本と映画と時々語学

書評、映画評、時々語学学習や時事ネタなど書き綴りたいと思います。

映画『抱擁のかけら』

ペドロ・アルモドバル監督と女優ペネロペ・クルスの黄金タッグによる映画のレビューです。

原題は"Los Abrazos Rotos”で、直訳は『壊れた抱擁』ですが、後述の理由から邦題の秀逸さに驚かざるを得ませんでした。

ミステリアスな大人のヒューマンドラマです。

ラストまでネタバレします。

 

 

あらすじ

盲目の元映画監督マテオは、ある日大富豪のエルネストが死去したとのニュースを耳にする。

ほぼ同時に、彼の元に映画のシナリオを持ち込んできた若い男ライ・Xがいたが、マテオは協力を断る。

また、マテオの公私に渡るパートナーであるジュディットは、ライ・Xがエルネストの息子であると知り彼を強く恐れ始める。

ジュディットの息子ディエゴは、2人のあまりの拒絶反応に驚くが、母は頑としてその理由を教えてくれない。

しかし、ジュディットがアメリカ出張に出かけている間、マテオは少しずつエルネストとの間にあった出来事、彼が視力を失った理由を話し始める。

マテオと、エルネスト、そして美しい女優レナの、激しい愛憎劇が淡々と語られる。

 

ミステリアスな展開

アルモドバル監督の他作品と同様『抱擁のかけら』も、序盤はストーリーがどこへ向かうか見当がつきません。

エルネストの息子ライ・Xをなぜジュディットが強く恐れるのか、

ライ・Xとのやりとりはどこに決着するのか、

エルネストとマテオの間には何があったのか、

エルネストの秘書として登場するレナはどのように関わってくるのか。

気になる要素が多く出てくるので、最後まで飽きることなく物語を追っていけます。

 

満たされない愛憎

本作では、何方向にも愛憎劇が展開されています。

レナは富豪エルネストの秘書として働いていましたが、重病の父が病院を追い出された際エルネストの援助を受けます。

その後は彼の愛人となりますが、昔の夢だった女優業に再挑戦し始めます。

彼女はオーディションに押し掛け、主人公マテオが監督する映画の主役に内定。

マテオはレナがエルネストの愛人であることを知っていながらも、レナに激しく惹かれます。

エルネストは撮影中のレナを息子に監視させ、彼女を束縛するものの、レナの心は既に止めようがありません。

同時に、マテオがレナに夢中であることに気づいたジュディットは複雑な思いを抱きます。

ライ・Xは父エルネストに言われるままレナを監視していますが、同性愛者であること等から長年父親に疎まれており、屈折した思いがありました。

大人の恋や愛の満たされなさが交錯し、誰の視点から観ても見ごたえのあるドラマとなっています。

 

ラストシーンと邦題の秀逸さ

エルネストの執拗な監視と束縛を逃れ、クランクアップ後にマテオとレナは2人だけで旅行に出かけました。

数週間を過ごした旅先で、マテオは撮影完了した映画がめちゃくちゃな編集で勝手に世に出され、酷評を受けたことを知ります。

明らかに、2人の逃亡劇に激怒したエルネストの差し金でした。

そしてある夜、マテオが運転席に、レナが助手席に乗った車は事故に遭い、レナは帰らぬ人となります。

マテオも映像に携わる職業人でありながら、視力を失ったのでした。

しかし、ジュディットがエルネストから隠したままだったフィルムの中に、ライ・Xが撮影していた事故当時の映像が発見されます。

エルネストが差し向けた車が突撃してくる直前、先の運命を知らずにキスしているマテオとレナの姿が映っていました。

ディエゴは何が映っているかをマテオに伝えながら呟きます。

「レナが死んだことは悲劇だったけれど、彼女は最期にあなたとの口づけを記憶しながら亡くなったんだ」

マテオは言葉を失い、今は見えない画面に懸命に触れます。

彼とレナとの抱擁は永遠に引き裂かれたかもしれません。

原題の「壊れた抱擁」は、続けることが叶わなかった愛を意味するのでしょう。

しかし、壊れた抱擁のかけらが14年の時を経て、ラストシーンで発見されたことから、マテオはこれから本当の意味で立ち直り、再生していくことが予感できました。

観終わって初めて意味が分かるという点で、秀逸な邦題だと思います。

 

ペネロペ・クルスの美しさ

最初から最後まで、ペネロペ・クルスの官能的な美しさに目が離せません。

顔が整っているとか、スタイルが良いとか、外見が恵まれているということだけでなく、妖艶な魅力が抑えきれないくらい滲み出ています。

画面に登場して動いて話している時はもちろん、写真が出てくる時だけでも視線を釘づけにするほどの存在感がありました。

マテオから「昔の写真がその引き出しにあるから見てみてくれ」と言われ、ディエゴが見つけた彼女のポートレート写真ははっとするような美しさでした。

他のレビューで何人もの人が同じことを指摘しているあたり、客観的に観ても印象に残る存在感なのでしょう。

スペイン語学習者の人からよく「ハリウッド映画に出ている時の彼女は、エロいラテン系田舎娘以上の存在にならないけど、スペイン映画では魅力が如何なく発揮されている」と聞きますが、本当にその通りです。

外国映画での日本人と言えばゲイシャかサムライになってしまうのと同様、ラテン美女はとりあえず淫らなら何でもいい、とされてしまうんでしょうか。

知性や豊かな感情を持ち、自身と他者の愛憎に翻弄される女性、周囲に波風を立ててしまうのも納得の美を具えた女性として、彼女以上の適役はいないと言えます。

 

 

おわりに

マテオとレナに焦点を絞って書いてみましたが、公私ともにマテオを支えるジュディットが全編にわたり重要な人物となっています。

彼女がエルネストを心底恐れていた理由も、終盤明らかになります。

登場人物それぞれが深い葛藤や、複雑な感情を抱えている、とにかく濃い映画でした。

アルモドバル作品はそれぞれに強烈な存在感があって、どれも他と比較しようのない存在感があるように思います。

スペイン映画ファン、アルモドバル監督のファンなら見逃せない一作です。

 

 

 

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