映画『エイミー』
初めてオーストラリアの映画をご紹介します。
小さな女の子が主人公の映画『エイミー』のレビューです。
「子どもを主人公にすれば素人は泣くと思ってるんだろう!?」と言った人をバッサバッサ倒してきたであろう本作は、お気に入りの作品の一つです。
「新しいスタート」の項目から核心ネタバレになりますので、観ていない方はご注意を。
あらすじ
エイミーの父で人気ロックスターのウィル・エンカーは、ステージ上の事故で感電死していた。
父親の死を目撃して以来、エイミーは何も聞こえず、何も話せなくなってしまう。
エイミーが学校に行っていないことを追求する福祉局から逃れ、都会に引っ越したエイミーと母タニア。
新しい家の近所は一癖ある人だらけだったが、売れないミュージシャン、ロバートの弾き語りになぜかエイミーは反応を示し、話せなくても歌うことはできるとわかる。
もがく母子の姿
父ウィルを喪ったエイミーとその母タニアは、喪失からなかなか立ち直ることができませんでした。
序盤のエイミーはまったく笑いませんし、タニアの表情も余裕がなく強張っています。
突然のウィルの死はあまりに衝撃が強かったことが容易に見て取れます。
そして、タニアとエイミーの2人も、エイミーが言葉を失ったことからなかなか繋がれません。
お互いを愛していないわけではないのですが(いまや文字通り唯一無二の家族でもあります)、内面を共有できない寂しさがあるように見えました。
家族をもう一度つなぐもの
ロバートの歌に反応し、一緒に歌い出したエイミーは、その後歌うことで他の人ともコミュニケーションできるようになりました。
歌を通してもう一度自分以外の人と繋がれたわけですが、とりわけ小さな子にとって重要な世界である家族とのつながりも取り戻せました。
お父さんを喪った時間を共有していても、言葉で話せなかった母とのつながり、
そして、死で断ち切られてしまったお父さんとのつながりです。
生前のウィル・エンカーとエイミーが一緒に歌っている場面があり、エイミーにとって歌は少なからず明るい思い出と結びついているものです。
それが彼女の心をもう一度外の世界に連れ出してくれたのかもしれません。
母の前でもずっと閉じられていた心が開き、亡くなった父ウィルの記憶と前向きに向き合う準備ができたと言えます。
新しいスタート
ロバートの歌に心を開いてくれたエイミーですが、タニアもまたロバートの優しさに触れ次第に親しくなって行きます。
止まっていた時間が動き出したように、2人は新しい生活を始めることができ始めたかに見えました。
しかし、田舎の家でタニアとエイミーを追ってきた福祉局が再びやってきたため、母と離されるのを嫌ったエイミーは脱走。
彼女を探すタニアと、エイミーかかりつけのカウンセラーは野外コンサート会場に辿り着きます。
何とかエイミーを見つけ出したのですが、彼女が父の死を目撃した日以来、心の奥に閉じ込めていたトラウマが明らかになりました。
エイミーは、ウィルが感電死したのは、ステージ上で自分が近づいて行ったために起こった事故だと思い込んでいました。
しかし、カウンセラーが丁寧に記憶を辿らせ、感電事故の瞬間にエイミーはタニアの元にいたことを思い出させます。
彼女は父の死に何の負い目も感じる必要はありませんでした。
激しい涙とともに今まで抱えていた苦しい思いを吐き出すエイミーを、タニアがしっかりと受け止めていました。
人間の再生
エイミーが大人たちの助けでトラウマを克服し、涙を流す場面は観ながら号泣してしまいました。
レビューを書いている間にも思い出し泣きしてしまったくらい。。。
同時に、序盤のエイミーとタニアの、「2人きりで隠遁しているけれど、お互いひとりぼっちに見える」感じはこれが理由だったのかと納得しました。
子どもがメインロールのドラマや映画では、
子どもが大人を元気にする!
大人同士を結びつける!
なぜなら純粋だから!
みたいな安直な展開がありそうで敬遠しがちですが、この映画は全くそれに当てはまらないと言えます。
本作でエイミーは、大人以上に繊細で傷つきやすく、大人の歌の助けを借りて回復し、自分の内面に抱えていた罪悪感をついに解放する人物です。
悩みを持った1人の人間としての姿を描きつつ、1人の子どもとして愛を求めていることも忘れられていません。
エイミーへの視線が真摯で優しい映画でした。
おわりに
結局主人公子ども作戦の術中にはまってるじゃないか、と言われたら言い返しようがありませんが、とりあえず大好きな映画の一つです。
エイミーとお父さんが歌う曲『You and me』も好きになりました。
エイミーが主旋律で、お父さんがコーラスなのも愛を感じます。
辛い記憶を克服する勇気をもらいたいとき、