本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『おくりびと』

季節感ゼロですみませんが『おくりびと』をご紹介します。

おそらく本来は冬に観る映画です。

主な舞台は主人公の故郷山形県で、冬の景色が多く出てきます。

本作は内外で高い評価を受け、アカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞しています。

盛大にネタバレでレビューを書きます。

 

あらすじ

 プロのチェリストである小林大悟は、新しいチェロを買って間もなく、職場であるオーケストラが解散するという憂き目にあう。

チェロを売って妻とともに故郷の山形に戻り、新しい生活を始めることにした大悟。

そして、就職先を探していた彼はひょんなことから納棺師に採用されるが、仕事内容を知った妻や周囲の理解はなかなか得られない。

しかし、大悟自身は死者の見送りと旅立ちを手伝う重みを実感しながら、この仕事に意味を見出し始めていた。

 

人間関係の終点と旅立ち

大悟はNKエージェントの「旅のお手伝いをする仕事です」という求人を見て面接に行ったところ、旅行代理店と思っていた業務内容が、納棺であることを知らされます。

NK=納棺でした。

仰天するものの、社長から即採用と言われるとOKしてしまいます。

初っ端からきつい仕事(夏場に孤独死し、何日も経って発見された老人の納棺)があって打ちひしがれるも、誰もが迎える死という出来事に対して真剣に向き合うようになります。

 

英題"The Departure"は原題と意味は違うものの、要点を捉えたタイトルだと思います。
死は生きている人との人間関係の終点であり、死後の世界への旅立ちです。
死を境に、死んだ方と生きている人の人間関係は変わってしまいます。

しかし、葬儀の瞬間にほんの少し立ち会う納棺師の配慮で、死者とのお別れを悲しむ人に少しの救いが生まれることもありました。
化粧の仕方や身に付けるものなど、小さなことでも、今までに見られなかった姿を見せ、見送る人の気持ちを変える何かがあるようです。
そのことに気づいた大悟は、仕事への見方を変えていきます。

 

理解されない仕事

意味を見出すのに大悟本人より時間がかかったのは、妻や昔からの友人でした。

妻には生理的な嫌悪感から「けがらわしい」と拒絶されてしまい、友人からは「死んだ人間で飯食ってんのか」ときつい言葉を投げかけられます。

しかし、妻ともども通っていた銭湯の女主人であり、友人の母であるツヤ子が亡くなった時、大悟が納棺を行います。

生前のツヤ子のことを考えながら丁寧に納棺をする大悟の姿を見て、妻も友人も大悟の考えを理解したのでした。

 

父との関係

終盤で大悟は長らく絶縁していた父の訃報を聞きます。

二度と会わないと決めていた父の遺体を納棺したとき、彼がずっと思い出せなかった父の顔が記憶の中にぴたりと嵌りました。

余所の女と駆け落ちしたはずの父が独りで暮らしていたこと、記憶の奥に埋もれていた優しい表情が思い出せたこと。

彼の死によって、大悟は何十年ぶりかに父に引き合わされ、長年蟠っていた関係がほどけていきました。

妻のお洒落した顔もまともに見ていなかった夫、心配しつつも母の楽しんでいる仕事を辞めて欲しいと言っていた息子など、これまでも納棺師としての大悟が死に立ち会うことで、死者との人間関係に最後の変化をもたらしてきました。

大悟は自分と父との関係性も、納棺を通じて変えることができました。

死は重大な出来事であるからこそ、お別れの場に人を引き寄せます。

そうしたお別れの場でしか迎えることのできない変化もまた存在するのかもしれません。

 

おわりに

人が死ぬときに人間は何を考えるのか、丁寧に描かれた映画でした。

葬儀は悲しい別れの場ではあるけれど、同時に死者の姿を見る最後の場所です。

遺族や死者本人にとって重要な場に立ち会い、お別れと旅立ちの手伝いをする納棺師という仕事について、純粋に尊敬の念を覚える作品でもあります。

しみじみ感動できる邦画をお探しの方におすすめしたい作品です。

 

  

 

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