ドラマ『やまとなでしこ』
愛かお金か、というテーマに挑んだラブコメのご紹介です。
主人公の強烈なキャラクターと、一貫したテーマでたくさんの人が夢中になった本作。
再放送にあわせ、ネタバレありのレビューを綴ってみます。
あらすじ
北陸の漁師の家に生まれ、極貧の子ども時代を送った神野桜子。
何としても金持ちになりたい彼女は、高校卒業と同時に父の貯金を持ち出して上京し、フライトアテンダントになる。
そして、連日連夜の合コンの末、大病院の御曹司・東十条司と晴れて婚約する。
しかし、入籍の瞬間までさらなる大金持ちとの結婚のチャンスを諦めたくない桜子は、ある合コンで馬主バッジを付けた中原欧介と出会う。
真の富豪しか手にできない馬主バッジを持つ欧介に、桜子はすぐに夢中になり、なぜかお金のかからない素朴なデートで特別な時間を過ごす。
欧介が金持ちでもエリートでもないことを、この時桜子はまだ知らなかった。
桜子の強烈なキャラクター
桜子がなぜ玉の輿にこだわるのか?
その理由は第1話のトップシーンで強烈に説明されます。
「貧乏は嫌い」の一言とともに映し出される寒村の風景、
父親がばら撒く一円玉を我先にとかき集め奪い合う子どもたち、
もうこれだけで更なるセリフは不要なインパクトです。笑
高学歴だったり、仕事につながりそうな才能があれば別ですが、そんな特別な才能もなく、身一つでお金持ちになる方法を探すとしたら、もう玉の輿しかない。
都会に出て美容手段を駆使し、合コンマーケットで有利なCAになり、女性の価値が最もピークを迎える(と彼女が分析する)27歳で結婚する戦略を練る。
正直、「人のお金で幸せになりたい」「お金持ちと結婚したい」という信念は、令和時代にはやや時代遅れにも感じられます。
女性が自分で稼いでお金持ちになることは、今や非現実的じゃなくなってきてますし。
しかし、上述の動機が本当に強烈で、かつ努力が本当に涙ぐましいので、観ている内に応援したくなってきてしまいました。笑
加えて、お金が大事なのは事実です。
お金で手に入る自由も色々あるわけですから。
個人的には、買い物依存症になりかけた経験から、幸せになるにはお金が要る→欲しい物が買える力が欲しい!と思う気持ちはよーくわかります(自分が稼いだお金しか使ってません、念のため…)。
加えて桜子は、生まれた時に決まってしまう身長や外見より、生まれた後の努力で手にできるお金の方が、男性を正当に評価できると言って憚りません。
明快な信念と貪欲さには、やはりわかりやすく興味を惹きつけられます。
序盤で欧介から「お金より、心が大事ですから」と言われて切り返す時の長ゼリフは、強烈を通り越して痛快でもあります。
お金より心が大事?
欧助さんはお金持ちだからそんなことが言えるんです。
子どもの頃から一度も辛い思いなんてしたことないんじゃないですか?
心だなんて、そんなきれいごと言ってたら、一生貧乏から抜け出せない。
貧乏人を幸せにしてくれるのはお金……お金だけ。
私、貧乏なんて大っ嫌い。
幸せを探さない欧介
対する欧介は、物質的な豊かさにあまり興味がありません。
亡き父が遺してくれた魚屋を経営しながらも、数学に夢中になれる日が再びやってくることをぼんやり望んでいます。
忘れられない昔の恋人にそっくりな桜子を好きになりますが、「金持ちしか好きじゃない」桜子といるために身分を偽ってしまいます。
当然バレて嫌われるのですが、その後も何度も偶然の再会をし続けます(このへんはご都合主義ですがまあ仕方ない、普通にしてたら接点ないので)。
優しさと誠実さは誰もが認める欧介ですが、打たれ弱いと言うか、貪欲さに欠けるというか、一度手に届かないと思ったものはすぐ諦めてしまう傾向があります。
数学者になる夢も然り、元カノも然り、桜子も然り。
でも親友・佐久間の妻で学生時代の友人である真理子から、そんな性格に苦言を呈されます。
欧助くん優しいから。(略)
自分からは何も起こさないし、傷つきもしない。
それって、優しい殻に閉じこもって、自分を守ってるだけなんじゃないかな?
欧助くんは、まだ何にもやってないじゃない。
優しすぎて幸せを見送ってしまう欧介は、自分の心に嘘をつかず欲しいものを手に入れることができるのか?ということも本作のテーマです。
愛とお金
欧介のことが気になりつつも、東十条さんとの結婚準備は粛々と進められます。
お父さんに身分を偽らせ、ドレス合わせにアメリカまで行き、新婚旅行の手配を済ませ、もちろん費用は全部東十条さん持ちです。
夢にまで見たセレブ妻の生活が徐々に始まっているのに、桜子はなぜか浮かない顔。
結婚式というピークに向けて、どんどん桜子の葛藤が高まっていきます。
多分このころ、「お金で物を買う幸せは、物を手に入れた瞬間に過ぎ去ってしまうこと」「人に幸せにしてもらうなんて本当はできないこと」に、桜子は徐々に気付いていたんじゃないかと思います。
思い描いていた幸せってこんなものなの?という違和感(絶対表に出しませんが)、そして二度と欧介に会えなくなるかもしれないと思った時、桜子の心に変化が訪れます。
「お金より大切なものなんてない」という桜子の姿勢を突き抜けて描くことで、愛に揺れる葛藤をより効果的に対比していました。
お金より大切なものがあると人に言われても、まったくピンときていなかった桜子。
でも、それが嘘ならどうして、お金ですべてが手に入りかけている幸せに浸りきれず、欧介のことが気になってしまうのでしょうか。
病床の欧介の母親・富士子や、亡くなった自分の母に言われた言葉が桜子の頭から離れません。
富士子:欧介、貧乏だけど、きっとあなたを幸せにできるわ。
お金じゃ買えない、たった一つのもので。
桜子:ひとつ、お伺いしたいんですけど、
お金には代えられない大切なものがあるとしたら、
そのたった一つのものって何ですか?
富士子:それは、欧介と一緒にいたらわかるでしょう?
お金は大切なものよ。
お金があれば、辛いことや悲しいことも、忘れられるかもね。
でもね、桜子。
お金より、もっと大切なものがあるの。
世界中のどこにも売ってない大切なもの。
きっとね、みんな生まれてくる前から、それを探してるの。
お金じゃ買えない、たった一つのものよ。
幸せ探しと大切なもの
二十代のうちに懸命に幸せ探しすることは、その後の人生を変えてくれる、と桜子を見ながらしみじみ思いました。
自分にとって本当に大切なものを探すことの大事さを、余すところなく伝えてくれるドラマです。
でも、結婚とか婚約ともなれば、人生で何度もしたことがある人ってそうそういないし、ほとんど誰もが初めて臨むわけで、そうしたら必ずしも悔いのない判断ができるとは限りません。
決断してみてから、ああやっぱり違った!と思う人もいるはず。
失って初めて気づくとか、間違ってみて初めて気づくことが、色々あるというのも、すごく温かい目線で描いていた気がします。
特に佐久間先生の桜子に対するセリフが象徴的でした。
あなたの価値観は、いつもストレートで分かりやすい。
でも普通はね、何が自分にとって一番大切なのか気付くことの方が難しい。
それをなくす前に気付くことが出来ればラッキーだ。
でも、多くの人はなくしてから気付くもんでしょ?
僕は真理子を失いそうになったとき、やっと分かった。
彼女がどんなに大切か、だから土下座までして手に入れたんですよ。
身近にあるときは分からない、失ったときに初めてその大切さに気付く。
しかも、それがその人にとって一番大切なものだったりするから、始末に負えないんですよ。
欧介さんも、探し切れなかった幸せを三十代で巻き返せてお疲れさまでした!
まずは自分が何を求めているのか理解しないと、幸せ探しも始められませんが、若い時って意外とそれすらわからないままがむしゃらに生きてたりします。
そして、「チャンスがないな」「出会いがないな」と思ってるうちに歳を取ってしまったりする。
でも、自分の幸せは自分にしかわからないのだから、自分自身で叶えるしかない。
それをわかりやすいテーマで説明してくれた名作ドラマでした。
おわりに
本作の脚本家は、『ハケンの品格』も書いた中薗ミホさんでした。
しかも『ドクターX』もこの人、紛うことなきヒットメーカーですね。
もう一人、脚本を担当していた相沢友子さんは、数年後に本作のキャストが再結集したドラマ『恋ノチカラ』も執筆されています。
こちらもかなり面白かったのでいつかレビューを書きたいと思います。
ひとまず、愛とお金について考えたいときは、『やまとなでしこ』をご覧になることをおすすめします。