映画『ローマの休日』
『ティファニーで朝食を』に続き、オードリー・ヘップバーン主演の名作映画をご紹介します。
有名すぎてネタバレするのもいまさらですが、念のため書いておくとネタバレします。
あらすじ
ヨーロッパのとある国の王族・アン王女が親善旅行でローマを訪れる。
イタリア以外の各国でも盛大な歓待を受けてきた彼女だが、毎日厳重にスケジュール管理されており、息をつく暇もない。
自由に生きることのできない人生に失望していた王女は、夜中に意を決して寝室から脱出し、ローマの町中に繰り出す。
しかし、慣れない飲み方をして酔いつぶれてしまい、アメリカの新聞社の記者ジョー・ブラッドリーの部屋に転がり込むことに。
当初は困っていたブラッドリーだが、目の前の女性の正体がアン王女だと気付くと、スクープを取るためにあれやこれや考え始める。
ところが、彼自身も予想しなかったことに、ローマ市内でアンと一緒に過ごすうち互いに特別な感情を覚えるようになるのだった。
王女が市井に降りるとき
若く美しいアン王女は、何もかも管理され自由にできない生活に鬱屈した想いを抱えています。
夜中にヒステリーを起こし、侍女や侍医に当たり散らしてしまうほど。
酔いつぶれたのも日頃のストレスの表れなのでしょう。
グレゴリー・ペック演じるブラッドリーが「さあ帰るよ」「どこに住んでいるんだ」と話しかけても全く会話が成立しません。笑
正直、此処までの場面では、「自分探しの終わっていない若い女性」と言う像が『ティファニーで朝食を』のホリーと同じように見えて、ヘップバーンの演技力に疑問を覚えざるを得ませんでした。
しかし、翌日の真っ昼間まで滾々と眠り続けた後に目をさまし、ローマ市街へ出て活き活きと動き回る彼女は、ホリー・ゴライトリーとは別の、無邪気な王女と言う人物像を見せてくれます。
ブラッドリーの家を出るときは恐る恐る通りを歩いていたのに、スペイン広場に着くころには意気揚々と道を横切っているところが印象的です。
その後、ブラッドリーに「気ままに一日を過ごしてみたいの。ウインドーショッピングしたり、カフェでひと休みしたり」と話すところで妙に切なくなってしまいます。
普通の女性にとっては当たり前の休日が、アンにとっては非現実的なものだと実感してしまうためです。
ブラッドリーはスクープ目当てではありますが、アン王女の要望に応えてローマ市内を案内してあげます。
真実の口や、コロッセオなど、ローマの名だたる観光地が次々に登場します。
王女が玉座に戻るとき
天真爛漫にローマの散策を楽しむアンと、紳士的に彼女をエスコートして特別な思い出づくりに協力するブラッドリーは、短い1日を過ごすうちに互いに惹かれあいます。
アンを連れ戻そうとする秘密警察の手をかいくぐり、辛くもブラッドリーの部屋に帰ってきますが、2人ともずっと一緒にいられないことは分かっていました。
別れの言葉の代わりにきつい抱擁を交わして、アンは滞在先の宮殿に、ブラッドリーは自室に戻ります。
翌日、王女は記者会見に臨み、記者団のなかにブラッドリーの姿を見つけます。
一緒にローマを案内してくれたアービングもそこにいました。
驚く彼女ですが、ブラッドリーの遠回しな発言から、彼らがアンの秘密の休日を暴くつもりはないことを知ります。
記者の一人から「外遊のなかで一番印象に残った場所は」と問われ、「何をおいてもローマです」「ローマでの記憶は生涯忘れることはないでしょう」と答えるところでは、目頭が熱くならずにはいられません。
アンにとって、ローマでのつかの間の恋が、何よりも特別な思い出であることをブラッドリーに伝える術はこれしかないのです。
そして、秘密警察との大捕り物を演じた時の、アンの活躍を収めた写真を渡すアービング。
ナイスお茶目。
アン王女とブラッドリーの恋は、此処で終わりを迎えます。
この記者会見の場面の抑えた描写と台詞こそが、本作をドラマチックに締めくくり、不朽の名作たらしめたのだと強く思います。
おわりに
アン王女にとってこの恋は、大切な思い出になっただけでなく、自立した一人の人間そして立派な王女になる第一歩でもありました。
彼女をあやすように接していた侍女や侍医たちに「もう結構です。さがってよろしい」と言える威厳を身につけた姿は胸を打つものがあります。
あらすじだけを聞くとシンプルで、目新しいものはない作品にも思えますが、観ているうちにだんだんと王女やブラッドリーに共感してしまいます。
個人的には、グレゴリー・ペックの飾り気のない紳士ぶりが印象に残りました。
心温まるドラマチックなラブストーリーをお探しの方におすすめです。