本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『月曜日のユカ』2

『月曜日のユカ』のレビューの続きです。ネタバレです。

 

 

矛盾と解放

修は、仲直りのために花を家に届けたら迎えにきてくれたし、プロポーズしてくれたし、ユカの母も大切にすると言ってくれた。

一方パパは、あの手この手で尽くしても、家族に見せたような笑顔はしないし、ユカが母を連れて行くと、一目で娼婦上がりとわかる姿にドン引きします。

しかもユカを顧客に差し出し、修だけに許したキスも奪われてしまう。

ユカは船長の居室から飛び出し、パパと船をあとにします。

どこからか聞こえる音楽に合わせ、港でパパと踊るユカでしたが、ふと手が離れた瞬間にパパは海に落ちてしまいました。

泣きも叫びもせず、パパが溺れるのを黙って見ていたユカが何を考えたかはわかりません。

映画は彼女が横浜の街を歩き去って行く場面で終わります。

 

日曜日の幸せ

パパが幸せそうだったのは、妻と娘との他愛ない時間を楽しんでいたからです。

ユカと過ごしている時も楽しそうですが、愛人をちやほやする優越感、若い娘を囲えて嬉しい、という即物的な楽しみでしかないでしょう。

家族愛とは違いますが、ユカはその笑顔を引き出すため、自分と母がパパと出かければいいと勘違いします。

日曜日は家族の日だと修に言われ、月曜日に会うことにしたユカですが、歓迎されません。

「男を喜ばせること」が第一と教えられてきたユカですが、彼女が知っている方法は優しく接して体の快楽を提供することだけでした。

その方法で接する限りにおいてパパは喜んでくれますが、それ以外の幸せは引き出すことができません。

体で尽くされなくても幸せそうなパパを見て、ユカは理由がわからず、幸せの与え方が他にもあることにうっすら気づいて戸惑います。

 

体と心の愛

体を許される以外の方法で、ユカと関わりたかった人もいます。

同じ店で働く手品師の男は、「私と寝て」と言われた途端に姿を消してしまいました。

いなくなった理由を聞きたがるユカの前で彼は何も語りませんが、おそらく、体の関係を持つことで、数ある相手の一人になってしまうのを恐れたのでしょう。

彼にとっては肉体関係より、ユカにとって唯一の存在であることのほうが重要だったに違いありません。

現恋人の修は、ユカの心も体も愛しており、パパとの非対称な関係を案じて「一緒になろう」と言います。

プロポーズを受けて不思議そうな顔をするユカは、彼女を本気で心配し、誰とも寝ないように彼女を養うと言い、彼女の母も受け入れようとする修が、今まで知らなかった「喜び」を教えてくれそうなことに気付きかけています。

それでもパパの懇願に応じて、船長と寝てほしいという申し出を受けてしまう。

ユカが承諾した理由は二つ、一つはパパが、そうしてくれたら本当に幸せになると思ったからでしょう。

一つは、修と住む部屋の準備に必要な十万円が手に入るから。

「寝ることで男を喜ばせる」価値観からそう簡単に離れられず、二人の男性を一度に喜ばせる(と彼女が思った)選択をしてしまったわけですが、修は当然ショックでした。

修はユカの体も心も欲しかったし、ユカにも自分を唯一の相手にして欲しかったからです。


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ユカが求めていたもの

ユカは不思議なくらい、男性全般あるいはパパを喜ばせることに執着します。

若くて綺麗なんだから、こんなおっさん放っとけばいいじゃないと思わざるを得ません。

でも彼女は、妻や娘といった「唯一の存在」への笑顔が忘れられません。

彼女の愛し方に決定的に欠けているのは、心の深い結びつきと、お互いにとって唯一の存在になることです。

体で奉仕するし、愛してると言って優しく接するけれど、相手を深く理解してのことではないし、一人だけに特別な愛を向けることはありません。

元彼からも、「愛なんて言葉を、そう簡単に使いなさんな」と諫められます。

肉体関係を望んでいる相手は、彼女から快楽以外得ることはないし、

ユカの心も愛したい相手は、唯一の存在にしてくれない彼女といるのが苦しくなってしまいます。

自分のやり方では、相手を本当に幸せにはできないということに、映画が終わった時にはユカは気づいたのではないでしょうか。

 

映像の表現について

様々な人や船が行き交って賑やかな、港町横浜の情景がかっこよく映されています。

外国人が多く、夜はお洒落なナイトライフを楽しむ人で溢れ、そんな中にはユカのように美しく個性的な少女がいるのも納得してしまいます。

一方で、ユカが一人で自室で過ごす様子を台詞なしで長く写したり、ユカの夢を脈絡なく挟んだり、独特な表現が見られます。

昔の邦画がこんなにこじゃれた映像を作っていると知らなかったのもあり、新鮮な驚きでした。

今ほどの映像技術はないので少々不自然さはありますが、個性的な演出や、お洒落な映像から目が離せません。

 

おわりに

フランス映画みたいという評価が多いのも納得の、愛について鋭いメッセージを持った映画でした。

とはいえ、加賀まりこが可愛いというだけで終わりまで楽しめる作品でもあります。

お洒落なモノクロ邦画をお探しの方にお勧めしたい映画です。

 

  

 

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