宙開発競争に役立てるために彼を生体解剖しようとします。

彼と奇妙な友情を育んでいたイライザは彼を救出するために動き出しますが、その際、研究所に潜入していたソ連の諜報員ディミトリとも協力し合うことに。 

始めは反対していた隣人ジャイルズや同僚ゼルダも、奇妙に愛らしい彼の仕草を目にしたり、元気になって行くイライザを見て、次第に考えを変えていきます。

 

おとぎ話という救い

イライザは彼に友情のみならず特別な感情を抱きます。

彼がありのままの彼女を受け入れてくれるから、言い換えれば、彼女が自分に足りていないと周りから思わされてきたことにこだわらないからです。

彼にとってイライザは「声の出せない人」とか、「身寄りのない人」とかではなく、食べ物や音楽をくれる優しい存在でした。

不思議な生き物が出てきたり、悪役ストリックランドに痛めつけられる彼が、心の優しいイライザと絆を深めたりする展開はまるで御伽噺です。

この流れは、同じ監督の『パンズラビリンス』と良く似ています。

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主人公オフェリアは、悲惨なスペイン内戦下で鬱屈した環境に置かれていますが、パンの試練をクリアすることで、地下の王国へ導かれます。

過酷な内戦がある世界では、オフェリアの母も、他の人物も、彼女の救いになってはくれません。

そしてその状況から脱する可能性は限りなく低いのです。

そんな彼女が幸せになれる状況があるとしたらそれは魔法か何かの力によってでしかありません。

本作も冷戦下の閉塞感あふれる社会で孤独に暮らすイライザが、命さえ研究の糧にしようとする宇宙開発競争から彼を守ろうとします。

彼は不思議な生命体であるだけでなく、知的でイライザの心を癒し、体の傷を癒す力も持っている。

抑圧された社会の中でも、お伽噺やファンタジーの存在が人間の心を解き放つという流れが共通しています。

そして、孤独な人間の心を救う不思議な存在との対比を極めるかのように、人間のケガや痛みの描写もまた克明です。

不思議な生き物をいたぶるストリックランドの残虐さ、反撃を受けて負ったストリックランドの深手、諜報員の暗殺など、苦手な方にはきついであろう描写が遠慮なく入れ込まれています。

しかし、正直『パンズ・ラビリンス』よりはかなりマイルドになっているので、あの描写に耐えられた方なら問題ありません。

 

不思議な生き物とストリックランド

不思議な生き物を徹底的に痛めつける存在として、ストリックランドが登場します。

彼は研究対象として容赦なくアマゾンから不思議な生き物を引きずり出しただけでなく、暴力を加えることを明らかに楽しんでいます。

パンズ・ラビリンス』のヴィダルと同様、残酷な現実と人間の冷酷さを象徴するかのような人物です。

自分以外のものをすべて見下しているかのようなストリックランドは、順調に家族を養っているように見えるものの、彼自身は妻や子どもに深い関心はないようです。

その証拠に、イライザに上から目線で言い寄ったりします。

イライザは当然彼を拒絶し、不思議な生き物を必死で守ろうとします。

冷酷なストリックランドと、不思議な生き物のどちらが深い情緒を抱いているのかは明らかだと思わざるを得ません。

 

秀逸な脇役たち

全編を通して暗くて怖くてグロかった『パンズ・ラビリンス』と異なり、本作にはコミカルな脇役が登場します。

イライザの隣人ジャイルズと、仕事仲間のゼルダです。

ジャイルズは変わり者の絵描きで、猫とイライザとの静かな生活に勤しんでいますが、彼女から突然、不思議な生き物救出作戦への協力を頼まれドン引きします。

僕は善良な小市民だし、そういうアクロバティックなことに向いてないし、大体そんなことできるわけなくない!?というスタンスです。

しかし、あるきっかけを通して心変わりし、結果として重要な貢献をすることになります。

掃除婦ゼルダも、イライザを気に掛ける数少ない友人の一人です。

特に何もしない亭主関白な夫の愚痴を面白おかしく語り、聞き役のイライザのことを思いやってくれます。

全体的な雰囲気は決して明るくない映画ですが、この2人の存在が、ダークファンタジーの世界に現実感を投影しています。

時々クスッとなりつつ、イライザと友人たちの関係や連携プレーにも引き込まれてしまいました。

 

映像の美しさ

研究施設内の内装や、不思議な生き物のいる水の色が基調となり、映像の中は大半が青緑色になっています。

しかし、イライザの心が変わったときに彼女の身に着けるものの色が変わったり、時折きらびやかな映画館の場面があるなど、色合いの美しさを感じさせる演出が挿入されていました。

全体的に重厚感を覚える映像ですが、おしゃれな色遣いを眺められるのも見どころの一つです。

 

おわりに

観終わった後、『パンズ・ラビリンス』との共通点が思い起こされて、ファンタジーの役割は何だろうと考えてしまいました。

現実にはあり得ない存在こそが、孤独な人間の救いになることがあるというのと同時に、

抑圧され人間的要素が排除される世界に、血の通った人間が閉じ込められなきゃいけない理由なんてない、というメッセージもあるように感じます。

長くなりましたが、今日はここまで。

 

 

 

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映画『ロシュフォールの恋人たち』

フランスを代表する映画人のドリームチームで作られたミュージカル映画のレビューです。

ハリウッド映画『ラ・ラ・ランド』がオマージュを捧げている作品でもあります。

 

 

あらすじ

美しい双子の姉妹・ソランジュとデルフィーヌは、フランスの美しい街ロシュフォールでバレエ教室を営んでいる。

二人はいつか素晴らしい恋人に巡りあいたい、パリで芸術家としての力を試してみたいと夢見ていた。

町でカフェを営み、彼女たちを女手一つで育ててきた母イヴォンヌは、歳の離れた長男ブブを育てている。

ブブの父親は双子姉妹も知らないが、イヴォンヌにとって忘れ得ぬ恋人だった。

彼女たちの住むロシュフォールは一年に一度の祭りを控え、祭りに参加する人々や、演習に来る海軍の軍人たちで賑わい始める。

その中には、新しい恋を求める青年ビルとエティエンヌや、唯一無二の理想の女性を探す水平マクサンスもいた。

 

名作ミュージカル

この映画は、フランスを代表するミュージカル映画シェルブールの雨傘』を作り出したジャック・ドゥミ監督、音楽家ミシェル・ルグラン、女優カトリーヌ・ドヌーヴが再結集したミュージカルです。

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映画は知らなくても、メインテーマの曲をどこかで聞いたことがある方は多いはず。

日本国内でも何度かCMソングに使われています。


2 l'arrivée des camionneurs

シェルブールの雨傘』では一言一句すべて歌い続けていましたが、『ロシュフォールの恋人たち』では歌ではない台詞もまあまあ入っています。

主演のドヌーヴと、その実姉フランソワーズ・ドルレアックだけでなく、他にもフランスを代表する俳優が多数出演しています。

当時のフランス映画界の大御所が集まりに集まった作品と言えるでしょう。

 

映像の美しさ

前項の動画からも見て取れるのですが、どの場面を切り取っても、登場人物たちの鮮やかな色の衣服が複数並べられ、観ていて楽しい色使いとファッションになっています。

ジャケット写真の双子姉妹を始め、ビルとエティエンヌもしばしば対比した色を纏って登場していました。

また、マクサンスの水兵の制服は白なので誰と並べても映えますし、ダム氏の白を基調とした店もまた然りです。

ラ・ラ・ランド』がこの映画へのオマージュとして、顕著に表現している部分でもあります。

そして、ロシュフォールの開放的で美しい街並みも、映像を特に華やかにしています。

イヴォンヌのカフェがあり、お祭りのメイン会場にもなる広場の様子は、いつ見ても明るい海辺の町の雰囲気を象徴しているようです。

 

遠くて近い様々な恋模様

ヒロインのソランジュとデルフィーヌは、いつか素敵な男性に逢いたいと思いつつ、映画序盤ではその相手を見つけていません。 

小さなロシュフォールの町からパリへ出て、広い世界で挑戦したいと思っています。

彼女たちの母イヴォンヌ、水兵のマクサンス、楽器店主のダムも、様々な人たちがロシュフォールで理想の恋や運命の相手に思いを馳せています。

それぞれの思いはすれ違ったり、交錯しながら結末へと向かっていき、全員が何らかの決着をつかみ取ることになります。

複数のストーリーラインが絡んだり離れたりする様子が絶妙で、あの人とこの人はどうなってしまうのか、この人は目指している人に会うことができるのかなど、常に気になってしまう展開でした。

また、途中で出奔してしまう10代と思しき少女たち、20代の双子姉妹たちの他にも、3人の子どもを持つイヴォンヌ、キャリアを確立した年代のダム氏など、様々な世代・立場の人物が登場します。

それぞれの人物が恋や人生に対する思いを語っており、愛や恋を色々な面から描き出した映画だと言えます。

 

おわりに

今年はフランス映画を強化するぞと思いつつ、なかなか観られておらずようやく1記事完成となりました。

本作を観てみて本当に良かったと思うのは、ミュージカルの楽しさ、映像の美しさ、ストーリーの巧みさ、すべて味わえる贅沢な映画だったという点です。

映画ってほんっとにいいもんですね!と心から言いたくなる作品の一つでした。

楽しいミュージカルが観たい、美しい映像が観たい、素敵なラブストーリーが観たい、そのすべての希望を叶えてくれる映画です。

 

 

 

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映画『天使にラブ・ソングを…』

パワフルなゴスペルと笑いに元気をもらえるコメディのご紹介です。

脚本としては大味な感もありますが、それを補って余りあるパワーに圧倒されます。

 

 

あらすじ

しがないクラブシンガーで、ヤクザのヴィンスの愛人デロリスは、ある日偶然ヤクザの殺人を目撃してしまう。

愛人ヴィンスの一味から追われる身になった彼女が警察に保護を求めると、身を隠すために送り込まれたのは辛気臭い修道院だった。

デロリスはストイックで味気のない修道女生活に辟易するが、ある日聖歌隊の指導を任される。

音楽を楽しみ、表現することを教えると、静かで大人しいだけだった修道女たちに活気があふれ、悲惨だった合唱にも変化が訪れた。

ところが、噂の修道院としてTVで紹介されてしまったがために、 ヤクザたちがデロリスを発見してしまう。

 

音楽の力

厳粛で荘厳な讃美歌を歌うだけ、しかも惨憺たる有様のシスターたちを見て、デロリスは最初ドン引きします。

礼拝に参加している人たちも、それが行事の一環だから着席して聞いているだけでした。

しかし、素直なシスターたちはデロリスの指導内容も柔軟に吸収し、次第に歌うことに積極的な楽しみを見い出していきます。

普段から音楽をしている人でなくても、小さな頃からレッスンをしているエリートでなくても、上手に歌えたら楽しいし、自分の表現に他の人が反応してくれたら嬉しい。

素朴な音楽の楽しみ方を思い出させてくれる映画でした。

今までの古典的な讃美歌ではなく、エネルギッシュなゴスペルを歌い始める聖歌隊の、あまりに楽しそうな様子にこちらも引き込まれてしまいます。

教会なんかに見向きもしなかった若者たちも、音楽を聴きに来ます。 

さらに、地域との交流を積極的にするようになって、静かなだけだったシスターたちは見る間に活力を得ていきます。

 

新参者とベテラン

新参者、かつ期間限定で修道女のふりをしているだけのデロリスが活躍することに、良い顔をしない人物もいます。

厳粛な修道院をまとめている院長です。

彼女は、デロリスが楽しく過ごしたがることや、地域との交流をしたがることに反発します。

楽しく過ごすことは規律を緩めることになり、修道生活と両立しないし、地域との交流も(最初は上手くいっても)いずれ壁にぶつかると考えているためです。

ベテランの彼女なので、実際にどこかでそうした経験をしたことがあるのでしょう。

苦労を知っているからこその言葉だと思います。

デロリスは、良い意味でも悪い意味でも何も知らないため、どんどん変化を仕掛けていけますが、その道が長い院長にとっては問題に見えることばかりです。

しかし、そうした葛藤にぶつかった時に手助けできるのは真のベテランしかいないのも事実です。

正反対の二人がぶつかり合い、お互いを認め合うまでの女の友情ストーリーとしても楽しめる映画です。

 

コメディの力

突拍子もない設定の中に、現実要素も少しだけ盛り込みつつ、全体を通してパワフルなコメディ展開に溢れています。

「ヤクザから身を守るために修道院にってそんなわけないだろ」から始まり、

「はすっぱなクラブ歌手がお堅い修道院改革に臨む」という信じられなさ、

ゴスペルと言う音楽の力で何もかもが力強く変わりだす豪快さ、

どれをとっても文句なしに明るく、エナジェティックです。

終盤、世間知らずのシスターたちが、文字通り総力を挙げてデロリスを助けに行く場面は、爆笑と感動を禁じえません。

人の役に立ちたい奉仕の精神を持ちながらも、今まで質素で静かな生活に徹していた彼女たちの、本来のエナジーが噴出しています。笑

 

おわりに

ウーピー・ゴールドバーグの演技に終始惹きつけられる映画でした。

さらに、彼女と仲良しになるシスター3人組や、院長を演じるマギー・スミスなど、秀逸な脇役に固められた作品でもあります。

ゴスペルと言う力強い音楽の魅力もさることながら、音楽は人を変える力があると実感させてくれる一本です。

音楽やコメディで元気になりたいという人にお勧めしたいです。

 

 

 

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