映画『ビフォア・サンライズ』
夏休みの1日の恋を描いた映画のレビューです。
学生時代に海外旅行に行ったことがある人は、思わず見入ってしまう作品ではないでしょうか。
あらすじ
ウィーンに向かう特急で、偶然近くの席に座ったフランス人の学生セリーヌと、アメリカ人の学生ジェシー。
意気投合した2人は、翌日ジェシーの飛行機の時間が来るまで、ウィーンで一緒に過ごすことにする。
街を歩き回るうちに、会ったばかりの2人の仲は急速に深まって行く。
偶然の出会い
この恋愛を特別にしている要素の1つのは、セリーヌとジェシーの2人が純然たる偶然で出会ったことです。
フランス人でソルボンヌ大学に通うセリーヌと、アメリカ人でテキサス在住のジェシーは、普段全く違う場所で生活しています。
お互いに長旅をしている最中、同じ列車に乗ったものの当初は近くもない席でした。
しかし、隣でドイツ人夫婦の口喧嘩が勃発したためセリーヌは離れた席に避難。
偶然隣にいたのがジェシーでした。
偶然に偶然が重なって初めて話した相手が、自分と気の合う人だったことから、2人は特別なものを感じます。
何気ない時間の共有
レコードショップに立ち寄ったり、
話しながら食事をしたり、
占い師に自分がどんな人間か見てもらったり、
ビリヤードをしたり、
一人旅ではできないことを共有していきます。
元々、電車の中で出会った時から相通ずるものを感じていた2人ですが、
小さな体験の共有を通して更に意気投合。
1日程度という短い時間ですが、思い出を少しずつ積み重ねていきます。
何気ない場面の中で、セリーヌとジェシーの気持ちが徐々に深まっていく様子が丁寧に描かれており、
一緒にウィーンで過ごしているかのように自然に感情移入できました。
色々なことを一緒に経験しながら、少しずつ相手のことを好きになっていく、そのこと自体は普通の恋愛と同じです。
しかし、この映画ではわずかな時間しか一緒に過ごせない2人の間で、その過程が強く凝縮されています。
この凝縮された恋の過程が、1つ1つの思い出を忘れられないものにしています。
言葉で語り尽くす
この映画の特徴として、とにかく台詞が多いことが挙げられます。
2人は一緒にいられる短い時間を惜しむかのように、自分自身を言葉で語り尽くし、また相手のことを知るために相手から言葉を引き出します。
色々なことを一緒にしてみるだけではなく、言葉でお互いを知り、理解を深めていきます。
セリーヌは社会問題に関心のある知的な学生、
ジェシーは感受性が強く優しい繊細な学生として、
それぞれのキャラクターもいきいきと丁寧に描写されています。
何となく雰囲気だけで距離を縮めるのではなく、
知性や教養を持った人間同士としてわかり合っていく、
深みのある物語となっているのも魅力の一つです。
美しいウィーンの街並み
2人が歩き回る町は、北米やアジアの大都市ほど賑やかでもなく、しかし何かが起こるには充分な出会いや物事のある都市ウィーンです。
ロマンチックさを演出するにも充分すぎるほどの情緒があります。
ヨーロッパの街でウィーンより好きな場所はたくさんありますが、この映画の舞台としては、街の規模感や雰囲気からベストな選択だったと思います。
おわりに
旅先で偶然出会った2人がウィーンで短いひとときを一緒に過ごすうちに恋に落ちる、
というあらすじを聞いたときは、なんて「いかにも」な恋愛映画なんだろうと思っていました。笑
実際に観てみると、予想よりはるかに丁寧にセリーヌとジェシーの人物が描かれており、全く不自然さや強引さを感じることなく、物語のなかに入っていけました。
夏の素敵な恋愛物語を観たい、というかたにおすすめの映画です。