本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『ハクソー・リッジ』

珍しくリアルタイムで観た映画のレビューをば。

直前まで観に行こうか迷っていましたが、結論から言うと心から観て良かったと思いました。

 

 

あらすじ

良心的兵役拒否者のデズモンド・ドスは、兄を始めとした町の若者が次々に志願するのを見て、自身も入隊を志願。

陸軍に入るものの、宗教的信条ゆえに武器に触れることを一切拒否した。

第一次世界大戦を戦った父のとりなしで不名誉除隊は避けられたものの、全く武器を持たずに激戦地・沖縄へ赴任することになる。

配属された場所は、急峻な崖地からハクソー(弓鋸)・リッジ(崖)と呼ばれる地。

次々と命が消えていく有り様に圧倒されつつも、彼は衛生兵として命をかけて人を救う。

実在の人物デズモンド・ドスや、その周囲の人々が登場するストーリー。

 

汝、殺すなかれ

デズモンドは父が暴力を振るう家庭に育ちますが、母が言い聞かせた聖書の教えを固く守っていました。

モーセの十戒の一つ「汝、殺すなかれ(Thou shalt not kill)」です。

国の危機にあたり自分も人の役に立ちたいと入隊し、衛生兵に志願した彼ですが、ライフルの訓練をしなければ衛生兵にしないと言い渡されます。

軍隊は人を殺すことが仕事であるのに、

自分も武器を取らなければ何も守れないのに、

仲間を殺しに来る者を前に手を拱いているつもりか、と上官に諭されます。

それでもあくまで武器を取らず、「人と人が殺し合う戦場で、一人くらい命を助ける者があってもよい」と主張しました。

懲罰を受けても、仲間から殴られても銃に触れない彼に驚愕しか覚えませんが、後に彼がその信念を貫く理由も明らかになります。

感情的にならず、それが自分の信念であり、自分にとっての真実だから、と淡々と話す姿が印象的でした。

 

命をかけた戦いとは

 

紆余曲折を経て、デズモンドは武器を一切持たない衛生兵として沖縄へ向かいます。

連隊の仲間とともに前線ハクソー・リッジへ配属されました。

そこは敵も味方もなく命が次々に消えていく場所でしかありませんでした。

命を顧みず突撃してくる日本兵への恐怖に連隊の仲間たちも圧倒されますが、

デズモンドは衛生兵として負傷者のもとに迷わず駆けつけ、冷静に処置をします。

一度は日本軍の拠点となっていた壕を占拠するものの、敵の巻き返しに遭いハクソー・リッジからの撤収を強いられた連隊。

次々に仲間が失われることに苦悶したデズモンドは、崖の縁で絶望的な気持ちを持って「一体自分には何ができる?」と神に問いかけます。

そして「わかりました」と呟くとともに戦場へ戻って行きました。

崖にかけた縄梯子をつたって総員退却したあと、なぜか時間が経っても崖の上から次々に下ろされてくる負傷者たちに米軍側も気付きます。

日本兵が巡回し、生きている米軍人に留めをさして回る中で、デズモンドが奔走し怪我人を救出していたのでした。

ロープワークを駆使して崖の縁から怪我人を下ろし、掌がぼろぼろになりながらも「あともう一人救わせてください」と呟き、何度もデズモンドは戦場に戻って行きました。

 

仲間たちの変化

彼は武器こそ持ちませんでしたが、命を懸けて戦うことで何人もの人を救いました。

最初はデズモンドを臆病者としか見ていなかった仲間や上官も、彼が戦場で淡々と人を救う姿を見て考えを変えています。

ラストシーンでは、ハクソーで戦った人々のインタビューが収められており、実際にその場にいた人たちの言葉を聞くことができます。

 

日本側の描写

戦場の日本兵は、反対側からデズモンドたちを攻撃してくる存在でしかないので、当然人間としての描写はほとんどありません。

しかし、デズモンドたちの連隊より前にハクソーに入った軍人が暗い顔でThey are animals.と呟いています。

自らの命を捨ててでも襲い掛かってくる相手の恐ろしさを端的に表していました。

戦闘の場面では、米軍側にも次々に死者が出ますが、日本軍側もばたばたと人が死んでおり、敵も味方もなく命が奪われる場所であることを淡々と示していると感じました。

また、ハクソー・リッジ上の原野が灰色の焼け野原になっていることは、地形が変わるほど砲弾が降り注ぎ、荒廃した沖縄の状況を想起させます。

日本人の立場から見ることで、特に理不尽・不快に思うことは私はありませんでした。

挙げるとすれば、米軍側の使う火炎放射器と言う武器の残虐さは実感せざるを得ません。

だからと言って、他の武器が残酷さを持っていないわけでは勿論ないのですが。

全体的に観れば、戦場から心身が傷つかずに帰ってくることなど誰にもできないことが、比較的ニュートラルに表現されていたと思います。

 

おわりに

心から観に行って良かったと思った映画です。

戦場での人間の救われなさ、善も悪もなく砲弾が降り注ぐ様子などは、映画館で観た方が絶対に実感できますので、一人でも多くの方に観ていただきたいです。

殺し合いの前では綺麗ごとは無力かも知れませんが、綺麗ごとでなく命がけで人を救った人間の話でした。

 

  

 

ハクソー・リッジ (オリジナル・サウンドトラック)

ハクソー・リッジ (オリジナル・サウンドトラック)

 

 

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