本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

小説『マグマ』

才色兼備なヒロインが奮闘する経済小説をご紹介します。

 

 

あらすじ

外資コンサルティングファームに勤務する野上妙子は、ある日出勤すると、自分以外のチームメンバー全員が解雇されたと聞かされる。

そして、残された妙子は、大分で地熱発電事業を営む日本地熱開発の事業再生を任された。

突然の地方案件に戸惑う妙子だったが、日本地熱開発社長の安藤とともに初めて知る事業領域に足を踏み入れる。

よそ者の妙子に厳しい顔を見せる技術者たちだったが、やがて会社を救うための発電事業について、妙子や安藤とともに必死に道を探ることとなる。

 

 

地熱発電とは

地熱発電は、地下のマグマによって温められた高温の水(高温の温泉)が生み出す蒸気を利用して、発電を行う方法です。

マグマによって生み出される高温の水は、燃料に頼ることのない発電資源のため、再生可能エネルギーに分類されます。

風力発電太陽光発電など、他の再生可能エネルギーと比べて不安定さがないところに大きなアドバンテージがあります。

また、日本は温泉大国という事実からも窺える通り、国内に豊富にある地熱資源を活用できるところも注目されるポイントです。

ちなみに、日本の地熱資源量は世界で第3位に位置します。

一方、地下深くを掘削して開発しなければならないため、地上で設備が完結する発電方法と比べて時間がかかるという難点があります。

地熱資源のほとんどは国立公園内に位置し、開発行為が非常に難しいこと、

温泉資源の枯渇を恐れる温泉組合から強い反発があったことなどから、

発展が阻まれてきた背景もあります。

本作に登場する日本地熱開発という会社は、この地熱発電の技術を蓄積していますが、発電技術としての注目度の低さを嘆く描写も散見されます。

 

3.11以前に書かれたと思えない分析眼

本作は東日本大震災以前に発表されていますが、震災以前の再生可能エネルギーはまるで注目も開発促進もされていない状態でした。

その中で地熱発電を取り上げ、原子力との対比(政策上の位置づけの違いが分析的に紹介されています)を行ったのは、先見の明があるテーマ設定だったと言えます。

太陽光や風力のような不安定なエネルギーでは、いくら再生可能といえど火力や原子力に取って代わることはできない、でも地熱であれば可能かもしれない、と技術者が語る場面がありました。

日本の電源について議論が起こっていない状況で、このような問題提起が行われたのですが、あまりに3.11以降の社会的課題に沿った内容であったことから、震災後に再び注目を浴び、尾野真千子主演でドラマ化されています。

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ヒロインのキャラクター

主人公の妙子は一貫してエリート街道を歩んできた人物ですが、あまりの優秀さについていけないと恋人から別れを告げられたり、キャリアウーマンならではの現象を色々と経験しているようです。

容姿も悪くないのですが、仕事の場面で外見や性別に言及されるのを非常に嫌います。

最初は人間味を感じ辛いキャラクターかも知れませんが、安藤社長や技術者たちとの対話を経て、徐々にチームで会社の再生に向かって進んでいきます。

葛藤や悩みを抱えながらも、目的意識を失わず前進していく姿は、単純に社会人として尊敬の念を抱かせるものです。

思わず、これからもバリバリ仕事してくれ!と応援したくなりました。

 

おわりに

エネルギーや電力と言う深遠なテーマを据えた経済小説であるとともに、

真剣に仕事に取り組む登場人物たちのヒューマンドラマでもある小説です。

レビューでは主にヒロインの妙子に言及しましたが、安藤社長や技術者たちも、それぞれの思いを持って仕事に臨んでおり、それらも見どころの一つです。

ドラマもハードボイルドな仕上がりになっています。 

硬派なテーマのある小説を読んでみたいと言う時におすすめの一冊です。

 

  

 

マグマ (角川文庫)

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