今更ながら今年の有名どころ邦画をご紹介します。
切ないけど元気づけられる、住野よるの小説が原作の青春映画です。
あらすじ
高校生の主人公は、ある日病院でクラスメートの桜良が落とした、家族との交換日記を拾う。
そして、彼女が膵臓の病気を抱えており、あと何年も生きられないことを意図せずして知ってしまう。
桜良が不治の病に罹っていることは周囲の誰も知らなかった。
彼が桜良の秘密を知ってから、桜良は頻繁に話しかけてくるようになっただけでなく、周囲のいぶかしむ目も気にせず、彼をデートに連れ出すようになる。
彼女は死ぬまでにしたいことを実現する相棒として彼を選んだのだった。
ヒロインの桜良
桜良は明るく、誰にでも好かれる可愛い高校生です。
対照的に主人公は無口で、友達がおらず、他人に興味を持たない性格です。
図書委員をしているのですが、突如として桜良も委員に加わったことに戸惑っていました。
桜良は彼が緻密に整理した分類をめちゃくちゃにするだけでなく、突然彼をデートに連れ出したりと天真爛漫な振る舞いで彼を翻弄します。
そして、死ぬまでにやりたいことリスト(福岡に行ってみたり、男の子と外泊したり、お酒を飲んだり)を実行するのにことごとく彼を巻き込みます。
いつも笑顔で、泣き言も言わず気さくな彼女を見ていると、
「長くは生きられないと知っていながら、こんなに若い女の子が、その秘密をほとんど完全に押し隠して、どうしてこんなに落ち着いた振る舞いができるんだろうか」
と心底不思議になります。
自分だったらこんなに大人びた生き方はできないだろうな、とも思います。
かと言って、高校生として不自然なところは全くなく、彼女の年齢でできることを精一杯やっているという印象を受けました。
彼女のキャラクターが本作を特別なものにしていると言っても過言ではありません。
主人公の反応
主人公の志賀直樹は、なぜ桜良が彼と時間を過ごそうとするのか理解できません。
慣れない場所に彼を連れ出す彼女に、迷惑そうな顔さえ見せます。
しかし彼の内面に桜良の占める割合は少しずつ大きくなっていきます。
人との関わりをできる限り断っていた彼にとっては異例のことでした。
間接的に桜良のおかげで、クラスメートに興味のなかった彼に友達ができたりもします。
きっと彼女なしには人と関わる喜びを知ることはできなかったでしょう。
桜良の人生の重要な時期を共有したことが彼に、誰かの特別な存在になることの尊さを初めて教えることになるからです。
桜良の様子とともに、彼の変化の様子も見どころの一つです。
彼女が彼を選んだ理由
桜良は彼と過ごそうとする理由を、
「家族は日常を取り繕うのに精一杯」
「親友はきっと彼女の余命が短いことを受け止められず半狂乱になる」
「だから冷静に受け止めてくれそうな君を選んだ」
と説明します。
残り時間が少ないからこそ、大切な人たちと過ごすべきだという彼の言葉にも耳を貸しません。
特別でも何でもない彼だからこそ、同情や悲嘆に暮れることなく接してくれるのだと言います。
あまりに淡白で、そんな理由で友達を選んで良いのかと主人公も戸惑い気味でした。
いつも明るく、悲しみや悩みを見せない彼女ですが、この言葉の背景にあった思いが終盤で明らかになります。
お勧めしたい理由
正直なところ、完成度にあまり期待を持っていない状態で観ました。
主人公たちと同世代じゃないと感動できない内容だろうな(≒年寄りを簡単に泣かせると思うなよ)と思っていました。
しかし結果として、期待値が低かったがためにかえって楽しめたと感じます。
満足度が予想を上回った理由としては、
- 演技の下手な人がいなかったこと
- そんなわけないだろと思うような不自然な展開がなかったこと
- 主人公が大人になってからの場面と、高校生時代の場面が伏線でスムーズに繋がっていたこと
- メッセージがわかりやすく説得力があったこと
が挙げられます。
少なくとも、安直な感動要素を並べただけのメロドラマにはなっていません。
前半の何気ない描写について、後半であの時のあれかーと思う場面が何度かあり、終わりまで飽きさせない構成になっています。
主人公とヒロインの2人を演じていた俳優さんを知らなかったので、先入観なく観られたこともプラスに働きました。
大胆などんでん返しや、現実離れした展開にぐいぐい引き込まれるようなパワーはないかもしれないけど、高校生たちの素朴な思いにじわじわ共感してしまいます。
誰でも心を揺さぶられる感動巨編というよりは、珠玉の秀作というのがしっくりくると感じました。
おわりに
人に勧められるまでは特に観ようとしていなかった作品なのですが、いざ観始めたらじわじわと物語に引き込まれてしまいました。
同じく若いヒロインが早すぎる死に向き合う作品としては『死ぬまでにしたい10のこと』があります。
このヒロインも、自分のしてみたかったことをする一方で、近しい特別な人たちには病気のことを明かしません。
優しい態度を今まで通り続けるだけです。
残された時間が少な過ぎると、思い出作りを提案したり、心の準備をしてもらうことより、積み重ねた日常を失わないことを優先したくなるものなのかもしれません。
ヒロインを見ながら、悔いなく生きることについて考えさせられる映画ですが、
きっとその為には主人公が何年もかかって一歩を踏み出したように、人との関わりを誠実に深めていくことが重要なのだと感じます。
青春の風景に浸れるだけでなく、そうしたメッセージも印象に残る一作でした。
素朴な青春映画が観たいときにお勧めの映画です。