本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『ニキータ』

 リュック・ベッソンの主要作品の1つ『ニキータ』をご紹介します。

本作が話題になったことから、ハリウッド版リメイクやドラマも製作されました。

 

あらすじ

薬物欲しさに仲間と薬局を襲撃したニキータは、警察官を殺した罪で終身刑を言い渡される。

しかし、薬物の投与を受けた後に目を覚ますと、ボブと名乗る政府の人間から秘密工作員として生きることを命じられた。

様々な訓練を受け、暗殺者として独り立ちしたニキータは、やがて彼女を受け入れてくれる恋人に出会う。

 

ときめきとハードボイルド

ニキータは厳しい訓練に耐えて成長する日々の中で、指導役であるボブと特別な信頼を築きます。

性格の幼いニキータにとっては無理難題とも思える課題を課すボブは、非情な教官に見えます。

しかし同時に彼は、ニキータが訓練から脱落しないようたまに手を差し伸べます。

一方、訓練を終え偽名で世に出たニキータは、心優しい青年マルコと出会います。

マルコは過去を語らないニキータを訝しがりつつも、何があっても愛するのは彼女ただ1人だと告げます。

ニキータは彼の愛に癒されつつも、ボブから否応なく過酷な任務を任され続けます。

2人の男性との間の純愛と、

ハードボイルドな場面の間で、

飽きさせない揺り戻しがあり、最後まで目が離せませんでした。

 

ニキータの成長

序盤のニキータは救いようのない不良少女です。

非行に走るだけでなく、言葉によるコミュニケーションがまともにできないばかりか、感情も制御できません。

怒鳴ったり叫んだり泣き喚いたり、ほとんど動物的と言ってもいい状態です。

けだもののようなニキータでしたが、

工作員として生きるか、それとも死ぬかのどちらか」

と言う選択を迫られた後は、徐々に変わります。

アマンド夫人の薫陶を受け、知的な淑女に少しずつ近づきます。

この世には限界のないものが2つある

女の美しさとそれを濫用することよ

と語るアマンドの言葉どおり、ニキータは2つの愛に翻弄されながらも、2人を翻弄する運命を歩むことになります。

出だしでは目も当てられない身なりだった彼女ですが、中盤以降は思わず見つめてしまうほど、美しい衣服も軽々着こなせる大人の女性に変身しています。

 

殺伐としたアクション

序盤からハードな銃撃戦や格闘の場面が続き、緊迫感が長く途絶えることがありません。
主人公がヒロインだからと言って、全く手加減なしです。
むしろニキータは反射神経や闘争心を見出され、ボブの秘蔵っ子として成長して行くことになります。
迫力あるシーンが断続的に挟まれ、アクション映画として目が離せない作品になっています。

 

おわりに

最初は動物じみた奇行を繰り返すニキータに決して共感できないと思いました。笑

しかし、彼女の変貌ぶりも恋の行方も、最終的には見守ってしまいました。

隅々までハードボイルドでありつつ、

ニキータの少女らしさを活かした恋愛要素も、

決して甘くなり過ぎないように盛り込まれています。

この2つの要素が巧みに同居しているところがベッソン先生の凄いところなのでしょう。

過激な純愛を観てみたいという方におすすめの映画です。

 

 

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映画『リトル・ダンサー』

 ダンスの楽しさを知った男の子が、夢を追うために奮闘する映画をご紹介します。

 

  • あらすじ
  • 炭鉱の労働争議
  • 家族の物語
  • 斬新な演出
  • 夢を追うことで学べるもの
  • おわりに

 

あらすじ

サッチャー政権下のイギリス。

かつて炭鉱地域として栄えた北イングランドでは、国策により炭鉱の閉鎖が相次いでいた。

閉鎖に反対してストライキを行う労働者たちの中に、ビリーの父親もいた。

ビリーは父や兄と同じくボクシングに通う男の子だったが、ある日ささいなきっかけから踊る楽しさに目覚める。

バレエ教室の教師から才能を見出されつつも、大反対する父や兄に押され、一度はバレエを続けることを諦めたビリー。

しかし、無心に踊るビリーを父が目撃した日から、風向きが変わり始めた。

 

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小説『ゲルマニア』

第二次世界大戦下のベルリンを舞台とした推理小説のレビューです。

主人公は元刑事のユダヤ人で、謎の解明に加えて、彼が無事生き延びることができるか、というところも重要なストーリーラインになってきます。

 

あらすじ

1944年のベルリン。

ユダヤ人のオッペンハイマーは、ナチス政権の政策により刑事の職を追われ、アーリア人の妻とともに倹しい生活を送っていた。

彼はある夜、極秘裏に殺人事件の現場へ同行を求められる。

ベルリンで続いている、女性を標的とした猟奇殺人の捜査に加わって欲しいと依頼されたのだ。

彼はナチス親衛隊員フォーグラーの監視のもと、独自に捜査を行うことになる。

 

緻密な時代ミステリー

ナチス政権下のベルリンという舞台をフルに活用したミステリーです。

女性を標的とした殺人自体は時代に関係なく起こりそうなものですが、この事件については第二次大戦中のドイツならではの要素が絡んできます。

特殊な状況を巧みにストーリーの要素に取り入れていること、

優秀な元刑事オッペンハイマーによって、謎解きが緻密に丁寧にされていくこと、

主にこれら2つによって完成度・満足度の高い推理小説になっています。

 

奇妙な友情

オッペンハイマーと、彼の監視役として行動を共にする親衛隊大尉フォーグラーの間には、当初敵同士の関係しかありませんでした。

しかし、2人で捜査を進めたり、危険な状況を打破したりしているうちに徐々に信頼関係が育っていきます。

立場上、フォーグラーが表立ってオッペンハイマーの民族的背景を肯定することはありませんが、

1人の人間同士の関係が築かれれば、民族や人種などグルーピングによる関係性は薄れていくことを自然に描写していると感じました。

また、妻のリタや女医の友人など、オッペンハイマーを助ける個性溢れる面々も見どころの1つです。

 

詳細な生活の描写

本作のもう1つの特徴は、第二次大戦中のドイツの暮らしについて詳しく描写されていることです。

空襲の様子や配給の状況、平時の日常生活との違いなど、作者のギルバースは当時のベルリンに暮らしていたんじゃないかと思うほどの具体性でした。

詳細な描写により、オッペンハイマーたちの暮らす背景がリアリティを持ち、物語全体の説得力が増しています。

 

おわりに

欲を言えば犯人の動機にもう少し掘り下げが欲しかったところですが、謎解きに引き込まれてしまってそれもあまり気にならないくらいでした。

ハードボイルドなミステリーを読んでみたいときにおすすめの一作です。

 

 

ゲルマニア (集英社文庫)

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小説『マグマ』

才色兼備なヒロインが奮闘する経済小説をご紹介します。

 

  • あらすじ
  • 地熱発電とは
  • 3.11以前に書かれたと思えない分析眼
  • ヒロインのキャラクター
  • おわりに

 

あらすじ

外資コンサルティングファームに勤務する野上妙子は、ある日出勤すると、自分以外のチームメンバー全員が解雇されたと聞かされる。

そして、残された妙子は、大分で地熱発電事業を営む日本地熱開発の事業再生を任された。

突然の地方案件に戸惑う妙子だったが、日本地熱開発社長の安藤とともに初めて知る事業領域に足を踏み入れる。

よそ者の妙子に厳しい顔を見せる技術者たちだったが、やがて会社を救うための発電事業について、妙子や安藤とともに必死に道を探ることとなる。

 

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映画『戦火の勇気』

湾岸戦争を背景にした映画のレビューです。

メグ・ライアンデンゼル・ワシントンが主演を務めた作品をご紹介します。

戦場サスペンスという一面がありつつ、強いメッセージも持っている作品です。

原作小説の原書を読んだことがありますので、そちらにも簡単に触れたいと思います。

 

あらすじ

湾岸戦争中のクウェート領内で、部下の乗った戦車を誤射してしまったナサニエル(ナット)・サーリング中佐は、表彰候補者の調査を行う業務へ配置転換された。

仲間を殺してしまった罪悪感に苦しみながらも、表彰候補者となった女性カレン・ウォールデン大尉の調査を進めるナットは、やがて不審な点に気づく。

カレンの臨終に立ち会った兵士数人の証言の内容が一致しないのだ。

ある者は勇敢だったといい、ある者は臆病でパニック状態になっていたと証言する。

勲章授賞者というヒーローを生み出したい上から制止されながらも、ナットは独自に調査を継続することを決意した。

 

戦場サスペンス

1つの事象について皆が食い違う証言をするという、黒澤明監督『羅生門』のような構成になっています。

ディティールが違うどころか、異なる兵士から全く正反対の証言が出てきます。

それに加えて、全身をがんに犯されてまともな証言が取れなかった男のうわ言、証言をした後自殺を図った男など、事態は混迷を極めます。

ナットが戸惑いながらも調査を進め、最後に辿り着く証言ですべてが明らかになります。

戦場という極限状況の中で、自らの命が危険に晒された状態で、人間が何を感じどう行動したのか、映画を観ながら考え込まざるを得ません。

 

ナットの苦悩

敵の戦車と誤認し、親友に攻撃してしまったナットは、湾岸戦争から帰還してからも深刻な苦悩に見舞われます。

戦争だったとは言え、

特殊な状況だったとは言え、

人の命を奪ったという事実による罪悪感は計り知れないものでした。

そしてその姿は、生きて帰ってきたものの、ナットへの証言後に何らかの理由で自殺した兵士の姿と重なります。

詳しくは伏せますが、ウォールデン大尉と居合わせた他の兵士も深刻なトラウマに悩まされていました。

この描写から、戦勝国側で戦い、生きて帰れたとしても、戦場から何も傷つかずに帰ってくることなど出来ないのだと思い知らされました。

戦争に勝利しても、帰還を遂げても、誰かを殺した罪悪感や、人の死に立ち会った衝撃から逃れることはできない。

映画ではカレンの死にまつわる謎を追うことがメインテーマになりますが、

小説ではナットや帰還兵たちの苦しみがより詳しく描写されていました。

映画を観て興味を持った方は、是非小説も手に取られることをお勧めします。

 

その他の見どころ

帰還兵役で出演しているマット・デイモンは、やつれた若者を演じるため過酷な減量に挑んだそうです。

実際、命が心配になるレベルの痩せようで、終盤の迫力を否応なく増していました。

本作の監督はエドワード・ズウィックが努めています。

ラスト・サムライ』『ブラッド・ダイヤモンド』など、他にも戦いをテーマとした作品を複数手がけており、特に『ブラッド・ダイヤモンド』は大きなテーマを扱った大作となっています。

 

おわりに

ブコメの女王メグ・ライアンの女性兵士役ということで、ミスキャストと思う方もいたようですが、私は特段違和感なく観られました。

ブコメの方の作品をあまり観たことがないからですが。

ナット役のデンゼル・ワシントンはこの人しかいないと思える配役でした。

シリアスなテーマについて考えたい時にお勧めの作品です。

 

 

 

 

 

映画『日の名残り』

人生の回想を軸とした、カズオ・イシグロ原作の映画をご紹介します。

原作の小説も読了していますので、そちらも意識しながらレビューを書きました。

ネタバレでお送りしています。

 

  • あらすじ
  • 仕事に人生を捧げた主人公
  • 一人称の回想
  • 回想に付随するテーマ
  • おわりに

 

あらすじ

英国の美しい田舎にあるダーリントン・ホールには、この邸宅に長年使える執事のスティーヴンスがいる。

彼は、屋敷の新しい主人が与えた休暇を利用して、かつての仕事仲間であったミス・ケントンを訪ねることにした。

一人旅の道中で彼は、かつての主人だったダーリントン卿が第二次大戦前夜に開戦阻止のため奔走していたことや、ミス・ケントンとの思い出を回顧する。

 

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