本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

ドラマ『ザ・クラウン』

Netflix制作のドラマ、『ザ・クラウン』をシーズン1からシーズン3までコンプリートしたのでご紹介します。

最序盤では「同じ英国ドラマの『ダウントン・アビー』の方が面白かったかな?」と思っていましたが、だんだんと視聴ペースが上がっていきました笑

ダウントン・アビー』とは違った良さがあり、こちらも大好きになりました。

総評と、各シーズンへのコメントに分けてご紹介します。

 

 

あらすじ

1947年・英国。

エドワード8世が1936年に王位を放棄して以来、英国王は彼の弟・ジョージ6世務めている。

将来、彼の王位を継承することとなる長女エリザベスは、この年、周囲の反対を押し切ってフィリップ・マウントバッテンと結婚。

チャールズとアンの二人の子どもにも恵まれ、幸せな日々を送っていた。

しかし、体調の思わしくなかった父王ジョージ6世が逝去したことにより、エリザベスは弱冠25歳にして英国の王位を継ぎ、女王に即位することになる。

 

総評

Netflixの凄まじい資金力を感じる映像美に序盤から圧倒されます。

ダウントン・アビー』は後期になるにつれ(人気が固定化して予算が付くようになったのか)ロケ撮影が増えていく実感があったけど、こちらは最初からフルスロットルでした。

ロングショット、大道具、小道具、衣装、どこを切り取っても隙がなく美しいですし、王室の重厚さ、戦後世界との程よい遠さを感じさせます。

毎話取り上げられるトピックは、王室の歴史、スキャンダル、英国の政治史、事件など様々ですが、どのテーマにおいても凄まじい説得力とディティール描写力が光ります。

出演者インタビューで誰かが「『ザ・クラウン』のリサーチチームに何か一つ質問すると、100ページくらいのレポートが返ってくる」と言っていました。

物語世界を構築するための知力、リソース、資金すべてを惜しみなく注いでいるのが窺えます。

人物の描き方は、大抵どの人物にも良い面と悪い面が配置されてる様子です(エリザベス2世とジョージは別で、基本良いサイドが描かれています)。

架空の人物を魅力的に描くのは簡単、実在の人物を魅力的に仕立て上げるのもままあることだけど、本作は両面を持ったリアリティある人間像を映し撮るという、難易度の高いことをやり切っていました。

リリベット(エリザベスの愛称)もフィリップ王配も存命中なのに、ということでさらに凄いです。

 

シーズン1

父のジョージ6世と死別し、即位するエリザベスが君主の仕事やフィリップとの夫婦関係に奮闘する様子が描かれます。

戦後の余韻を抜け出しつつも、チャーチル首相のもと激動の時代を経験し続ける英国の描写も印象深いです。

戸惑いながらも「立場を生きる」という使命に全力で応えようとするリリベットに、心から寄り添う人間がいないように見えて苦しいけど、その葛藤にとても引き込まれました。

リリベットの性格を一言で言うと、長女の権化でしょうか。

定められた役割に従って生きること、それを全うすることに激しい反発はないけど、だからこそ、素直に受け入れないどころか、積極的にあさっての方向へ突き抜けようとする人々(フィリップ、マーガレット)が理解できません。

そして、真摯に役目を果たそうとすればするほど葛藤が深くなります。

フィリップやマーガレットといった、より人間的な感情を優先したい人々と折り合いがつかなくなるためです。

エリザベスはフィリップやマーガレットのことも否定したいわけではなく、妻として姉として寄り添いたいと考えています。

ただ、個人としてそう思っていても、周囲や世論はそれを許しません。

社会人としては、特に根回しせずフィリップやマーガレットに「いいよ!」と回答→秘書や首相から全力で止められる→ごめんやっぱり無理、という流れが多いことに突っ込みを入れたくはなるんですけどね。

家族から頼まれたことに、「確認して回答します」とは言いにくいのかなあ。

リリベットに苛立ちをぶつけるフィリップやマーガレットに、「彼女が負ってるものは何だと思ってるんや王冠やぞ」とも思いますが、20代の若い時にはなかなか納得しがたいこともありますね。

しかし、エリザベスに張り合うマーガレットには、人と比べてる限り本当の幸せは掴めないよ。。。と小一時間語りたくなります。

それを忘れさせてくれるタウンゼントとの仲が思うようにいかないのはかわいそうだし、一人暮らしも簡単にできないので近くにいたら比べてしまうと思いますが。

一方、『英国王のスピーチ』で献身的な妻として描かれたエリザベス王太后、夫を喪ってから本当に辛そうで心が痛みます。

しかし、娘たちへの関わり方は何だか遠さを感じます。

マーガレットが深層心理でライバル視する姉の言うことをすんなり聞くわけないのに、もっと間に入ってあげてけれ…と思ってしまう。

脚本的には主人公の動きを掘り下げるべきだし、マーガレットとの軋轢を顕著にするために仕方ないとは思いますが(間に王太后が入ったら衝突の要素が薄まるため)。

それに比べて、特にシーズン序盤で存在感のあったメアリー王太后の迫力や、助言の重みは素晴らしかった。

息子であるジョージ6世の訃報を受けた後、孫娘エリザベスを喪服で跪いて迎える場面は鬼気迫り過ぎて鳥肌が立ちました。

シーズン1の名言を挙げるとしたら、迷いなく彼女の”Monarchy is a calling from the God.(君主制は神が与えた試練です)”を推したいと思います。

エリザベスを支える人間として、もう一人忘れちゃいけないのはウィンストン・チャーチル首相でしょう。

戦時下に英国を勝利に導いた首相は、かなりの高齢になっており、「後進に道を譲るべき」とも囁かれる中、自分こそがリーダーたるべきと信じてポストに留まり続けます。

若いからとエリザベスを支えようとしたり、時には侮って鼻を明かされたりと、緊張感あるやりとりが続きます。

一方で、ロンドン・スモッグ事件など、英国の歴史上の重大事件も取り上げられ、その中でチャーチルやエリザベスがどう葛藤したかも見ごたえがありました。

毎話、「エリザベスに比べたら自分はなんて自由な人間なんだ…」と思わされる展開があります。

その中でも毎回答えを見つけて進む姿に、「私なんかはこんなに自由なんだから、やろうと思えば何だってできる」と勇気をもらえました。

 

シーズン2

1956年のスエズ動乱から、1964年のエドワード王子誕生まで、イーデン内閣、マクミラン内閣下の英国を描きます。

伯父エドワードがドクズだった…

フィリップが女王の夫としてだけでなく未来の国王の父親としてもワークしてない…

首相の引き際が全員お粗末…

と第一シーズンにも増して孤高のヒロインぶりが積み増しされた一方、展開はますます重厚になります。

三十代という人生の山場を、イギリスのみならず世界の歴史を絡めて描いていて、リリベットの強さがさらに際立ちました。

マーガレットへの接し方を見て、やはりエリザベス王太后は(夫のことは深く愛してたと思うけど)娘たちのことはそれほどでもなかったのかなと思えてしまいます……

そしてやはりマーガレットは、「姉を負かすこと」「姉より注目されること」ばかり考えていて、自分にとっての幸せを考える境地に辿り着けたのかどうか。

本シーズンで辛い幼少期が明かされたフィリップは、終盤少しだけ挽回します。

しかし可哀そうなのは幼い頃のチャールズです。

体育会系気質が合わないのに、父フィリップの意志でバキバキに筋肉質なゴールドストウン校にぶちこまれます。

遠くスコットランドにあるというだけでも心細いのに、毎日気の合わない同級生と寄宿舎で過ごすのは本当に辛そうでした。

しかも、フィリップも寄宿生活が最初から楽しかったわけではなく、決定的な悲劇を経て、家族から突き放され、学校をよりどころとするしかなかった様子。

なのに息子にも辛い生活を強いようとするのは、自分の中の「今でも許せない子どもの頃の自分」を攻撃しているようにしか見えません。

標的にされるチャールズはたまったもんじゃないよ…

フィリップ王配は存命中なのに、ここまで描かれていいんでしょうか。

 

シーズン3

1964年から1977年まで、冷戦の緊張の高まりや、成長した王太子チャールズとの関係が描かれます。

内閣はヒース政権を経た2回のウィルソン内閣。

本シーズンはイギリスの歴史より家族、特にチャールズに重きを置いて描かれていました。

30代だったリリベットが急にアラ還くらいの外見になり(設定はアラフォーのはず)、最初は慣れるのに時間がかかりました。

だけど『女王陛下のお気に入り』でも女王陛下を演じたオリヴィア・コールマンの安定感はやはり盤石です。

表情があまり変わらないところや、さりげなく一般人に見える瞬間は前シーズンから引き継がれていました。

マーガレットには今まであまり共感できなかったのですが、誕生祝いのシーンでは初めて少し同情しました。

誰も味方になってくれないの?っていう辛さが遂にストレートに表現された瞬間だったので。

というか、マーガレットの件で学んだことを、英国王室はなぜチャールズの代で活かせなかったのでしょうか。

それが後々の悲劇につながってしまうとは、予測できていなかったのでしょうが。

とうとうカミラ・シャンドも登場し、次シーズンではいよいよダイアナ妃が描かれるのか?

鉄の女サッチャーとリリベットはどんな二人になるのか?と早くも待ち切れません。

 

おわりに

とにかく重厚、かつ現実にリンクしている面白さもあるドラマです。

英国戦後史の勉強にもなりますし、英国王室ファンとしては散りばめられる王室豆知識もとにかく面白い。笑

制作はシーズン6まで予定されているそうで、現在は1977年までが描かれたところですが、一体何年までが描かれるんでしょうか。

サッチャー政権やダイアナ妃とチャールズの結婚はシーズン4で描かれそうですが、現ジョンソン政権下のBrexitや、何かと話題のメーガン妃も登場するのか、想像が膨らみます。

英国の歴史や王室に興味が少しでもある方には、ぜひおすすめしたいドラマです。