映画『奇人たちの晩餐会』
フランス発のシュールなコメディ映画をご紹介します。
「パリジャンは嫌な奴」というステレオタイプを全力で体現したかのような人物が主人公です。
あらすじ
パリの出版社社長ピエールは、友人数人と、奇人変人を見つけては晩餐会に招き、その変わり者ぶりを眺めて悦に入る趣味があった。
彼は、ある日マッチ棒で模型を作ることに傾倒している税務局員フランソワ・ピニョンを晩餐会に招待する。
しかし、会の直前に腰を痛めたうえ、喧嘩をした妻クリスティーヌに家出されてしまった。
キャンセルの連絡が間に合わず、ピエール宅まで来てしまったピニョン。
ピエールは彼に頼んで医師を呼んでもらおうとするが、それはこの夜を通して続く喜劇の始まりであった。
シュールなドタバタ喜劇
主人公のピエールは非常に嫌な奴です。
奇妙な人を見つけて笑いものにする晩餐会をわざわざ開く意地の悪さの持ち主です。
妻のクリスティーヌもそんなところが嫌いだと言い、出て行ってしまいます。
そんな彼がピニョンの巻き起こすドタバタ喜劇で踏んだり蹴ったりの災難に見舞われるのが本作のメインストリームです。
戻って来てくれた妻が追い返されるわ、愛人と決裂するわ、昔の恋敵に情けない姿を見られるわ、散々な目に遭います。
最初はピエールを意地悪な奴だなと思っていても、あまりの受難ぶりに途中から憐みすら覚えます。
しかし、すごく良い人がトラブルに巻き込まれる話だと、観ている方は可哀想と感じてしまうので、「嫌な奴が報いを受ける」くらいの仕上がりにした本作は正解だったのかもしれません。
呼び出されてこの喜劇に参戦するジュストが、常識人ポジションを取っているのも絶妙なバランスです。
コンパクトに展開するコメディ
一夜の出来事としては信じられない密度の展開が繰り広げられますが、
空間的にはほとんどピエールの自宅を出ることなく話が進みます。
これだけの喜劇を一つの家の仲で引き起こすなんて凄いと感じたのですが、
そもそもこの映画の原作は舞台演劇なのだそうです。
映画の表現は、空間の縛りというものから大抵無縁に展開しますが、舞台演劇の場合は様々な制約がある中で、壮大なストーリーや長い時間に渡る出来事を表現していること、その凄さを間接的に実感しました。
派手なところはないけれど、喜劇が喜劇を呼ぶ前後のつながりや、ピニョンのキャラクターによってしっかり笑える展開になっているところが秀逸です。
おわりに
おそらくは仕事もそれなりに成功し、妻との家庭も築いて人生順調だったピエールに突然降りかかる災難の数々が、ピエールには申し訳ないけど笑いを誘います。
文化的背景や知識を問わず、その場の展開を楽しんで笑うことのできる、素朴だけど完成度の高いコメディです。
小さいおっさん・ピニョンの巻き起こす波乱の数々に目を奪われつつ、ピエールを生温かい目で見守るのが良いかと思います。
短いですが、今日は此処まで。