本と映画と時々語学

書評、映画評、時々語学学習や時事ネタなど書き綴りたいと思います。

映画『ホテル・ルワンダ』

大量虐殺が行われる中、一民間人として1200人以上の命を救ったホテルマンの物語です。

実在のルワンダ人ポール・ルセサバギナの体験を下敷きとしています。

解説多めです。

 

 

あらすじ

フツ族ツチ族の争いが、停戦により平和を迎えていたルワンダ

しかし、大統領が突如暗殺されたことから国内の雰囲気は一変し、緊張感が急速に高まった。

多数派フツ族プロパガンダに煽り立てられ、少数派ツチ族と穏健派フツ族を虐殺し始める。

ホテルの支配人ポール・ルセサバギナは自らはフツ族で、ツチ族の妻を持つ男性。

彼は、大統領暗殺直後から家族、そしてホテルにいたツチ族を守るため、自らの頭の回転だけを頼りにあらゆる手を尽くすことになる。

 

ルワンダ虐殺とは

1994年4月6日、ハビャリマナ大統領が暗殺されてから、ルワンダ愛国戦線が同国を制圧するまでの100日程度の間に起こった大規模なジェノサイドのことです。

ツチ族および穏健派フツ族がターゲットとなり、50万〜100万人(ルワンダ国民の10〜20%)が殺害されました。

ルワンダ虐殺 - Wikipedia

殺害に及んだのは過激派フツ族ですが、民兵や、ごく普通の人々が虐殺に及んだことがわかっています。

これには、ラジオを主としたメディア・プロパガンダが組織的に行われ、対立感情が意図的に煽り立てられたという背景があります。

実はドイツやベルギーの植民地支配を受ける前には、ツチ族フツ族の境目は曖昧なものでした。

劇中でも、外国人に訊かれた2人の女性が「私はフツ」「私はツチ」と答えるものの、傍から見ると全く違いがわからないと指摘されています。

外見的にはわからない違いですが、現地住民の対立があったほうが支配者側に都合がいいため、意図的に2者の対立と分断が演出されました。

その影響が残り続けた挙句に悲劇が起こってしまい、そして植民地支配者側だった西側諸国はこの事態を食い止めることができませんでした。

 

大切な人を守る

主人公のポール・ルセサバギナは、当初は家族以外の誰かを救おうとは特に考えていなかったように見えます。

しかし、目の前で何人もの人々が命を奪われようとする瞬間に立ち会ったときから、持っている知恵と材料をすべて駆使して、殺戮者と対峙します。

民兵のリーダーを買収したり、

外資系のホテルなので本国のオーナーとの電話で危機感を伝えて助力を得たり、

とにかくその場で発揮できる頭の回転を総動員していて、その聡明さと、命が危うい人々を助けたいという思いに驚愕します。

ホテルマンとしての仕事の中、交渉や対人スキルを身に着けたのだと思いますが、一歩間違えば殺されるかもしれない場面で、こうした行動に出られる人が一体どれほどいるのか…

ポールの能力や信念に驚かされるのは勿論なのですが、普通の人々が殺人者と化し、次々に罪のない人が死んでいく展開の中で、彼の行動は人間に対する最後の希望を持たせてくれるように感じました。

 

世界の無関心

ホテルには外国人記者も宿泊していましたが、虐殺が激化するにつれ撤退します。

彼らの映像が発信されれば「世界が助けてくれる」と期待するポールに、記者たちは声を落とします。

「これを見ても、人々は『怖いね』と言っただけでまたディナーを続けるだけです」

国連軍司令官も厳しい現実を指摘していました。

「彼らにとって、君らは『ニガー』でさえない」

同じアフリカ系でも、アメリカ人に起こったことであれば対応が執られるけれど、アフリカの片隅では誰も注目しない、ということでしょう。

ラジオで放送される西側国家の高官のインタビューも同様。

「ジェノサイドは止めなければならないのでは?」「ルワンダではジェノサイドが起こっているのでは?」と問われた高官は、「紛争ではありますがジェノサイドとまで言えるかどうかは…」等と苦しい言い逃れに終始します。

あまりに官僚的な対応に失望した人が、ラジオの電源を切る場面がやり切れませんでした。

 

無力な国連軍

ルワンダ虐殺が勃発した時、国内には国連平和維持部隊が駐留していました。

しかし、国連軍はルワンダ人を守れなかったことも、本作で描写されています。 

当時の司令官は、国内の民兵組織が虐殺を企図して武装しつつあるとの情報を掴んでいながらも、権限がないために武器を押収できませんでした。

また、傷つけられて初めて自衛のために反撃してよいというルールのため、民兵たちが目の前に迫ってきても自分たちからは発砲できません。

積極的な応戦ができないなか、皆殺しにしようと向かってくる相手から人を守れるわけもなく、国連軍の限界が描かれ、そしてついに撤退を命じられます。

国連軍の兵士たちはルワンダ人ではないため、彼らの母国からは「他国の紛争のために我が国の若者が死ぬなんて」との批判を免れないことが理由の一つです。

誰も守ってくれないという現実が突き付けられる中、ポールとその家族、ホテルに避難した人々を取り巻く状況はますます悪化していきます。

 

おわりに

この映画は、「ルワンダ虐殺では何が起こったのか」という振り返りだけではなく、「世界はなぜルワンダを救えなかったのか」という反省も促しています。

 人間がどれだけ残酷になれるのか、その殺意の前で官僚的対応しかできない組織の無力さ、無関心の残酷さ、あらゆる洞察が詰め込まれています。

観終わった後に「いったいこんな状況で何かできる人間がどれだけいるだろう」と思ってしまいますが、

そんな中で、ポールが奔走し家族や人々を守ろうとする姿を思い出すと、辛くも希望を感じられました。

ルワンダ虐殺について知るための最初の映画として、相応しい作品だと思います。

 

   

 

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