本と映画と時々語学

書評、映画評、時々語学学習や時事ネタなど書き綴りたいと思います。

映画『死ぬまでにしたい10のこと』

23歳の女性が、突然余命2ヶ月であると宣告され、その後どのように生きたかを綴る映画のレビューです。

完全にフィクションです。

スペイン人のイザベル・コイシェが監督、ペドロ・アルモドバルが製作を担当しています。

舞台はスペインではなくカナダ・バンクーバーで、英語で撮影されています。

原題は“My Life Without Me”です。

 

 

あらすじ

大学で清掃員として働く23歳のアンは、2人の娘と、夫のドンと、トレーラーハウスで暮らす生活を送っている。

ある日、腹痛で倒れた後に運ばれた病院で検査を受けたところ、がんで余命2か月だと宣告される。

アンは病気や余命について誰にも言わずに残りの人生を生きることを決意し、死ぬまでにしたい10のことをリストにまとめた。

リストを1つ1つ実行していくうちに、その時がやってこようとしていた。

 

アンの人生

アンは17歳の時に初めてキスした男性ドンの子どもを妊娠し、 彼と結婚します。

長女ペニーのあとに、次女パッツィーも生まれ、現在は4人家族。

すぐそばに母の暮らす家がありますが、父は10年間刑務所に収監されており、アンは結婚前からずっと会っていません。

彼女は、高校卒業後に進学や就職で遠方に暮らしてみることもなく、

様々な人との恋愛や、友達と自分のお給料で沢山遊んでみることもなく、

10代の頃から結婚、出産、子育ての毎日を目まぐるしく過ごしてきました。

そのアンが、突然2か月後に人生が終わると宣告されます。

若すぎるほど若いのに、夫も子どももいる女性としての一面と、

視野を広げると言う経験があまりなかった若者としての一面と、

アンは両方を冷静に振り返ったのでしょう。

死ぬまでにしたい10のことのリストには、娘たちに誕生日のメッセージを贈ったり、長らく会っていない父親に会ったりと、家族に関係する項目もありますが、これまでしたことのないことに挑戦してみる項目も含まれていました。

 

アンの恋

アンはドンとしか恋をしたことがありません。

なので、別の男性と新しい恋をしてみることにします。

偶然コインランドリーで出会って言葉を交わしたリーがその相手になりました。

リーと親密になり、何回も会ってみる彼女ですが、日に日にお互い真剣に愛するようになります。

それじゃあ死が余計に辛くなってしまうじゃないかと思うのですが、彼女を愛してくれた人の記憶が1つ増えたことで、アンは少しでも安らかに行けたのでしょうか。

あからさまに涙を誘うような展開もなく、彼女がこの世を去る場面そのものが映されないので、観ている側は想像するしかありません。

 

娘たちのこと

2人の娘ペニーとパッツィーはまだ小さく、人の生死や、人生のあれこれについて語り合える年齢ではありません。

それを見越してアンは、彼女たちが18歳になるまでの毎年の誕生日メッセージを遺すことにします。

また、メッセージだけでなく新しい家族も見つけてあげようと決心します。

夫のドンはアンにも娘たちにも優しいけれど、稼ぎや実行力という点では不安が残るようです。

原題の"My Life Without Me"のとおり、自分がいなくなった後の(周りの人の)人生が問題なく続いていくよう、彼女は少しずつ準備をします。

 

静かに人生に向き合う

アンはすべてを秘密にしたままこの世を去ろうとしたため、彼女の悲しみや葛藤はあまり画面上に表現されず、こちらの想像に任されています。

行間を読もうとしないと、ついていけない作品でした。

しかし、これまでと変わらない生活をおくりながら、リストの項目を実行していった彼女を見る限り、彼女が死を受け入れてその準備に力を注いだことは分かります。

残された時間は短すぎて、別れを惜しむには足りない。

だったら、自分と家族のためにできることを淡々とやろう。

「1年間の仕事を見つけた」

「連れて行きたいところが沢山ある」

未来を思わせる言葉を聞くたびに、少しだけアンに沈黙の間が生まれます。

話の相手が思い描いている未来に、彼女は立ち会えないからです。

少しの沈黙だけでその葛藤を押し込める彼女の強さは、観ていてとても信じられない気持ちになります。

同時に、人生は明日も明後日も1年後も、問題なく続いていく前提ですべてを考えていることに気付かされる映画です。

私の人生に私がいられなくなった時、何をするべきなのか、

何がしたいのか、考えてしまう作品でした。

静かな余韻が残る映画でした。

 

おわりに

若くして亡くなられた方の辛さや、人生への名残惜しさは、同じく若くして取り残されるご家族のことも相まって遣り切れないものがあります。

感情の起伏をあまり出さず、淡々と準備を進めるアンを観ていると、共感しにくいと感じる方もいるかもしれません。

私自身、あまりに描写がさらりとし過ぎているのではないかと感じるときもありました。

しかし、だからこそ何回も何回も観終わった後に反芻してしまいました。

自分だったらどうするか、自分には何ができるか。

死の辛さと向き合うと言うより、人生と向き合う映画だと感じました。

 

    

 

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