本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『アニー・ホール』

好きな恋愛映画トップ5に入る映画をご紹介します。

やんわりネタバレします。

 

 

あらすじ

ニューヨークに住むコメディアンのアルビー・シンガーは、歌手を目指す明るく陽気な女性アニー・ホールと付き合い始める。

ひねくれたアルビーと、誰にでも気さくなアニーは正反対であったが、最初は順調に関係を深めていた。 

しかし、思い出が増える中で、同棲や喧嘩、些細な行き違いを重ね、やがて2人の仲は複雑なものになっていく。

やがて、音楽業界の関係者から声をかけられたアニーは、カリフォルニアへ向かうことになる。

 

主人公アルビー

ウディ・アレン演じるアルビーは、一言で言うと面倒くさい奴です。

何かというと他者をこき下ろし、自分ができないことの言い訳をし、認められるべき自分が認められないと嘆き、挙句その理由がユダヤ人差別だと言い切ります。

友達になりたくないタイプですね。笑

しかし、監督ウディ・アレンのバランス感覚によるものなのか、ギリギリ憎めない人格として描かれていました。

(いやー憎めなくないよ嫌だよコイツと思う方はすみません)

映画冒頭で「自分をメンバーに入れるようなクラブには入りたくない」というフロイトの発言を引用し、自身に対するある程度の客観性を担保しているからかもしれません。

そんな彼だからこそ、自分と似ている相手は選ばず、美人で明るいアニーを選んだのだということはよく理解できます。

面倒くさいことを言う場面はたびたび出てきますが(と言うかほとんどがそう)、鬱陶しくなり過ぎずコミカルに仕立てられているので、楽しく観ることができました。

 

ヒロインのアニー

アルビーとともに映画の魅力の大部分を担うアニーは、若き日のダイアン・キートンが演じています。

スレンダーな体に似合うパンツスタイルに惚れ惚れします。

溌溂とした笑顔やいきいきとした表情も魅力的で、絶えず画面上で彼女の姿を追ってしまうことになりました。

外見だけでなくキャラクターにも人を惹きつけるものがあり、顔が広いうえ、カリフォルニアでもすんなりコミュニティに溶け込んでいます。

アルビーにはないものを完璧なまでに具えているアニーですが、やはりというか何なのか、一緒に過ごす時間が長くなるうちに互いの「合わない」部分が見えてきてしまいます。

徐々にすれ違いが生じ、些細なことで喧嘩もするようになります。

歌手を目指すアニーがスカウトされる時も、アルビーは良い顔をしません。

 

恋愛あるある

アルビーとアニーは徐々にすれ違っていきますが、それ以前の楽しそうな様子も描かれています。

特に象徴的なのは、料理しようとしたロブスターが脱走して、台所じゅうがロブスターに侵略されてしまい、2人で大騒ぎしながらロブスターを鍋に回収していく場面です。

しょうもないことをワイワイはしゃぎながら思い出にできるのは、気の合う恋人同士だからこそです。

アニーが「部屋にクモが出たから退治しに来て」という場面も、恋人同士ならでは感が滲み出ていて好きでした。

「もークモくらい自分で退治しなよーしょうがないなー」と言って実物を見に行ったアルビーが「ごめん甘く見てた」と言うところなんかも、思わずクスッとなってしまう上に誰の日常にもありえそうな、憎い演出です。

恋人と長い時間を共有したことのある人なら、誰でも共感してしまうネタが随所にちりばめられています。

それは、徐々にすれ違い始める2人の様子についても、いったんは離れた後に恋しくなる様子についても、また同じと言えます。

そうした誰にでも起こりそうな状況を取り上げているにも関わらず、

斬新な設定(ex.アルビーの幼少期の家はジェットコースターのすぐ隣だった)や

演出(ex.見られるはずのない過去の場面を現在の人々が垣間見る)などによって、

いい意味で気軽にみられる虚構性も付加されています。

 

ないものねだり

一言で表すとしたら、「ないものねだりの恋」の映画です。

互いに惹かれあって恋が始まるのに、距離が縮まるとぴったり合わない部分が見えてくる。

疎遠になって、でも少し時間がたつとすぐに楽しかった思い出が恋しくなる。

昔に戻ってみようとするけれど、やっぱり合わないという結論に至る。

それでも、誰かと恋に落ち愛し合う気持ちが忘れられなくて、また別の恋をする。

ラストシーンのモノローグは、ありえないものを求めて恋をしてしまう様子を端的に比喩で表現しています。

 

おわりに

ニューヨーク対カリフォルニアというアメリカのドメスティックネタを入れているにも関わらず、きわめて普遍的なラブストーリーになっており、名作と言われるに相応しい作品だと思います。

それでも恋するバルセロナ』を観たときにはウディ・アレンの力量にそこまでの感銘は受けなかったのですが、本作を観て今日のアレン監督の評価に納得できました。

他の有名作品も徐々に観ていきたいと思います。

 

  

 

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