映画『アンジェラの灰』
貧しかったころのアイルランドを舞台とした、少年の成長物語をご紹介します。
暗いヨーロッパ映画の代表格と言ってもいいけれど、余韻が残り続ける不思議な物語です。
あらすじ
アイルランド人の女性アンジェラは、新天地を求めてアメリカにやってきた。
彼女はニューヨークで夫マラキに出会って結婚し、5人の子供をもうける。
しかし極貧の生活が好転することは一向になく、一家はやむなくアイルランドに戻ることとなる。
働かずに酒を飲んでばかりのマラキは家族を支えることができず、彼の代わりにアンジェラがいつも子どもたちのために手を尽くしていた。
貧しい中でもたくましく成長した長男フランクは、進学の夢は叶わなかったものの、やがて渡米して新たな人生を歩むことを考え始める。
貧しい生活の中で
アンジェラの夫でフランクの父マラキは、 無職の酒飲みのため一家は収入がなく、いつも苦しい生活を強いられます。
希望が見えない中で、懸命に生き続けるアンジェラやフランクたちの姿が淡々と描写されていました。
慈善団体か教会かで生活に必要な品々をもらう場面で、アンジェラがベッドの前の持ち主について尋ねる場面があります。
前の持ち主が結核で亡くなっていたら怖いと思ったためですが、係の男性から「施しを受ける側の人間が何で選べると思っているんだ?」と冷たくあしらわれます。
また、アンジェラが生んだ小さな娘は、栄養状態がよくなかったために物心つく前に亡くなってしまったり、
フランクの学力を評価した先生に勧められて、教会に大学進学の相談をしても門前払いされたり、
家族の前に立ちはだかる現実はひたすら厳しく辛いものでした。
フランクの成長と青春
貧しく厳しい生活の中にも、フランクの思春期の成長や青春が描かれています。
フランクは初めてお酒を飲んだ日、深夜に酔って上機嫌で自宅に帰ってきたことを母から咎められます。
一家を支え切れなかった父マラキのようだったからです。
しかしフランクは、日ごろの貧しい生活でたまった鬱憤を母にぶつけてしまいます。
一家を家に置いてもらうために、彼女が家主の男と関係を持っていることを詰ったのでした。
翌日、後悔に打ちひしがれたフランクは教会で神父に懺悔します。
決して許されないことをしたと涙に暮れるフランクに、神父が言った言葉が印象的でした。
「自分を許しなさい 愛ある人間になれる」
個人的には、宗教をまったく意識しないで生活していますが、こうした救いのない状況で「赦す」人がいることや、救いを求められる場所があることが、カトリックが生き続けてきた背景なのかもしれないと感じました。
また、少年になったフランクが電報配達員として出会った少女と初恋をする描写もあります。
厳しい現実に晒されつつも、一人の人間としてフランクが逞しく成長していく様子が描かれています。
おわりに
貧しさは人間の暮らしや心の持ちように辛い障害をもたらしますが、その中でも母アンジェラを支えながらフランクたちの様子を通じて励まされる作品です。
おそらく、普段映画を観ない方からすれば「こんな暗くて重い話を見て一体何が面白いんだ!」と言いたくなることでしょう。笑
でも、直面した現実が厳しかったからこそ、フランクたちがそれを生き抜いたことに驚き、できることなら自分も強く生きられたらいいなと思えます。
本作の原作は同名の小説『アンジェラの灰』で、原作者のフランク・マコートのその後の人生や、弟と母の遺灰を運ぶ旅を描いた『アンジェラの祈り』も刊行されています。
原作もいつか読破してみたいです。
短いですが、今日はここまで。
- 作者: フランクマコート,Frank McCourt,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1998/07
- メディア: 単行本
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人を好きになることを教えてくれるファンタジー小説 日独英代表選
人を好きになることや恋が描かれているジュヴナイル向けファンタジー小説をご紹介します。
ドイツ、イギリス、日本発の渾身の一作を取り上げます。
クラバート
孤児のクラバートは、ある日不思議な夢に導かれて訪れた水車小屋で、親方に弟子入りします。
そこでは同じ年頃の徒弟11人が暮らしており、やがてカラスに姿を変えられる魔術を身に着けることになりました。
クラバートはある少女を好きになりますが、水車小屋の徒弟たちはなぜか1人ずつこの世を去っていきます。
ドイツを代表する児童文学作家オトフリート・プロイスラーの作品です。
呪われた運命に立ち向かうクラバートと、少女の絆が印象に残りました。
少女がクラバートに「あなたは恐れていた。だからわかったの」と言う場面があるのですが、誰かを好きになること=失いたくない存在ができること=恐れを知ることなんだ、と初めて教えてくれた作品でした。
終始暗さがあるファンタジーで、キャッチーなところは全くないのにぐいぐい引き込まれて読みふけった思い出があります。
映画も製作されており、原語ドイツ語のコピーはAlles auf dieser Welt hat seinen Preis.(この世のすべてには代償がある)で、実に内容にぴったりでした。
- 作者: オトフリート=プロイスラー,ヘルベルト=ホルツィング,中村浩三
- 出版社/メーカー: 偕成社
- 発売日: 1980/05
- メディア: 単行本
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魔法使いハウルと火の悪魔
荒れ地の魔女の呪いで老婆に姿を変えられた少女ソフィー。
居場所がなくなった彼女は魔法使いハウルの城に、押し掛け掃除婦として転がり込むことにします。
元の姿の時にはとても異性と会話なんてできなかったソフィーが、老婆の姿になって羞恥心を捨てたあと、美男ハウルと丁々発止のやり取りをこなし、喧嘩友達から恋人同士になった展開が、当時ローティーンだった自分には新鮮でした。
人を好きになることには、相手にときめくだけではなく、お洒落した姿を見てもらうだけではなく、恥ずかしがらずに共有できる内面を増やしていく過程もあるんだと教えられました。
ジブリで映画化された『ハウルの動く城』の原作ですが、正直原作のほうが何倍も魅力がある!と断言したいです。
著者のダイアナ・ウィン・ジョーンズはイギリスを代表する児童小説家で、他にも魅力あふれる作品を多数発表しています。
- 作者: ダイアナ・ウィンジョーンズ,佐竹美保,Diana Wynne Jones,西村醇子
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 1997/05/01
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アブダラと空飛ぶ絨毯
『魔法使いハウルと火の悪魔』の続編です。
偶然空飛ぶ絨毯を手に入れた若者アブダラは、恋をした姫君"夜咲花"と駆け落ちしようとしますが、魔神に攫われてしまいます。
ハウルとの子モーガンを攫われ、取り返そうと奮闘するソフィーの冒険も絡んで、一大活劇が繰り広げられます。
アブダラは素朴で一途な若者ですが、優しかった"夜咲花"が、女友達に要らんことを吹き込まれて急につれなくなったり、現実世界のあるあるネタが巧みに織り込まれていました。
前作に続き登場するソフィーは、息子モーガン奪還のために何でもする強くて素敵な母親になっています。
大好きなハウルと家族になったソフィーが、新たな家族のために全力で闘う姿が印象的でした。
- 作者: ダイアナ・ウィンジョーンズ,佐竹美保,Diana Wynne Jones,西村醇子
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 1997/08/01
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空色勾玉
最後に日本代表をご紹介します。
輝(かぐ)の勢力が治める古代の日本(葦原の中つ国)が舞台。
羽柴の里で暮らす少女沙耶は、祭りの夜に現れた楽団一行から、沙由良姫の生まれ変わりだと言われ、勾玉を託される。
その後、月代大王に見初められてまほろばの宮に召された沙耶は、不思議な美少年・稚羽矢と出会い、闇(くら)の一族としての戦いに身を投じていくことになる。
月代大王が沙耶の中に彼女自身ではなく沙由良姫を見ていたこと、外界を知らない稚羽矢と沙耶の不思議な絆など、冒険ファンタジーの中にも多彩な人間ドラマが描かれています。
続編の『白鳥異伝』でも、特別な力を持った少年・小俱那と、幼馴染の遠子とのつながりを中心に物語が展開します。
冒険の中で生まれる絆の描写が印象的な作品です。
おわりに
児童小説と言うと冒険や友情の要素が強いので、恋愛について書いてある作品は印象的だった覚えがあります。
だからこそ、描写の巧みな作品はいつまでも記憶に残っていました。
大人が読んでも楽しめる作品ばかりですので、ぜひ機会があればお読みいただければと思います。
ブログについて6
2017年に始めたブログが無事に2018年を迎えることができました。
ご覧いただいている皆様、ありがとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今年頑張りたいことを書いてみます。
文章力を高める
はてなブログでたくさんの方が読者登録をしているブログ、たまに拝見すると文章力が高くて自分との差に意気消沈します。
人によって方向性は違っても、思わず笑ってしまう文章、わかりやすくて頭に入ってきやすい文章、などなど、その方向性で完成されている印象です。
当ブログは、なるべく短い文で書く以外には特段強い個性はありません。
だけど、何らかの形で味を出していきたいなと思う今日この頃です。
フランス映画とイタリア映画の強化
映画好きを自称しつつ、レビューを書いた映画の分布が英語圏・ドイツ・スペイン・日本に固まっています。
映画の中で話されている言語を曲がりなりにも使える、というところに目が行ってしまいがちなためです。
しかし、名作映画を数多生み出したフランスとイタリアをこれ以上冷遇するわけには参りません。
現在、HuluとU-NEXTの2足のわらじですが、この守備範囲の中でこなせる限りのフランス映画、イタリア映画に触れていきたいです。
おわりに
ここのところ、購読しているブログのスターをつけにいけない日々が続いており、心苦しい限りです。
はてなブックマークでのコメントも、なぜかスマホ上から全然アップロードできない状態で、あまり返せておりません。。。
2018年は公私ともに忙しくなりそうなので、記事作成が思うようにできない日が続きそうですが、お付き合いいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
今週のお題「2018年の抱負」
映画『ヒトラー 最期の12日間』
第二次世界大戦下でドイツの敗戦間際、 ベルリンで繰り広げられていたヒトラー政権最後の一幕を描いた映画です。
冬の景色が印象的でした。
あらすじ
ソビエト連合軍が迫る敗戦間際のドイツ・ベルリンで、ナチス首脳たちは地下壕で過ごしていた。
連合軍の攻撃を止めるすべは最早残されておらず、 希望を捨てて飲んだくれる者たちもいれば、政権の滅亡と敗戦を前に緊迫する幹部たちもそこで暮らしていた。
ヒトラーは長年の愛人であったエヴァ・ブラウンとささやかな結婚式を挙げ、その後自殺することを決心した。
彼の忠臣で、ナチス政権の宣伝相であったゲッベルスも、結婚式の証人となった後に家族もろとも死を選ぶ。
ヒトラーの若い女性秘書トラウデルは、ナチス政権の最期の日々と、ベルリンの戦いを目撃することになる。
続きを読むドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』
権謀術数渦巻く世界のファンタジー巨編をご紹介します。
中世ヨーロッパのような舞台を背景に、数々の家が王座をめぐって争いを繰り広げる物語です。
- あらすじ
- 壮大な歴史絵巻
- 多様な登場人物
- 世界観の作り込みの徹底
- おわりに
あらすじ
王都を中心に広がる七王国では、野人の住む北の大地と接する北部を、スターク家当主のネッドが治めている。
そのスターク家居城のウィンターフェル城に、ある日王であるロバートとその家族が訪ねてくる。
ネッドに"王の手"となり、王都でロバート王の執務を助けるよう依頼するためだった。
ロバートへの愛が潰えた妃や、彼女と不義の仲である実弟ジェイミー、横暴極まりないその息子ジョフリーなど、王の妻一家であるラニスター家は欲望の塊だった。
ロバート王が信頼できるのは、かつてともに戦ったネッドだけだった。
波乱を予感しつつも、ネッドは"王の手"となることを表明する。
しかし、王都に向かったネッドのみならず、その娘たち、やがてはウィンターフェル城に残った妻や息子たちも、権力者たちによる簒奪と権謀術数の嵐に呑まれていく。
続きを読む映画『素晴らしき哉、人生!』
クリスマス映画の名作古典をご紹介します。
素朴だけどほろっと泣けてしまうヒューマンドラマです。
あらすじ
1945年のクリスマスの夜、一人の男が自殺を図ろうとしていた。
男の名前はジョージ・ベイリーといい、アメリカの小さな町ベッドフォード・フォールズで生まれ育った。
町を出て広い世界を旅し、大きな仕事をすることが、小さなころからのジョージの夢だった。
しかし、高校卒業と同時に父が急逝したことから、「地味な仕事」と思っていた家業(ベイリー住宅ローン社)を継がざるを得なくなる。
その後も彼は、家業を継ぐはずだった弟の婿入りや、彼を憎む町の大富豪ポッターの策略により、町を出て大成することも、新婚旅行することも叶わなかった。
温かい友人や家族に囲まれ、仕事を続けていた彼だったが、ある日仕事が決定的な窮地に陥ってしまう。
自暴自棄になり、命を絶とうと考えていた彼だったが、目の前に現れた天使によって自らの人生を振り返ることになる。
続きを読む映画『ホーム・アローン』
クリスマスに大人も子どもも楽しめるホームコメディをご紹介します。
一度見たら忘れられない設定と面白さです。
あらすじ
シカゴに住むマカリスター家は、パリに転勤した親戚を訪ねて、クリスマスは親族一同で団体旅行することに。
出かけるのは10人以上の子どもとその親たちという大所帯で、前夜にマカリスター家に一泊してから空港を目指すことにしていた。
しかし、当日朝に寝坊したドタバタで、末っ子のケビンは置いてけぼりにされてしまう。
旅先でパニックになる家族をよそに、一人暮らしを楽しむケビン。
ところが、バカンス中の家を狙う凶悪な空き巣が、マカリスター家を標的にしようとしていた。
ケビンが可愛い
ケビンを演じるマコーレー・カルキンの可愛らしさが存分に発揮されています。
小さな頃に見た時は、同じ子どもだからわからなかった。。。
親戚の子どもが多数登場しますが、彼らと比べて画面上での輝きが群を抜いています。
親戚が一堂に会するカオスの中、大人にまともに相手にしてもらえず、子ども同士でも長兄バズを筆頭にからかわれ、不満を溜め込むところも、一人暮らしを満喫するところも、表情1つ1つに魅力があります。
本作が世界的にヒットしてカルキンが大金持ちになり、家族もろとも運命が狂ってしまったというのも、(悲しいことですが)納得できてしまいました。
ケビンが賢い
パリに着いた家族は、近所の人にケビンの様子を見てもらおうとしますが、皆長期旅行に出かけていて連絡がつきません。
そんな中、旅行で家を空ける家庭を狙った空き巣がマカリスター家に忍び寄ります。
一人暮らしを楽しみつつも、大人に怒られたり泥棒に入られたりするのは当然怖いケビン。
しかし、基本的にはうじうじせず、その時できることを考えて行動しています。
空き巣の2人組がやってきても、とっさに電気をつけたり、人がたくさんいるように見せかけたり、機転を利かせて撃退。
いよいよ彼らが家の中に入ってこようとしても、玄関先を凍結させて侵入しづらくしたり、いたずら道具や日用品を総動員して攻撃します。
泥棒がややアホなことを差し引いても、賢さに唸りつつ笑わざるを得ません。
ケビンが成長する
パリへの出発前夜に怒られ、「家族なんていなくなってしまえ」と思っていたケビンは、家の中に自分一人なことに気づくと、「願いが叶った」と考えました。
しかし、当初は満喫していた一人暮らしも徐々に寂しくなり、家族に帰ってきてほしいと口にする素直さもあります。
一人で歯ブラシを買いに行ったり、スーパーで食料を買いだしたりする時のませた様子には笑ってしまいますが、
サンタクロースを訪ねたり、ミサ前の教会に一人で出かけるシーンには少ししんみりします。
「他のものは要らないから家族を返してってサンタに伝えといて」と言った場面では、商業サンタではなくとも持っているお菓子をあげたくなります。
兄から「恐ろしい犯罪者だ」と聞かされていたお向かいのおじいさんと、教会で一対一で話した時にも、「家族と話し合って仲直りする」と表明していて、おじいさんもその素直さに心を動かされた様子。
ケビンのませた様子は健在だけど、この場面は映画の中でとても重要です。
おじいさんとの対話が、本作のみならず自作にも続くテーマになっていると感じます。
家族を心から愛していても仲たがいしてしまうことはありますが、互いの大切さに気付くことができれば、また家族として繋がっていくことができるという、クリスマスにぴったりのメッセージです。
おわりに
あまりにも有名な本作ですが、あらためて観直してみて、世界中でヒットとなった理由がよくわかりました。
とりあえずケビンが可愛いこともありますが、子どもの成長や、家族の絆と言ったクリスマスにかみしめたいテーマが織り込まれています。
家族でも友達同士でも、楽しく観られるクリスマスのコメディです。