映画『桐島、部活やめるってよ』
話題になった朝井リョウの小説を映像化した邦画作品のご紹介です。
原作小説は、小説すばる新人賞を受賞した、朝井リョウ氏のデビュー作で、短編5編のオムニバス形式。
原作は未読ですが、短編の集合だったことがわからないくらい、自然に統合された長編として成立しています。
有名どころとしては神木隆之介と橋本愛が出演していますが、2人とも変に目立ちすぎず、かつしっかり印象には残る良い俳優さんだなあと感じました。
余すところなくネタバレしながらお送りします。
あらすじ
ある冬の金曜日。
2年生の面々は、変わりばえのない放課後を過ごしていたが、そこへ男子バレー部のエース桐島が退部するというニュースが飛び込んでくる。
桐島は退部の理由を彼女の梨沙や親友の宏樹をはじめとした周囲に一切告げず、その後学校も欠席してしまう。
男子バレー部の面々、桐島の彼女や友人は、桐島の退部に大きく動揺し、理由や背景をつきとめたいという波紋は生徒たちの間に広がっていく。
スクールカーストの頂点にいた桐島と直接つながっている生徒たちがざわめく一方で、カースト下部にいる映画部の前田たちもまた、 ゆるやかにその影響を受けていくこととなる。
高校生たちの群像劇
桐島は何をやってもできるタイプの生徒だったようで、クラスでも目立つ存在の男女たちに取り巻かれつつ、バレーボール部内でも一目置かれる存在だったと言うのが、登場する生徒たちの台詞から窺えます。
男子バレーボール部ではリベロのポジションで存在感を発揮し、多分成績なんかも悪くはないのでしょう。
ギャルっぽいけどスタイルが良くて美人な梨紗という彼女もいます。
桐島の部活終わりを待って一緒に帰るために、梨紗はいつもベンチで時間を潰し、宏樹たちはバスケをしています。
片想いしている宏樹がバスケするのを眺めるために、わざわざ屋上に行って練習していた亜矢は、桐島の退部で宏樹たちがバスケをしなくなってしまい、練習場所を変えざるを得なくなります。
桐島と普段かかわりのない映画部の前田たちは、自分たちが本当に撮りたい映画を撮るために校内の様々な場所で撮影をしていますが、たびたび亜矢と鉢合わせしてそのたびに交渉。
最終的には桐島の姿を目撃して屋上になだれ込んでくる取り巻き達と一戦交えることになります。
連絡のつかない桐島を追って、彼の周りの生徒たちがざわめく中で、同じクラスや学年にいる他の生徒たちの日常にも波風が及んでいく、という構成になっています。
桐島は結局
桐島は結局、他の生徒たちの前で退部の理由を語ることはありません。
彼女の梨紗も、親友の宏樹も、リベロ二番手の風助にも、桐島の真意はわからないまま映画が終わります。
唯一決着じみたものがあるとすれば、宏樹の心境に変化が生じたことでしょう。
彼は野球部に所属し、一番上手い選手でありつつも、まともに練習や試合に顔を出さない生徒です。
しかし、桐島の「退部」を巡ってざわつく周りを目撃したことで、学校生活に占める部活の比重の大きさを実感したのではないでしょうか。
宏樹と前田
屋上での一戦のあとに少しだけ言葉を交わした前田から、映画に対する思いを聞き、夢中になれるものがある彼から宏樹は何かを感じ取ったようです。
高校生活において、知っている世界は学校の中だけという生徒はまだまだ多いはず。
その小さな世界で夢中になれるものがある前田のような生徒もいれば、対象は目の前にあるはずなのにスイッチが入らない宏樹のような人物もいます。
その差はひとえに「好きなもの」があるかどうかと、「今しかできないこと」の貴重さを心の底で感じ取っているかどうかに依るのだと思います。
宏樹は野球が嫌いではないのだろうけど、「プロ野球選手を目指すわけじゃないし」と冷めた思いが支配的なようです。
しかし「映画監督にはなれなくても映画が好き」という前田と話して、少なからず心に響くものがあった様子。
学校に通っている間は、受験勉強などしなければいけない時もありますが、概して好きなものに打ち込む時間も与えられています。
お金にならなくても、将来に直結しなくても、他人にとってメリットがなくても、好きなことに打ち込むのを肯定されている時間。
好きな気持ちに従って一生懸命やってみれば良いじゃないか、と宏樹が思えるようになっていたらいいなあと思います。
高校は小さな世界ではありますが、同世代の多感な生徒同士で与え合う影響と言うのは、実際本人にも知りえない大きさがあります。
そのこともさりげなく表現している映画でした。
おわりに
冒頭で名前を挙げた2人の他にも、東出昌大、山本美月、松岡茉優など、この後知名度を挙げていく傑出した若手ぞろいと言うのも本作の特徴です。
色々と卒がないけど夢中になれるものがない宏樹、美人だけど桐島に本心を打ち明けてもらえず悩む梨紗、誰にも本気で向き合わず相手からも本気で向き合われない沙奈など、どこかにいそうな人物をそれぞれ好演しています。
夢中になれるものはあるけど、顧問からその個性を潰されそうなところで抵抗する前田も忘れちゃいけません。
キラキラしすぎない青春映画をお探しの方におすすめの一作です。